『ソー:ラブ&サンダー』
Thor: Love and Thunder
アベンジャーズの雷神ソーと、新生マイティ・ソーの神バトル。こんな続編があろうとは。
公開:2022 年 時間:119分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: タイカ・ワイティティ 製作: ケヴィン・ファイギ キャスト ソー: クリス・ヘムズワース ジェーン・フォスター: ナタリー・ポートマン ヴァルキリー: テッサ・トンプソン コーグ: タイカ・ワイティティ ゴア: クリスチャン・ベール ピーター・クイル: クリス・プラット ゼウス: ラッセル・クロウ ラプー: ジョナサン・ブルー アクセル: キーロン・L・ダイアー ラブ: インディア・ローズ・ヘムズワース
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
サノスとの激闘の後、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々とともに宇宙へ旅立ったソー(クリス・ヘムズワース)。これまでの道のりで多くの大切な人々を失った彼は、いつしか戦いを避けるようになり、自分とは何者かを見つめ直す日々を送っていた。
そんなソーの前に、神々のせん滅をもくろむ最悪の敵、神殺しのゴア(クリスチャン・ベール)が出現。ソーやアスガルドの新たな王となったヴァルキリー(テッサ・トンプソン)は、ゴアを相手に苦戦を強いられる。
そこへソーの元恋人ジェーン(ナタリー・ポートマン)が、ソーのコスチュームを身にまとい、選ばれた者しか振るうことができないムジョルニアを手に取り現れる。
ジェーンに対していまだ未練を抱いていたソーは、浮き立つ気持ちを抑えながら、新たな「マイティ・ソー」となったジェーンとタッグを組み、ゴアに立ち向かうことになる。
レビュー(途中からネタバレ)
不安ばかりの先入観だったが
MCUも29作目の映画となって、いつもなら初日に観ているはずの私の熱も若干醒めてしまった。今回はDisney +のお世話になる。こんなに早く配信されるのは、やはり嬉しい。
本作は『マイティ・ソー バトルロイヤル』以来久しぶりのソーが主人公の新作。とはいえ、悪ふざけが目に余り、MCU全体の緊張感を一気にゆるめた前科もあるマイティ・ソーだ。
◇
しかも今回のセールスポイントは、いなくなって久しいソーの恋人ジェーン(ナタリー・ポートマン)が再登場すること、それもマイティ・ソーとして。
一体どういうことか、観るまでは見当もつかないが、少なくとも劇場予告から受けた印象は、MCUの世界観を無視して悪ノリしちまおうぜ、という方向性。
だって、Tシャツ姿のソーがピーター・クイル(クリス・プラット)と見つめ合って別れて、「もうヒーローはやめた!」とかなんとか叫ぶ場面なのだもの。おまけにタイトルは『ラブ&サンダー』だ。悪い予感しかしない。
そして観た本作。悪ふざけがあちこちに観られたのは前作と同じ。これは同じタイカ・ワイティティが監督なのだから、まあ当然かもしれない。
ただ、前回より笑えたのは、監督のセンスに慣れてきたのかも。ソーの歴史振り返りシーンや新アスガルドの寸劇などは、半分笑いながら、ソーの功績が復習できて都合がよい。
マット・デイモン、ルーク・ヘムズワース、サム・ニールという前作でも寸劇をやってたメンバーが再びカメオ出演するとは驚き。
クリスチャン・ベール、あっぱれ
本作が、悪ノリしながらもきちんとMCU作品としての緊張感と盛り上がりを維持できたのは、ひとえに今回のヴィランであるゴアを演じたクリスチャン・ベールの賜物だと私は勝手に思っている。
◇
冒頭に登場するゴアは、神ラプーを信仰していたが、食料も水もなく砂漠で娘ラブ(インディア・ローズ・ヘムズワース)を死なせてしまう。
そこに現れたラプー(ジョナサン・ブルー)があまりに非道な神であったことから、ゴアは信仰を捨てる。神を殺せる剣・ネクロソードに新たな所持者として選ばれたゴアは、ゴッド・ブッチャーと化し、娘の復讐のため、全ての神に制裁を与えようとする。
『ダークナイト ライジング』(2012)以来ひさびさのヒーローもの、しかも悪役であるが、この悲劇的な経緯をもつ復讐の鬼をクリスチャン・ベールが熱演する。これで骨格となる物語に魂が入った。
ジェーンは帰ってきた
さて、本作の主役であるマイティ・ソー(ジェーンの方だが)に話を移そう。ソーと別れたあと天体物理学者として名を成すジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)だが、末期のガンに侵されている。
絶望のすえに彼女がたどり着いたのは、ノルウェーの新アスガルドに遺されている、ソーの武器ムジョルニア。その神の力で彼女は奇跡的な復活を遂げ、新たなマイティ・ソーとして活躍することになる。
