『天然コケッコー』 今更レビュー:そのジャケットくれんかの?チューしてもええよ

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『天然コケッコー』

小中学校合わせて全校生徒六人の過疎村の学校に、東京のイケメンさんが転校してきて、少女の日常は大きく変わりだす。夏帆と岡田将生の初主演が、鮮烈なインパクトを与えた、くらもちふさこの原作コミックの山下敦弘監督による実写映画化。

公開:2007 年  時間:121分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:    山下敦弘
脚本:    渡辺あや
原作:      くらもちふさこ
             『天然コケッコー』

キャスト
右田そよ:  夏帆
大沢広海:  岡田将生
右田以東子: 夏川結衣
右田一将:  佐藤浩市
右田浩太朗: 森下翔梧
田浦伊吹:  柳英里紗
山辺篤子:  藤村聖子
田浦カツ代: 本間るい
田浦早知子: 宮澤砂耶
シゲちゃん: 廣末哲万
松田先生:  黒田大輔
大沢美都子: 大内まり

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C) 2007「天然コケッコー」製作委員会

あらすじ

自然豊かな田舎町を舞台に、少女の淡い初恋と成長を爽やかに描き出す。中学二年生の右田そよ(夏帆)が通っているのは、小中学生合わせても生徒がたった六人しかいない分校。

ある日そこに、東京からの転校生・大沢広海(岡田将生)がやって来る。クールでとっつきにくい雰囲気の大沢に、そよは次第に恋心を抱き始める。

レビュー(ネタバレあり)

イケメンさんじゃ

くらもちふさこの原作コミックを山下敦弘監督が実写映画化。鑑賞したのは10年以上ぶりだが、久々に心が洗われたような気分になる。

当時の私は、これがコミックの映画化であることさえ知らず、ただ『リンダ リンダ リンダ』『松ヶ根乱射事件』山下敦弘監督の名前に惹かれて観たような覚えがある。

そして、日本の原風景のような自然に囲まれた田舎の村と、そこで元気に暮らす子供たち、そして主演の二人のみずみずしい演技に魅了されてしまった。

まだ私の中では無名だった夏帆岡田将生という二人の俳優の名前は、しっかりと胸に刻まれた。

冒頭からの登場人物の紹介と物語の導入部分に、無駄がない。何もかもがコンパクトに詰め込まれていながら、急がず説明的でなく、しかも面白い。脚本家・渡辺あやの仕事だろうか。

小学校と中学校、合わせても全校生徒六人という学校に、主人公の右田そよ(夏帆)が通っている。一番年下は小1でおもらしのさっちゃん。みんなで同じ先生で同時に授業という設定がすごい。

そして東京からの転校生、そよにとっては初めての同学年。それが大沢広海(岡田将生)だ。

「イケメンさんじゃ」と、つい声が漏れてしまう彼女が、微笑ましい。お下げ髪がまた似合う。チャン・ツィイー越えだ。

(C) 2007「天然コケッコー」製作委員会

わし、この匂いすきじゃ

同い年は二人だけ、それもこの二人となれば、当然にそのまま学園ラブストーリーになっていくわけだが、何せ取り巻きの連中はほぼ小学生だし、周囲も海・山・田畑ばかりでろくにデートする場所もない。

ありがちな胸キュン恋愛ものとはまるで違う田舎臭さと純朴さが新鮮だ。

「二人っきりになれないかと思ってさ」と大沢君がボソッと言えば、「わしと?」と返す、そよの方言丸出しなところも可愛らしい。

私の親友が、原作の舞台であるロケ地の島根県浜田市出身なのだが、夏帆の喋る石見弁を聞いて、当時感動していたのを思い出す。

さて、オシャレしたくても洋品店に気に入った服はなく、手に入れた通販雑誌も期限切れ、ついには、キスしてあげる条件で、買えなかったお気に入りの服を彼から譲ってもらう奇策に出るそよ。

「そのジャケットくれんかの? チューしてもええよ」
そして、無意識に彼女が呟く。

「あんたの匂いがする。わし、この匂い好きじゃ」

いつの間にか、二人は相思相愛になっている。年下の子たちの世話ばかりで、自分も子供のつもりでいたそよが、多感になっていく様子がうまく描かれている。

誰もいない海水浴場、めったに列車が通らない線路、田舎道の集団登校、仲良しごはんの給食、冷たいスイカ、大蛇踊りに夏祭りの縁日など、村の生活の伝え方がいい。

バレンタインにチョコをあげようにも、年頃の男子が大沢君しかいないので、そよに許可をもらってみんなでチョコをあげるのも、何か温かいエピソードだ。

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ともに初主演のフレッシュな二人

そよを演じた夏帆は、本作が映画単独初主演。それまでのキャリアからみれば、女優として演技力を高く評価され俄然注目されたのは、本作が最初ではないか。

そこからの彼女の活躍は目をみはるものがある。本作のような清純派だけでなく、『みんな!エスパーだよ!』のお色気路線も『ブルーアワーにぶっ飛ばす』の荒っぽいキャラもこなす、芸達者ぶりを見せてくれる。

