『MINAMATA』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー(水俣) | シネフィリー

『MINAMATA ミナマタ』考察とネタバレ|人間がこんなに違ってよかですか

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『MINAMATA ミナマタ』
 Minamata

ジョニー・デップ製作・主演、水俣病の存在を世に知らしめた写真家ユージン・スミスと妻アイリーンの伝記ドラマ

公開:2021 年  時間:115分  
製作国:アメリカ

スタッフ  
監督:  アンドリュー・レヴィタス
脚本:  デヴィッド・ケスラー
原案:  W.ユージン・スミス
     アイリーン M.スミス
          写真集『MINAMATA』
音楽:  坂本龍一

キャスト
W・ユージン・スミス: ジョニー・デップ
アイリーン:     美波
ヤマザキ・ミツオ:  真田広之
ノジマ・ジュンイチ: 國村隼
キヨシ:       加瀬亮
マツムラ・タツオ:  浅野忠信
マツムラ・マサコ:  岩瀬晶子
ボブ・ヘイズ:    ビル・ナイ

勝手に評点:3.5 
(一見の価値はあり)

(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

あらすじ

1971年、ニューヨーク。アメリカを代表する写真家の一人と称えられたユージン・スミス(ジョニー・デップ)は、今では酒に溺れ荒んだ生活を送っていた。

そんな時、アイリーンと名乗る女性(美波)から、熊本県水俣市にあるチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影してほしいと頼まれる。

水銀に冒され歩くことも話すことも出来ない子供たち、激化する抗議運動、それを力で押さえつける工場側。そんな光景に驚きながらも冷静にシャッターを切り続けるユージンだったが、ある事がきっかけで自身も危険な反撃にあう。

追い詰められたユージンは、水俣病と共に生きる人々にある提案をし、彼自身の人生と世界を変える写真を撮る。

レビュー(まずはネタバレなし)

水俣病に関心を持つきっかけに

その名の通り、日本の四大公害病のひとつである水俣病を題材にした作品。

製作にも携わったジョニー・デップが、水俣病の存在を世界に知らしめた著名な米国写真家ユージン・スミスを演じ、発生から65年を経過してもなお終わりとはいえない、水俣病をめぐる問題を世界に発信する。監督は、映画以外にも多方面の芸術分野で活躍するアンドリュー・レヴィタス

事実に基づくストーリーだと冒頭に紹介されるが、ドキュメンタリーでもない商業映画であれば、当然ある程度の誇張やフィクションがあることは避けられない。

題材がセンシティブな内容だけに、安易にデフォルメされた内容は勘弁願いたいと思ったが、映画の内容には誠実さが感じられ、真摯にこの病気に苦しむ人々に向き合っているように思えた。

勿論、この映画を観ただけで水俣病の問題について理解したように錯覚してはいけない。日本人であれば、これまでの学校教育等である程度の基礎知識はあるだろう。

ただ、もっと理解を深めようと思えば、原一男監督の『水俣曼荼羅』という6時間を超えるドキュメンタリー映画もあれば、石牟礼道子『苦海浄土』という人の尊厳を綴った傑作文学もある。その、更なる探求のきっかけとして、本作は大きな役割を果たしてくれる。

(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

俺を日本に行かせろ

1971年のNY。戦争報道写真で名前の知られたユージン・スミス(ジョニー・デップ)は、名声こそあるが、今では借金まみれの飲んだくれ。『LIFE』誌の編集長ボブ・ヘイズ(ビル・ナイ)も、過去の栄光にすがるだけのこの旧友の写真家には手を焼いていた。

「俺はもう老いぼれだが、ボブ、お前の雑誌も惨めなもんだな」

ある日、ユージンのもとに、富士フィルムのCM出演の話で通訳のアイリーン(美波)が訪れる。彼女は仕事の話とは別に、水俣の現状を知って、写真を撮ってほしいと彼に依頼する。

「チッソの水銀垂れ流しの罪を、世間に知らせたいの!」
彼女が置いていった写真の悲惨さに衝撃を受け、ユージンはボブを説得する。

「俺を日本に行かせろ、失望はさせない」

こうして、『LIFE』誌を通じて世間に訴える写真を撮りに、ユージンはアイリーンと水俣に向かう。

(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

殆どのロケ撮影が熊本の現地ではなく、モンテネグロで行われたことで、マイナス評価する人もいるようだが、これは仕方ないのではないか。

地形が同じだったとしても、現在の日本で、当時の雰囲気をどこまで再現できるのか分からないし、衣装から小道具、雨風の自然音に至るまで、日本のものを用いようと努力したレヴィタス監督の姿勢には、好感が持てる。

米国人スタッフが日本のステレオタイプなイメージでセットを作り上げて、他国から見れば日本的だが日本人からみたら国籍不明なものが出来上がる例は数あれど、本作は比較的健闘している方ではないかと思う。そりゃ違和感ゼロではないが、そこは許容範囲だろう。

この手の題材を取り扱う難しさ

本作は、主演のジョニー・デップDV騒動に起因して、当初本国アメリカで公開が遅れるという不運な滑り出しとなったが、それとは別に、日本においては、熊本と水俣で顕著に受け止め方が分かれる事象が起きているという。