ブラックホール理論を理解するには『インターステラ―』を観なさいとジェーンが力説するのは、クリスチャン・ベールとダークナイト・トリロジーを撮ったクリストファー・ノーラン監督へのリップ・サービスか。
もはやカムバックはないと思っていたジェーンが再び登場し、ソーと復縁するのは大歓迎だが、ムジョルニアの力で元気になって、マイティ・ソーのコスプレで戦っているのはさすがに荒唐無稽な展開だ。そこに説得力はない。
だが、ゴッド・ブッチャーは何人かの神を倒したのち、この地球にも襲いかかってくる。
ガーディアンズの連中に別れを告げたソーは、『マイティ・ソー バトルロイヤル』以来のつきあいのコーグ(タイカ・ワイティティ)と地球にやってきて、新アスガルドを任せていたヴァルキリー(テッサ・トンプソン)やジェーンとともに、この敵に立ち向かう。
強引ではあるが、単純明快なストーリー展開。
こりゃ、確かに神バトルだわ
ナタリー・ポートマンがMCUに登場しなくなったのは、『マイティ・ソー』シリーズのおちゃらけ路線に愛想を尽かしたのかと思っていたが、本作では結構笑いを取りに行く。
そして更に驚いたのは、全知全能の神、ソーでさえ敬意を払うゴッド・オブ・ゴッズのゼウスにラッセル・クロウが起用されていたことだ。『アオラレ』(2020)で最近の姿も知っているけど、まさかこんな太々しい憎まれキャラをやるなんて。
神々が集まる大会議場に潜入するナタリー・ポートマンは、『スターウォーズ』で銀河元老院の議員時代のアミダラ姫を思い出させる。
「神々が結束してブッチャーを倒そう」というソーに対して、「下級神が何人か死んだところで気にしない。自分で解決しろ」とゼウスは塩対応。自慢の武器サンダーボルトを振り回すゼウスはまるで小太りの大道芸人だ。
北欧神話の主神オーディンの子であるソーに対し、ギリシャ神話の主神ゼウス。まさに神バトル。その結果、ソーはゼウスを倒しサンダーボルトを奪って、ブッチャー退治に向かう。
ゆるいネタとツッコミどころ
ゆるい小ネタで笑かすシーンは数多い。
ソーの歴史紹介で大勢亡くなった家族の歴史の中でロキだけが何度も死んでいったり、仲睦まじかった頃のソーとジェーンがムジョルニアに引っ張られてローラーブレードで遊んだり。
ヤギをつないだバイキング船で空を飛んだり、ジェーンが決め台詞で悩むのも楽しい(『ブラック・ウィドウ』の決めポーズに近いノリか)。神々のなかに小籠包の神というのがいたが、何かの楽屋オチなのか。
余談だが、ジェーン・フォスターの名前をジェーン・フォンダやジョディ・フォスターと間違えていじるネタがあったが、かつてそのジェーン・フォンダの弟ピーター・フォンダが『だいじょうぶマイフレンド』(村上龍原作・監督)で、空を飛べなくなり落下する超人の主人公を演じていた。
今回ソーが武器の不調で空から落下するのを見て、思い出した。
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武器に関しては、今回はムジョルニア(小槌)にストームブレーカー(斧)、そしてサンダーボルトと盛りだくさんだが、それぞれ懐いたりへそを曲げたりと扱いが難しい。最強兵器のはずのサンダーボルトが一番弱っちいアクリル板みたいなのが、イマイチ。
ブッチャーにさらわれた子供たちを救い出すソーが、彼らに自分の力を授け、みんな目を光らせて(文字通りの意味です)、敵と戦う姿は怖い。
ソー単独でも、光る眼で猛威を振るうのは前から恐ろしかったが、子供たちまで光る眼で迫ってくると、まるでホラーだ。どちらが悪役だか混乱する。
土壇場だけヒューマンドラマに
さて、バトルそのものには迫力があるものの、ソーたちが力を合わせてブッチャーを倒すという大きな話の流れ自体には新鮮味はない。
だが、土壇場になって、突如シリアスなヒューマンドラマが繰り広げられる。ソーの攻撃で致命傷を負ったブッチャーだったが、ひとつだけ願いが叶えられるという「永久」の前に立つ。
ジェーンはムジョルニアの副作用で、ガンの進行が進み、瀕死の状態になった。ソーは戦いよりもジェーンに寄り添うことを選び、ブッチャーには、神々の抹殺よりも、死んだ娘ラブを復活させることを推奨する。
ブッチャーは、自分はもう長く生きられず、娘が復活しても独りになると心配するが、ジェーンは「孤独にはさせない」と言い切る。
こうして物語は終わる。亡くなったジェーンは、アスガルドの戦士が召されるという聖地ヴァルハラで、懐かしき番人の勇者ヘイムダルに迎えられる。
一方ブッチャーは死に、娘ラブはソーが引き取って育てている。ジェーンも他界してしまったようだ。生意気盛りの小さな少女とソーのやりとりは、実際の父子で演じているだけあって、息が合っている。
◇
少女のスーパーヒーローは、まるで『キック・アス』(マシュー・ヴォーン監督)のヒットガールのようだ。そうか、ラブ&サンダーって、二人の名前だったんだ。『アントマン&ワスプ』みたいなものか。
ノリは軽薄ながら、最後はキッチリ仕上げる手堅い作品であった。