『容疑者Xの献身』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー(容疑者エックス) | シネフィリー

『容疑者Xの献身』今更レビュー|「ありえない」その口癖が悲痛に響く

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『容疑者Xの献身』 

東野圭吾の直木賞受賞の大ヒット原作、福山雅治演じる天才物理学者ガリレオの映画化第一弾。堤真一の怪演が冴える。

公開:2008 年  時間:128分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:     西谷弘
脚本:     福田靖
原作:      東野圭吾
       『容疑者Xの献身』
キャスト
湯川学:   福山雅治
石神哲哉:  堤真一
花岡靖子:  松雪泰子
花岡美里:  金澤美穂
内海薫:   柴咲コウ
草薙俊平:  北村一輝
富樫慎二:  長塚圭史
工藤邦明:  ダンカン
葛城修二郎: 益岡徹
柿本純一:  林泰文
栗林宏美:  渡辺いっけい
弓削志郎:  品川祐
城ノ内桜子: 真矢みき

勝手に評点:4.0
(おススメ!)

(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

あらすじ

顔を潰され指を焼かれるという残忍な殺人事件が発生。内海刑事(柴咲コウ)は天才物理学者のガリレオこと湯川学(福山雅治)に助けを求める。

だが、被害者につきまとわれていた元妻・花岡靖子(松雪泰子)の隣人として捜査線上に浮かんだのは、湯川の大学時代の友人で天才数学者の石神哲哉(堤真一)だった。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

これは原作に負けない出来の良さ

福山雅治が演じる、ガリレオの異名をとる天才物理学者・湯川学のミステリーシリーズ。テレビドラマで人気に火がついたが、2022年に新作『沈黙のパレード』が映画化されるとあって、それまでに映画化された二作を復習しておくことにする。

まずは映画化第一弾の本作。直木賞<このミス>第1位をはじめ、数々の栄冠に輝いた、東野圭吾の超人気原作の面白さと完成度は、今更語るまでもなく、みなさんご存知の通り。

その映画化はハードルが高そうだが、本作はその大物原作の魅力を損なうことなく、そこに映画ならではの味付けを加えることに成功している。

監督の西谷弘『ガリレオ』をはじめCX系のドラマを多く手掛けた人物で、映画監督としては作品の大半を福山雅治か、『県庁の星』の織田裕二と組んで撮っている。

私が観た西谷弘監督作品では、本作が今のところベストだ。数ある東野圭吾原作の映像化作品の中で、映画なら本作、ドラマなら綾瀬はるかと山田孝之の『白夜行』と阿部寛の『新参者』が同順位で一位かなあ。

(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

ガリレオ、初長篇ならではの重厚感

話がそれた。探偵ガリレオは、本作以前は短編小説の中だけで難事件を解決しており、それを一話完結でドラマ化してきた。

「あり得ない」「実に面白い」といった決め台詞と、中指でメガネの中央を押し上げる福山のポーズで軽妙なエンタメ・ミステリーとなっていた。

当初原作では彼のバディは大学のバドミントン部で一緒だった草薙刑事(北村一輝)のみだったが、ドラマはその役割を内海薫(柴咲コウ)という女性刑事に託した。

結果、絵的にも華やいだ雰囲気になり、男女バランスの良さが話の広がりにも繋がったことから、内海薫というキャラは、のちに原作シリーズにも登場することになったと記憶している(若干不正確かもしれない)。

東野圭吾による原作は、シリーズとして初長篇であり、これまであまり感情を表に出さずクールに淡々と物理学を応用して事件解決を手伝ってきた湯川が、はじめて人間くささを見せる

それもそのはず、今回の殺人事件には、湯川がかつて大学で出会い、天才と認め理解し合えた数学科の石神(堤真一)が、容疑者として関わっているのだから。

今回、湯川にとって真実に近づくことは、彼の数少ない貴重な友人を失うことを意味する。だから、推理が進むにつれて、彼の表情は悲痛になる。

普段ドラマで見られる陽気なガリレオ先生の姿は、冒頭のド派手な爆破実験を最後に、見納めになる。得意のポーズも決め台詞も封印だ。厳密には「まさか、ありえない」とは言っているけど、相当深刻な場面なので、普段とは口調が違う。

(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

スムーズでテンポの良い導入部

映画でも原作でも、事件が起きた時点で多くの情報が開示されるので、そこまではネタバレにはならなものとさせていただく。

水商売をやめて弁当屋を始めた花岡靖子(松雪泰子)のアパートに、別れた夫(長塚圭史)が金をせびりにくる。

あまりの横暴に、中学生の娘・美里(金澤美穂)が夫の後頭部を鈍器で殴り、もみあううちに母子で夫を絞殺してしまう。

その物音を聞いて、ドアをノックしたのが隣人の石神だ。頭の良い彼は、部屋を一瞥しただけで、事の次第を把握する。そして、母子に協力を申し入れるのだ。

ダルマの石神と言われたこの男は、家庭の事情もあり大学での研究をあきらめ、高校の数学教師になっている。

無口で不愛想なこの大男は、警察の捜査方針も手に取るように分かるのか、彼の指示通りにアリバイを作り、そして警察の質問に答える母子たちには、警察も攻めあぐねている。

石神の言った通りに動き、事実を答えるだけで、なぜ自分たちは捕まらずにいられるんだろう。母子は不思議に思うばかりだった。

(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

圧倒的インパクトの堤真一

フランケンシュタインのように不気味でヌボーッとした感じで佇む石神、堤真一がいい。この不気味さは『39 刑法第三十九条』(森田芳光監督)の犯人役の怪演を思い出させる。

