『天国の本屋〜恋火』 今更レビュー:願いはかなう、想いは伝わる

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『天国の本屋〜恋火』 

慈愛に満ちた笑顔、毅然な態度に溌剌とした動作。忘れられない竹内結子の魅力溢れる傑作ファンタジー。ぽっかりと空いた喪失感を、この映画が少しでも埋めてくれたらいいのに。たくさんの素晴らしい作品を有難う。

公開:2004 年  時間:111分  
製作国:日本

スタッフ 
監督: 篠原哲雄
原作: 松久淳・田中渉『天国の本屋』

キャスト
長瀬香夏子:竹内結子
桧山翔子: 竹内結子(二役)
町山健太: 玉山鉄二
ヤマキ:  原田芳雄
由衣:   香里奈
サトシ:  新井浩文
瀧本:   香川照之
マル:   大倉孝二

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

あらすじ

ピアニストの健太(玉山鉄二)は、ひょんなことからアロハシャツの店長・ヤマキ(原田芳雄)に天国に招かれ、「天国の本屋」でバイトをすることになる。

そこで、健太は偶然、憧れのピアニスト・翔子(竹内結子)と出会うが、彼女は生前の事故が原因で片耳の聴覚を失い、ピアノが弾けなくなっていた。

翔子は、健太の協力を得て、花火をモチーフにしたピアノ組曲『永遠』を完成させようと試みる。

一方、地上では、翔子の姪・香夏子(竹内結子・二役)が長らく途絶えていた地元の花火大会を復活させるべく奮闘。

だが、伝説の「恋する花火」を打ち上げられるただ一人の花火師・瀧本(香川照之)は、かつての暴発事故の責任を感じ、花火師を辞めていた。

レビュー(ネタバレなし)

天国は待ってくれる

お涙頂戴のファンタジーものかと思い、敬遠していたら、公開からだいぶ年月が経過してしまった。まさか、竹内結子の在りし日の姿を偲ぶ形で、本作を観ることになろうとは思わなかった。

彼女のファンの一人として、まだとても喪失感を埋められないが、これまで多くの素晴らしい作品をみんなに届けてくれた彼女に、感謝の気持ちをこめて、レビューを書かせていただく。

タイトルから想像されるように、天国にある本屋の物語だ。天に召された人たちを相手に、店員が本を朗読する。

寿命は100歳が基準点であり、その前に死んでしまった者は、100歳まで天上で暮らし、また下界に転生する仕組みらしい。

主人公の健太は死んだわけではないが、ピアノ演奏の仕事を解雇され、人生に絶望したところを、バイトとして連れてこられたようだ。そして天国で、かつて憧れだったピアニストの翔子に出会う。

死んでないけど天国に、というのはかの名作『天国から来たチャンピオン』を思わせるが、別に間違って召されたわけではない。

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竹内結子という女優

天国でピアノ演奏を通じて親しくなっていく二人の話と並行して、地上では、翔子の姪にあたる香夏子が、地元青年団の連中と花火大会の復活をめざし奔走する。

竹内結子の一人二役であるが、<静>の翔子に対して<動>の香夏子が登場してくるのは、観ていて安心する。

やはり彼女は清楚でおとなしい役よりも、躍動感にあふれて周囲の男どもにビシビシダメ出しするような活発な役のほうが、似合っていると思うから。(その意味では、いじられ系軽薄キャラの友人マル(大倉孝二)は、絶妙なポジション)。

それにしても、2003年から2004年に公開された竹内結子の出演作品は、この手の亡くなって生き返る系の映画ばかりだ

『黄泉がえり』では死人が帰ってくるし、『星に願いを』も再生もの。『いま、会いにゆきます』も死んだ妻が戻ってくる。

本作も同系列の作品と、固め打ちの様相。続くときには続くものらしい。

監督およびキャスティングのあれこれ

監督は篠原哲雄。本作は北海道ロケだが、同じ2004年公開の『深呼吸の必要』は沖縄ロケの映画。公開当時に観ただけだが、いまだによく覚えている、好きな作品。本作の書店員を演じた香里奈が主演。

出演者を竹内結子中心にみていくと、玉山鉄二とは『チームバチスタの栄光』シリーズで共演している、ちょっと記憶は薄いけれど。

また、花火師の香川照之と彼女の共演は、何といっても黒沢清監督『クリーピー 偽りの隣人』の印象が強い。本作で瀧本が暮らしているあばら家の薄暗い怪しさは、相当これに近いのだ。