そういえば、是枝裕和監督の『海街diary』で三女を演じた夏帆には、離婚した父親の葬式に田舎に出向くシーンがある。一方で、本作で親友の田浦伊吹役の柳英里沙も、中野量太監督の『チチを撮りに』で全く同じ設定の女子大生を演じており、その偶然性に驚いた。

一方、大沢広海を演じた岡田将生も、本作が初主演ではないかと思う。なぜだか最近、昔の岡田将生の出演作品ばかり見ているような気がする。

初期作品で彼が演じる役は、今ほど性格がひねくれている役ではないので、安心して観ていられる。本作でも、クールでちょっと素直ではない所はあるが、それは照れくさいからであって、いいヤツなのだ。

修学旅行でそよに、「なんでせっかく東京に来てるのに、みんなにお土産選んで、田舎のことばかり考えてんだよ」と言う。

現在放映中の坂元裕二のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の中でも、岡田将生「お土産って、必要かな?」お土産不要論で気炎を吐くシーンがあって、相変わらずのキャラに笑ってしまった。

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東京には空がない、けれど山の音がする

それにしても、ずっと風光明媚な島根の風景でリフレッシュできるのかと思っていたら、突如修学旅行で東京に行くとは予想外だった。

しかも、生徒はそよと大沢君の二人だけ引率の教師の方が多いではないか。それも、大沢君の前の学校の友人たちまで合流するルーズな修学旅行。

島根からの移動シーンもなく、いきなり現れた新宿西口の駅構内の足早に行き交う雑踏の不健康そうなこと。見慣れた日常光景であるはずのに、こちらまで息苦しさを覚えてしまう

そう思っていたら、そよまで気分が悪くなって、でも耳に手を当てたら、田舎と同じように山の音が聴こえて。あのファンタジックなシーンは、こちらまで気分が爽快になった。

(C) 2007「天然コケッコー」製作委員会

中途半端なキャラの介入がやや不自然

原作のカット割りに引きずられないように山下敦弘監督は意識したそうだが、私のような原作未読の者にも、一つの作品として感動できるものになっているのはありがたい。

原作にあった多くのエピソードが割愛されているのだろう。その苦労は想像できるが、若干気になる点はある。

そよの父・一将(佐藤浩市)が、離婚して戻ってきた広海の母・美都子(大内まり)にフラれた過去があり、そよの母・以東子(夏川結衣)も交えた三角関係のバトルが始まりそうな気配は濃厚に出ていた。

夫の浮気現場をチラ見してしまう以東子の一瞬の表情の変化が細かすぎて、見過ごしてしまいそうだ。ただ、映画では途中で強引にこの話は断ち切られ、やや消化不良な感は否めない。

本作は子供たちが主役なのだから、大人はもっと目立たなくしても良かったのかもしれない。佐藤浩市夏川結衣では両親の配役が重厚すぎるのだ。何もドラマがないわけがないと思えてしまうし。

そよたちを祭りに引率してくれる、郵便局員のシゲちゃん(廣末哲万)も、眼光が鋭すぎて怪しすぎる役だが、原作ではもっと奥行きのあるキャラに違いない。

(C) 2007「天然コケッコー」製作委員会

ささいなことが輝いてしまう

「もうすぐ消えてなくなるかもしれんと思やあ、ささいなことが急に輝いて見えてきてしまう」

そう、大沢君は、東京の高校に通うことを考えていた。全生徒六人の学校も、大沢君と一緒の登校も、ささいなことだが、そよが卒業して高校に行ってしまえば、二度と戻ってこない思い出になってしまうのだ。

そよが、最後に大沢君の学生服のボタン付けをしてあげるところは、じんわりくる。

中学校の黒板にそよが別れの口づけをするシーンが美しい。そう思っていたら、そこからカメラがくるっとパンしてカーテンから窓の外、長いワンカットの末には、高校の制服姿になって、母校に遊びに来ているそよの姿が!

どこにもドラマティックな事件はなかったかもしれないが、中学を卒業し、好きな子と高校に通うことになるのは、それだけで本人たちには大きな出来事なのだ。

大人たちはそれを知っているから、この作品はどこか懐かしく、甘酸っぱいのだろう。

ラストのそよの後ろに写る大沢君が、嫌がっていた坊主頭になっているのが、さりげなくて、とてもいいエンディングだった。