風貌も相当イケてない感じにアレンジしている石神は、颯爽とコート姿でダンディに決める湯川と並んで歩くと実にみすぼらしい。だが、本作の面白さと緊張感は、この堤真一の石神で持っている。

テレビシリーズの主役は勿論福山雅治に違いないし、本作も映画初主演なのは事実だが、こと観終わった印象に関しては、主役は堤真一と私は言いたい。

(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

練りに練られたストーリー

映画も原作と基本的には同じストーリー展開であり、東野圭吾の優れた物語構成力により、はじめに主な情報は提供されているのに、なかなか謎は解けない

というか、あまりに自然に話が進んでいくので、何度観ても何度読んでも、最後に明かされる真実に感服してしまう。厳密には、全ての情報が開示されていないから、自力で解くことができないのかもしれない。

解けそうで解けないようにしてあるのなら、本作の石神の策と同じということか。

観返してみると、原作とは異なるアレンジがいくつも見つかる。小説よりもテンポがいいのもさすが映画だ。顔が潰され、指紋が焼かれた河原の死体。これでは被害者が特定できない。

難儀するぞと思った捜査陣、だが乗り捨てられた自転車には指紋があり、盗難届から日時が絞り込まれ、意外とあっさり被害者の身元が判明。それが富樫慎二(長塚圭史)。そして、容疑者として、前妻の靖子の名前があがる。ここまでの流れはスムーズだ。

キャスティングと演出について

殺されるのが長塚圭史、捜査本部で偉そうにふるまう警部に林泰文。まるで大林映画の配役のようで面白い。

ドラマの劇場版となれば、レギュラー総動員したくなるのは分かるが、大学研究室の栗林助手(渡辺いっけい)や捜査課の弓削刑事(品川祐)、監察医の城ノ内桜子(真矢みき)などは、こと本作に関しては無理に押し込む必要はなかったように思う。

一方で、湯川と石神の関係の描き方は原作以上に深みがあったのではないか。

キャンパスでの二人の出会いのシーンでも登場した四色問題、留置所の壁を使って石神が探求を続けるとは思わなかったが、あの色鮮やかな頭の中の光景は映画ならではの表現でとても良い。

そして、山岳部出身の石神に誘われ、二人で登る雪山で吹雪の中遭難しかかる湯川、ここは映画のオリジナル場面。

真相に近づきすぎて、石神には危険な存在の湯川を、そのまま遭難死させるのかと思えば(なわけないが)、寸前で石神が見捨てずに救う。

愛すればこそ、自分の論理的思考で花岡靖子と娘を救おうとする石神。事前に相談されたのなら、殺人などという非合理的な手段は選ばない。事後に協力しているのだろう。殺人の方が、彼にはやさしい

石神がストーカーを装って靖子に書いた手紙。いざというときには、これを警察に渡しなさい。だが、それをすれば、自分たちは助かるが、石神は捕まってしまう。

容疑者Xは、どこまで献身的なのか。訪れた草薙(北村一輝)らに手紙を手渡す母、隣の部屋で口をおさえて泣き崩れる娘。この場面もまた、原作以上にドラマティックだ

(C)2008 フジテレビジョン/アミューズ/S・D・P/FNS27社

幾何に見せかけて、台数の問題

本作はミステリーゆえ、最後のオチまでは語らないが、事件の真相とは別に、人生の悲哀を感じる終わり方となっている。

湯川が真相を突き止めた事件で、これほどまでにもの悲しい結末が他にあっただろうか。石神が人生を賭して守ろうとしたものを、湯川は暴いてしまう。

ちなみに、東野圭吾の最新刊『沈黙のパレード』では、湯川自身もこのことを後悔している発言をしているのが興味深い。

「私たちだけは幸せになるなんて、そんなの無理です」

泣き崩れる靖子。親友のために真実を明らかにした湯川だったが、その結果、石神は力を落とし取調室の床に座り込み咆哮している。

エンドロール、柴咲コウ「最愛」が流れるなかで、隅田川の川底から遺体が発見される。

「仮説は実証して初めて真実になる。そうだろう、湯川」

湯川の推理を最後まで認めなかった石神だったが、ついに証拠があがったのだ。こうして、幾何に見えて実は関数の問題も、湯川に解かれることになった。

最後まで緊張感を持続し、いつもの軽妙な湯川に戻さなかったことは、好判断だったと思う。

本作はフジテレビの所属監督が撮った、しょせんドラマの映画化となめてかかってはいけない、重厚感を感じさせる奇跡の一本なのだ。