『インターステラー』 考察とネタバレ:科学的考証と浪花節が融合した、トイレの神様ならぬ本棚の神様映画

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『インターステラー』 
 Interstellar

ノーランらしいスケールと難解さ。だが最後は人情味溢れる家族映画。ご都合主義と言いたい奴は言え。父と娘の信頼の絆は重力と同様に時間の壁を超えるのだ。ノーラン印の泣けるSFとして覚えておきたい逸品。

公開:2014 年  時間:169分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:     クリストファー・ノーラン

キャスト
ジョセフ・クーパー:マシュー・マコノヒー
マーフィー・クーパー:
         ジェシカ・チャステイン
トム・クーパー:  ケイシー・アフレック
ドナルド・クーパー:  ジョン・リスゴー
アメリア・ブランド:  アン・ハサウェイ
ジョン・ブランド:   マイケル・ケイン
ヒュー・マン:     マット・デイモン

勝手に評点:4.5
(オススメ!)

(C)2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

あらすじ

地球の寿命は尽きかけていた。居住可能な新たな惑星を探すという人類の限界を超えたミッションに選ばれたのは、まだ幼い子供を持つ元宇宙飛行士の男。

彼を待っていたのは、未だかつて誰も見たことがない、衝撃の宇宙。はたして彼は人類の存続をかけたミッションを成し遂げることが出来るのか? 

レビュー(まずはネタバレなし)

引退パイロットはつらいよ

『TENET』の公開に先立ってノーラン夏祭りなるものが映画館で上映されていた。本作もその中で採り上げられており、ついまた観たくなった。

食料飢饉や地球環境の変化によって人類に滅亡が迫る近未来に、人類が移住できる新たな惑星を探し求めるミッションに抜擢される元宇宙飛行士の男・ジョセフ・クーパー(マシュー・マコノヒー)

『アルマゲドン』などにみられる、引退パイロットが人類を救うために自己犠牲で危機を乗り越える話に類型できそうだが、ワームホールや相対性理論をはじめ科学的な考証には相当に力が入っているところがノーラン監督らしい。

人類をとるか、家族をとるか

だが、難解でつまらない映画では、勿論ない。理論的な話は専門用語も飛び交い、けして分かりやすくはないが、軸となるドラマは、あくまで家族愛、とくに父と娘の絆だからだ。

科学的考証をどんなに掘り下げても、最後には家族ドラマというのは、やや古臭く思われる点かもしれないが、私には響いた。

科学者として人類を救うか、人間として愛するひとを救うか。宇宙船に乗るクーパーやアメリア(アン・ハサウェイ)たちはそこに苦悩するからこそ、人は感情移入できるのだ。

先発の調査隊が報告してきている候補の中から第二の地球となる惑星を探し出し、そこに人類を移住させるか(プランA)そこで卵子から人類を増殖させ絶滅だけは避けるか(プランB)

時間との戦いだが、後者ならば地球の人々はみな窒息死する。娘に必ず戻ると約束したクーパーの葛藤。

(C)2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

本棚の怪現象

本作では、クーパーがNASAの秘密基地を探しあて、結果として宇宙に飛びたつまで相当の時間を費やしている。

これは、小麦やコーンなど食物の死滅、飢饉で軍隊も解体された世界情勢、そして娘マーフィをはじめクーパーの家族の人物紹介に必要なものだが、最も重要なのはマーフィの部屋で起きる幽霊による怪現象だ。

本棚の本が落ちてきたり、床に砂でなぞのメッセージが描かれたり。解読すると、<STAY>と読めたり、NASAの基地の位置を示す座標だったりする。どことなくシャマラン監督の『サイン』っぽいが、この怪現象は終盤思わぬ形で登場する。

レビュー(ここからネタバレ)

クーパーと娘マーフィーの絆

本作で重要な鍵を握る父と娘は二組いる。一組はクーパーと娘のマーフィ、もう一組は、計画の立案者たるブランド教授(マイケル・ケイン)と、その娘のアメリア教授だ。

まずはメインであるクーパー父娘。

「次に会うときは同い年かもしれないな」

時間の流れの違いのためそう言って旅立つ父親だが、引き留めに応じない父に拗ねた娘は見送りもしない。何とも切ないシーンだが、父は息子トムに家族を託し、決死のミッションに向かう。

クーパー達が最初に訪れた水の惑星は、ブラックホールの影響で住める環境ではなく、大波に飲み込まれた結果、無駄に23年を費やしてしまう(1時間=7年)。

船に戻ってビデオレターを見ると、トム(ケイシー・アフレック)は成人し、結婚し、娘が産まれ、その子を亡くし…。ものの数分で息子の半生の縮図を見せられ、おまけにトムはもう父の生還を諦めるという。