アンドリュー・レヴィタス監督は、関係者や現地の人々ともよく話し合いをしながら本作の企画を進めたと言っている。

それが事実だとしても、現地には、今もこの病気に苦しんでいる方や、亡くなられた方のご家族がいる。

また、被害や原因の隠蔽などに加担したチッソの上層部や政府などは断罪されてしかるべきだろうが、そのチッソに勤務していた地元の方々も大勢いる。

そういう環境下で、問題を風化させないことが大事だと映画の公開を前向きにとらえる人もいれば、古傷に触らずそっとしておいてほしいと嘆く人もいるだろう。この手の題材の難しさはそういうところにある。

余談だが、私が当サイトでよく引き合いに出す手塚治虫『ブラックジャック』にも、水俣病の若い娘を扱った「しずむ女」という痛ましいエピソードがあった。だが、やはり題材的に表現の難しさから、発刊当時のコミックス以降は掲載不可となっているようだ。

ジョニデに負けてない日本人俳優陣

公開は是か非かという問題は別にして、本作で注目すべきは、日本人俳優たちの熱の入った演技だと思う。

いや勿論、主演のジョニー・デップが素晴らしいのは言うまでもない。いつもの彼特有のギラギラした目力やオーラを完全に消し去って、メガネとヒゲでユージンになりきっている。そうと知らなければ、ジョニデだと気づかないほどだ。

そうして作った役柄だからこそ、人間的な弱さや、貫き通す哲学のようなものが沁みてくる。いつものジョニー・デップとは一味違う役だからこそ、アイリーンとの朴訥な愛の育み方にも親しみが持てる。

(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

だが、本作の注目はやはり日本人俳優。サニー千葉亡き後、ハリウッド作品でアクションといえば筆頭にあがる真田広之、日本で最初に『マイティ・ソー』でMCUに登場した浅野忠信『硫黄島からの手紙』はじめ海外出演も多い加瀬亮

邦画であれば豪華なキャスティングだが、けして華やかな役ではなく、みな子供たちや家族に水俣病患者を抱え、苦しい生活のなか、命を懸けて戦い続けている。熊本訛りの台詞回しもいい。

そして、その怒りの矛先が向かうチッソの社長は、『キル・ビル』での殺され方がいまだに印象強い國村隼

(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

本作で特に印象的だったのは、ヤマザキ・ミツオという、町の人々をまとめて抗議運動や訴訟にむけて働きかける人物を演じた真田広之だ。

ジョニー・デップがオーラを消しているのと同様に、真田広之もまた、アクションという得意技を封印して、魂から訴えかける演技で臨む。

派手なアクション抜きの真田広之の演技は、およそハリウッド映画では見たことがない。下手すると邦画でも『たそがれ清兵衛』(2002)以来かもしれない。

女優陣は、アイリーン役の美波が本作でハリウッドデビュー。フランス人とのハーフで日仏英のトリリンガルだそうだが、本作では通訳の役なので英語の台詞が多く、フランス語のアクセントを無くすのに苦労したとか。

(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

フィクションくさい部分

さて、若干のフィクションはあるだろうと前述したが、

  • チッソの病院に潜り込んで患者の写真を撮ったり隠ぺい資料を盗み見たりといったスパイアクション
  • 工場のタンクの上でチッソの社長がユージンからネガを高額で引き取ろうとする買収提案
  • 夜更けに憲兵のように突如現れ家を荒らしまわって去っていく制服警官
  • 挙句の果てにはネガを始末するために暗室ごと放火してしまうチッソ陣営の大胆行動

など、どうみても嘘くさい描写があることは否めない。だが、ユージンが水俣に来た当初からの心情や行動の変化を語るうえで、この程度に話を盛ることはありだと思った。

はじめは人々に溶けこめず、了解もなしに町の人々にカメラを向けシャッターを切り、患者からは撮影を拒否されていたユージンが、それでも病院に潜り込み患者の写真をカメラに収め、強気に社長の買収提案を足蹴にする。

だが、暗室もろとも大事なネガをチッソ陣営に焼かれてしまう。失意で戦意喪失するユージンに、口の悪い編集長のボブがNYから喝を入れる。彼は自分の過ちに気づき、人々に虚心坦懐に協力を申し入れる。ここから、潮目が変わる。

(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

こうしてあの写真が撮られた

「古くから写真は被写体の魂を奪うと恐れられてきたが、写真家の魂も少しずつ奪っていくのだ」

そう語ったユージンが魂を削って撮った写真が、歴史を動かしていく。

終盤は、チッソの株主総会、そして裁判の結果となっていく。國村隼を社長に起用したことで、ただの悪徳経営者ではない、どこか善人の顔が見え隠れする人物にもみえる。これは狙い通りなのか、誤算なのか。

(C)2020 MINAMATA FILM, LLC (C)Larry Horricks

そしてラストは、有名な<入浴する智子と母>の写真をユージンが撮る。映画では岩瀬晶子が演じる母が、水俣病にかかった娘のアキコを入浴させている。水俣に来た当初は撮影の依頼を拒んだ母親が、ついにユージンを受け容れていてくれたのだ。

そのネガフィルムを現像すると、オリジナルの報道写真が浮かび上がるという演出は、この映画の終わり方に相応しいと感じた。

私も本作を機に、ユージンアイリーンの写真集『MINAMATA』を手に取ってみた。映画を観た後では、一枚一枚の写真の持つストーリーがよく分かる。そして、写真は、映画よりも雄弁だと気づかされる。