『ゴールデンスランバー』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ゴールデンスランバー』今更レビュー|伊坂幸太郎原作映画の到達点

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『ゴールデンスランバー』

伊坂幸太郎原作といえばこの人ありの中村義洋監督が撮った、エンタメ重視犯罪巻きこまれ系サスペンス。

公開:2010 年  時間:139分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本:    中村義洋
脚本:       林民夫
鈴木謙一
原作:       伊坂幸太郎
        『ゴールデンスランバー』

キャスト
青柳雅春:     堺雅人
樋口晴子:     竹内結子
森田森吾:     吉岡秀隆
小野一夫:     劇団ひとり
キルオ:      濱田岳
佐々木一太郎:   香川照之
小鳩沢:      永島敏行
近藤守:      石丸謙二郎
宮城県警本部長:  竜雷太
岩崎英二郎:    渋川清彦
保土ヶ谷康志:   柄本明
轟静夫:      ベンガル
樋口伸幸:     大森南朋
凛香:       貫地谷しほり
井ノ原小梅:    相武紗季
鶴田亜美:     ソニン
矢島:       木下隆行(TKO)
青柳照代:     木内みどり
青柳平一:     伊東四朗

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会

ポイント

  • 伊坂幸太郎の小説としても、原作映画としても、エンタメとして本作はひとつの頂点だと思う。
  • 中村義洋監督の手にかかれば、伊坂原作ものは安心の充実感と満足度。キャスティングも理想的だと改めて感心。竹内結子が眩しい。

あらすじ

野党初となる首相の凱旋パレードが行われている仙台で、ラジコンヘリ爆弾を使った首相暗殺事件が起きる。宅配ドライバーの青年・青柳(堺雅人)は旧友に会ったあと、首相暗殺犯に仕立て上げられていく。絶体絶命の中、青柳は友人に助けられながら逃亡を続ける。

今更レビュー(ほぼネタバレなし)

伊坂原作映画の頂点

伊坂幸太郎の同名原作の映画化。2018年に韓国でも映画化されているが、今回は原作に忠実に仙台を舞台にした中村義洋監督作品を今更レビュー。

伊坂幸太郎の原作の映画化はこの韓国版のほか、最近ではブラピ主演で『ブレットトレイン』でハリウッドでも撮られるなど人気があるが、現時点で映画としての出来の良さは本作がピカイチだと思う。

それはまず、本屋大賞やこのミス第1位などで高い評価を得たこの原作が、脂の乗っていた伊坂幸太郎が書き上げた当時のひとつの頂点であったこと。

社会風刺とミステリーと洒脱な会話、そしてエンタメ路線を融合させた原作は、文句なしに面白い。

勿論、伊坂幸太郎は以降も優れた小説を書きまくるわけだが、目指す路線は微妙に変わっており、大きなスケールで誰もが楽しめる娯楽小説としては、やはり本作に尽きる。

「お前、オズワルドにされるぞ」という展開からは、本家の米国でも『マリアビートル』よりこっちをリメイクしてほしかったのに。

本作はまた、伊坂原作の映画化では最も信頼のおける中村義洋監督がメガホンを取っていることも心強い。『アヒルと鴨のコインロッカー』(2006)に始まり、『フィッシュストーリー』(2009)、『ポテチ』(2012)と多くの伊坂原作を監督。

中村監督は、複数の短編をかけ合わせたり大きく構成を変えたりと、大胆にアレンジすることも多い印象だが、本作に関しては意外にもかなり原作忠実だ。原作の考え抜かれた構成を考えれば、これは好判断だったと思う。

勿論、時間的な制約からエピソードやキャラの割愛はいくつかある(模型ヘリの店主やとんかつ屋の主人、セキュリティポッドをメンテする若者等)。だが、基本構成はいじっておらず、そこに映画的な味付けが巧みになされている。

(C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会

オズワルドにされた青ヤギさん

本作の舞台は伊坂作品おなじみの仙台。釣り道具を持って繁華街を歩く主人公の青柳(堺雅人)を見て、町を歩く女性たちが目を留める。これは格好がおかしいのではなく、彼が地元ではちょっとした有名人だから。

宅配ドライバーの青柳は、かつてアイドル歌手・凛香(貫地谷しほり)を暴漢から救ったイケメン好青年として騒がれたことがあったのだ。

青柳は、学生時代の親友・森田森吾(吉岡秀隆)と久々に再会し、様子がおかしい森田にクルマの中で忠告される。

「お前、オズワルドにされるぞ」

折りしも町は仙台出身の金田首相の凱旋パレード。森田の予告どおり、爆破テロで大惨事となるが、警察は青柳が犯人とはじめから知っているかのように、彼に近づいては警告もなしに発砲する。

こうして、得体の知れない権力をもつ何か大きいものからスケープゴートにされた青柳は(だからヤギなのか)、命からがら仙台の町を逃げまくる。

(C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会

キャスティングの妙

改めて久々に観直すと、キャスティングのうまさに畏れ入る。豪華というだけでなく、的を得ているのだ。

主人公の青柳雅春堺雅人。この当時はまだ大河ドラマ『真田丸』での重厚感よりも、トラブルに巻き込まれた、どこか頼りない青年が似合う。彼がファミレスにひとりで座る姿は、『アフタースクール』(2008、内田けんじ監督)を思い出させる。

ちなみに堺雅人は、藝大の学生たちが撮った『ラッシュライフ』でも、伊坂作品屈指の人気キャラ・黒澤を演じているらしい(同作はあまりに酷評が多く、怖くてまだ手が出せていない)。