『月に囚われた男』でもそうだったが、宇宙飛行士が見る家族のビデオレターはいつも悲しいオチがある。そして、なんとマーフィからも短いメッセージ。

「約束通り、あの日のパパと同い年になったのに…」

怒っているようだ。これもつらい。だが、ここで初めて登場するジェシカ・チャステインは、真打ち登場のオーラがある。きっと、彼女が何かをしてくれるという期待感がある。

マーフィは幼少期(マッケンジー・フォイ)等、年齢に応じ三名の女優が演じているが、特に幼少期の彼女の毅然とした眼差しがいい。父親のクーパー譲りの性格を感じる。

老年期のマーフィ(エレン・バースティン)は実は冒頭に登場し、こう語っている。
「父は農夫でした、元の仕事を辞めてからは」

これだけで答えを探しあてるのは厳しいと思うが、ノーランらしく、一応冒頭にヒントを与えているのだ。

(C)2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ここからネタバレがありますので、未見の方はご留意ください。

科学者としての矜持(ネタバレあり)

もう一組の父と娘であるブランド教授の父娘を振り返る。

父の方のブランド教授は、何十年も前に重力方程式を解いており、重力制御にはブラックホール内の特異点のデータが必要で、事実上不可能だとの結論を導いていたが、隠蔽し続けた。

教授にとってはプランB、地球に住む人類は諦めて次世代の種を保存する案が本命だった。移住という期待を持たせ、クーパーらを巻き込んだのだ。

彼は娘アメリアを乗船させている。人類のためといいながら、自分の家族を生存させられる。その不公平な事実を彼女は知らず、恋人が調査で向かった惑星が選ばれることに少しだけ期待している。

父・ブランド教授を卑怯者と呼ぶならば、もう一人の卑怯者はマン教授(マット・デイモン)だろう。

氷の惑星を調査し移住不適と分かっていながら、孤独に暮らす惑星に耐えきれず、救出されるために偽情報を送信した。挙句には訪れたクーパー達に攻撃をしかけ、最後には自滅する。

通常ならばヒーロー候補(或いはバットマンの執事)であるマイケル・ケインマット・デイモンにこのような役割を与えるところに、面白味とサプライズがある。

驚きの展開が続く(更にネタバレ)

さて、終盤からの展開は驚きの連続だった。

マン教授の裏切りで燃料を失い帰還が絶望的となったクーパーは、アメリアを、最後に残った候補の惑星(彼女の恋人のいる)に向かわせるために、自らの乗る宇宙船を切り離す。彼の生きザマを感じさせる痺れるシーンだ。

だが、もはやプランBにしか望みはなく、真実を知ったマーフィには、ビデオの向こうで泣かれている。
「パパは知っていたの?私たちを見捨てたの?」

返答する術はなく、父親としては胸が張り裂けそうな状況だ。

だが、ブラックホールに落ちていったクーパーは、なんとマーフィの部屋につながった4次元超立方体の空間に辿り着く。本棚の裏に父親がいる空間があるとは、何という奇想天外さ。

ワームホールを用意して彼らに移住のチャンスを残してくれた未来人は、この空間で父が娘にコンタクトすることを期待しているのだ。

過去を変えるために呼ばれたのではない。手元にあるブラックホールのデータを今のマーフィに届けられれば、まだ地球に残る人類にも、移住のチャンスがある。

ここで、出発の時に幼少のマーフィに手渡した腕時計が生きてくる。土壇場で、マーフィはクーパーが腕時計の秒針の動きにこめたモールスのメッセージに気づくのだ。

あー、ユリイカ!

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ご都合主義でも、愛だろ、愛

ブラックホールに落ちた以降の展開を、ご都合主義の嵐ではないかと嘆くひともいるだろう。だが、重力は時間を超え、そして次元の先にあるものは、愛なのだ。だから娘は気づくはずだ、と言い切る父の熱い思い。

SF映画において、<大事なのは愛です>と正々堂々と言ってのけた作品は、『宇宙戦艦ヤマト』以来ではないか。

理屈は置いといても、気づいたら本棚の裏にいるクーパーが一生懸命マーフィに重力でメッセージを送るところは妙に高揚する。

息子のトムはちょっと盛り上がりから疎外された感じだが、演じたケイシー・アフレックはその後『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』 で幽霊となって本棚の本を落っことしており、父子の血は繋がっている。

ミッションは娘に託された。クーパーは救助され、移住を果たした土星近くの惑星に運ばれる。上空まで伸びた地平線のある不思議な風景は『インセプション』でもお馴染みだ。

また、最後まで戦友として活躍するロボットTARSは、あえて擬人化せず無骨な板切れのような造形だったが、実に人間味があって愛されるキャラだった。


そしてラスト。約束通りの父娘再会だが、同い年どころか、娘は老齢で死に際である。手を取り合って、
「パパが約束したから、諦めなかった」

と語るマーフィ。泣かせ処だ。子供との約束は重たいものなのだ。

だが、最後にもうひと捻りあった。マーフィには大勢の子供や孫がいる。パパは、一人孤独に惑星にいるアメリアのもとへ行けと。その一言で父はまた旅立つ。<安らかな夜に身を委ねてはいけない>のである。

父は娘の言いなりと、昔から相場が決まっている。娘が年上となれば、尚更か。