更に、『ゴールデンスランバー』では竹内と香川が同じシーンに共演していたか記憶が曖昧だが、彼女は確か花火工場でバイトをしていたはず。花火打ち上げ会場のシーンなども既視感があった(本作が先行だけれど)。

新井浩文は、本作出演時にはまだ、その後に増えていく暴力的な陰のある役ではなく、由衣(香里奈)に好意を抱く純朴な若者サトシを演じている。広大な平原の一本道をサトシの三輪ミゼットが走るシーンが印象的だ。

そして、本屋の店長の原田芳雄は、そこにいてくれるだけで味わいがある。勝手にバイトとして健太を連れてきて、地上に戻すときも勝手気ままな店長だが、その強引さが彼のキャラクターにしっくりと来る。

映画の中の店長と翔子のように、お二人とも天国で安らかな日々をお過ごしください。

レビュー(ネタバレあり)

メインの恋人同士はどこに

本作で意外だったのは、天国で親しくなっていく健太と翔子が、かといって恋愛関係に展開していかないことだ。主演二人の恋愛ではなく、恋人同士だったのは、翔子と瀧本なのである。

この二人の関係がわかるまでの流れは驚かされた。天国で、爆発事故が原因で死んだと語る翔子。地上で、かつて花火大会を中止に追い込んだ事故の顛末を知る香夏子。そして、たどり着いたのは花火師の瀧本。

不幸な花火の暴発事故を境に、翔子との婚約も解消となり、瀧本は花火師をやめ田舎にこもってしまう。翔子は入院生活のすえ、天に召される。待てども彼の花火は上がらず、毎年書いて10曲目になる彼女の曲も仕上がらず。

翔子と瀧本は、本来なら物語の中心に位置する恋人同士のはずだが、結局事故後はすれ違ったままだ。

瀧本にもう一度、恋する花火を上げてもらおうと、逃げる彼を責める香夏子だが、瀧本に、結婚しないと言ったのも、花火をやめろと言ったのも、翔子だったのだ。死なせた恋人にそう言われたら、彼が花火師をやめるのも無理はない。

結局彼は意を決して最後にもう一度花火を上げ、それは天国の翔子にも届くのであるが、二人がもう一度会い、言葉を交わすことは、ない。

この二人の関係が描かれないのは、ちょっと不思議だった。放置プレイか? なんなら、店長も瀧本を新しいバイトで雇ってあげればいいのに。

ちょっと気になった点

全体としては、適度に感傷に浸れる作品で好感を持ったのだが、ファンタジーとはいえ、少々気になった点もある。

翔子と瓜二つに成長した香夏子が瀧本に会いに行ったときは、昔の恋人と同じ顔なのだから、気づいて驚くべきではないか。そのあとで、香夏子が浴衣を着て翔子になりすますシーンもあったではないか。

また、健太や翔子がピアノを演奏するシーンは、もう少しカット割りを工夫するなり、多少弾かせる指と顔を同時に見せてくれると、もっと本人が弾いているようにみえるのに、ちょっと残念。

もっとも、翔子の作曲したフレーズに健太がコードをつけるシーンは、音楽も良く、いい雰囲気だった。

終わりよければ、すべてよし

いよいよラスト。不思議な点も多いが、めでたく花火大会が復活する。大会終了後とはなったが、瀧本が自作の花火を間に合わせて打ち上げる。この展開に単純に感動してしまうことに、我ながら驚く。

そして、翔子が健太の協力を得て完成させた曲『永遠』を、地上に降りてきた健太が海辺のピアノで演奏するのだ。その曲を聴きながら、花火を打ち上げる瀧本は天国で演奏する翔子に思いをはせる。

再び会うことは叶わなくても、すれ違っていた翔子と瀧本はやっと思いが繋がったのだ。放置プレイなんかじゃなかった。

その代わりに、新しく出会ってくれる二人がいる。

健太の演奏に引き寄せられて香夏子が尋ねる。その曲は、翔子の作っていた曲。

あなた、どうしてその曲を知ってるの?」

その瞬間、出会ったばかりの二人を祝福するかのように、瀧本の花火が打ちあがる。そう、<恋する花火>が。

いやー、決まった! けど、ここでユーミンの曲はあざとい。何せ曲名も『永遠が見える日』だ。ここは、そのまま『永遠』を聴かせてほしい気もしたけど。

以上、お読みいただき、ありがとうございました。未読の方は、原作もぜひ。