青柳の元カノ・樋口晴子役に竹内結子。ああ、明るく朗らかな彼女の顔を眺めていると、日本の映画界が失ったものの大きさを再認識する。ご冥福をお祈りします。

なお、竹内結子堺雅人は、中村義洋監督の『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009)でもメインを共演した仲。

(C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会

二人と大学時代に同じサークル仲間だったのが、森田森吾(吉岡秀隆)と後輩の小野一夫(劇団ひとり)

吉岡秀隆は伊坂作品にはウェットすぎる印象だったが、すぐに死んでしまうので、あの位の粘っこさで良かったのかも。学生時代の回想シーンも、彼ならではの存在感。

劇団ひとりは出しゃばらず後輩らしいポジション維持。俳優としても堂々たるもの。

(C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会

仙台で連続刺殺殺人で逃亡中のキルオには、伊坂原作映画のほぼ皆勤賞俳優といえる濱田岳。今では想像できないが、本作では身軽に動き回る若者。まったく怖くないサイコパス野郎なのが、逆に不気味。

青柳を追う警察サイドは佐々木一太郎(香川照之)を筆頭に、スナイパーの小鳩沢(永島敏行)、刑事の近藤守(石丸謙二郎)。県警本部長の竜雷太は雰囲気が『SPECシリーズ』っぽいけど、こっちが先行だった。

(C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会

香川照之堺雅人が敵対する関係は、以降も『鍵泥棒のメソッド』(2012)、ドラマ『半沢直樹』へと続いていく。今回初めて気づいたが、最後にちょっとした役で登場する滝藤賢一も、『半沢直樹』でブレイクする前に、本作でこの二人と繋がっていた。

その他、宅配業者のロックな先輩・岩崎渋川清彦、学生時代にバイトした花火工場の轟社長ベンガル、入院中の身で彼らに知恵を授ける老人・保土ヶ谷柄本明、そして青柳の父親に伊東四朗孤立無援の青柳の無実を何の疑いもなく信じてくれる人たちの配役が泣かせる。

Golden Slumbers LA Film Fest 2010

映画ならではの優位な点

中途半端に文章にしたところで、本作の物語の面白味は伝わらないので、内容紹介については断念するが、映画として原作よりも有利に働いた部分を挙げておきたい。

まずはタイトルにもなっている『ゴールデンスランバー』。言うまでもなくビートルズの曲名だ。

村上春樹『ノルウェイの森』同様、この楽曲の使用料はきっと相当高値なのだろうし、あまりにも有名な曲なので、むやみに使うと映画が負けてしまう。

だが、本作において同曲はその歌詞が意味を持つし、曲を流すよりも仲間たちが口ずさむことに重点が置かれているので、相応の効果はあった。それに実際聴かせられる分、原作よりも浸透度が高い。大きいサイズのi-podも、今では懐かしいアイテムだ。

あと、バッテリーを買うときに車種が分からない晴子がオートバックスで歌う「ひとり、それもいい~♪」の歌。

原作では歌詞まで登場しなかったはずだが、実際に「ちょっとうれしいカローラ」のCMソングを使用!これは良いアイデア。唐突に歌いだす竹内結子に女性店員が合わせるシーンは最高だ。

ちょっとうれしいカローラ

映像に関しては、打ち上げ花火が登場するシーンが、合成もあるとはいえ見事なものだった。花火は目と耳で楽しむものなので、さすがに小説とは臨場感が違う。

ちょっと難点もある

個人的には概ね大満足の本作だが、若干気になる点もある。首相への爆破テロに関するシーンは、パレードも含めイマイチ迫力とスケール感に乏しく、ニュース映像の処理も安っぽいのは惜しい。

原作を読んでいない観客にはどのくらい面白味が伝わっているのか。例えば、序盤の青柳(堺雅人)森田(吉岡秀隆)の早口の会話には、相当多くの情報量がふんだんに含まれている。予備知識なしでは、いきなり消化しきれないし、カット可能な会話もある(ファーストフード友の会みたいな)。

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また、佐々木一太郎(香川照之)と配下のスナイパー小鳩沢(永島敏行)のキャラ設定はちょっと遊びすぎだった気がする。普通に青柳を追い詰めるだけでも十分不気味なのに、交番前に護送車を停め、自首を促すのはやりすぎ。

小鳩沢が大きなヘッドフォンをしてショットガンを撃つのもふざけすぎだと思ったが、これは原作通りなのか。でも永島敏行が無表情でやると、どうにもコメディっぽい。

(C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会

終わりよければすべてよし

終盤、事件が一旦の終息をみたあとのエピソードは映画でも丁寧に描かれ、これはいずれも良かった。

サイドカーの日本一周から戻る山口良一、夫・岩崎英二郎(渋川清彦)の過去の浮気タレコミがあり蹴りを入れる妻(安藤玉恵)、脅迫されたのだと言い張る花火工場のベンガル、そして「痴漢は死ね」の書初め入り封書を郵便受けに見つける青柳の父(伊東四朗)

野暮なので詳細は説明省略するが、私の好きな最後の手紙のシーン、警察が郵便物を監視しており「こういう非難の手紙がくるのですね」と同情される会話が映画では省かれている。事情は伝わっただろうか。

とどめはデパートのエレベータ。ボタンを押す男の親指と、少女が推す花マルのスタンプ。鮮やかに終わる。当時、伏線回収の切れ味といえば、まずは伊坂幸太郎だった。そして最後は、お馴染み斉藤和義の歌で締めくくる。

ああ、伊坂エンタメ映画、ここに極まれり。