『ブルーアワーにぶっ飛ばす』 考察とネタバレ:夏帆とシム・ウンギョンの爆笑トークを聞くだけで幸福

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『ブルーアワーにぶっ飛ばす』 

ブルーアワーの青く静かな夜明けの田舎道を「ぶっ飛ばせ」ではなく、一人で「ぶっ飛ばす」のは夏帆か。後輩シム・ウンギョンとの漫才じみた掛け合いがめちゃ楽しい、茨城までの女二人の小ロードムービー。

公開:2019年 時間:1時間 32分  
製作国:日本

スタッフ
監督:    箱田優子

キャスト
砂田夕佳:  夏帆
清浦あさ美:シム・ウンギョン
砂田澄夫: 黒田大輔
砂田浩一: でんでん
砂田俊子: 南果歩

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

 (C)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会

あらすじ

CMディレクター・砂田(夏帆)は、東京で優しい夫と暮しながら仕事仲間と浮気もし、悪態をつきながら仕事に追われる荒んだ日々を送っている。

ある日突然、天真爛漫な友だち清浦シム・ウンギョン)とのドライブがてら、大嫌いな故郷の茨城に帰ることに。

そこで二人を待ち受けていたのは、世話焼きで愚痴っぽい母(南果歩)、自分勝手で話の通じない父(でんでん)、教師をしている不気味な兄(黒田大輔)

再会する家族ともギクシャクしてしまう砂田に対し、たどたどしい日本語でマイペースに立ち振る舞う清浦の方が、なんだかうまく接している? そして砂田は、大好きだった祖母を見舞いに病院に行く。

レビュー(まずはネタバレなし)

「ぶっ飛ばせ」ではなく「ぶっ飛ばす」

TSUTAYA CREATORS’ PROGRAMで『ブルーアワー(仮)』が審査員特別賞を受賞し映画化となった。

砂田と清浦の女子二人茨城ロードムービー(実家に帰るだけの)なのだが、とにかく砂田の言葉のはじき返しのよさと荒んでいる内容が小気味よい。めちゃめちゃ虚勢張って生きてます、彼女。

ベテラン夏帆がこれまで演じてきた役柄も幅広いが、その中でも記憶に残るキャラの一人だと思う。相棒の清浦はまた対照的な天真爛漫さと素直さで、自由気ままに生きている感じがとても癒される。

邦画として先に公開された『新聞記者』でも注目されたシム・ウンギョン。同作での真面目な演技とはガラッと変わっていて、まるで『サニー 永遠の仲間たち』の高校生がそのまま成長したみたいだ。

(C)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会

ブルーアワーとは、一日の始まりと終わりのあいだに一瞬おとずれる、空が青色に染まる静寂の時間だそうだ。三谷幸喜の『マジックアワー』とは数分の差の時間帯ということか。

「ぶっ飛ばせ」ではなく「ぶっ飛ばす」。まさにその青く静かな時間帯の誰もいない田舎道を疾走している、少女時代と今の自分が出てくる。

それにしても、ネタバレしないようここまで気をつけて書いたが、そんな心配をよそにポスターやら公式ホームページの紹介文やらでは、完全にオチを匂わせちゃっている。

興行成績に影響しそうな部分ではない気もするので、あえて自ら開示しなくてもよいのではと思う。

ちなみに、私は伊藤沙莉が主演だと思っていたくらい予備知識ほぼゼロで観たが、十分楽しめた。

レビュー(ネタバレあり)

メチャクチャ楽しい掛け合いの茨城珍道中

クルマの中の尾崎豊「15の夜」絶唱で始まる砂田と清浦の茨城珍道中。

何か大きな出来事が起きるわけではないが、とにかく二人のやりとりが、無理にテンションあげた女性漫才コンビの掛け合いみたいで、本当に楽しい。

砂田の東京ライフは、妻に二人目の子ができたのを隠している不倫相手の仕事仲間(ユースケ・サンタマリア)、修羅場での調整を求められるCM撮影現場。

優しいだけの夫(渡辺大知)に囲まれ、どうにか肩肘張って、面白くもないのに愛想笑いして毒を吐いて生き抜いている

唯一自分をさらけ出せる仲の良い友だち清浦と、故郷茨城に帰省することとなり、のびのび快適な時間が待っているかと思えば、骨董品に大金を突っ込む父やつかみどころのない兄貴。

台所でメロドラマに興じる母(親子で果歩夏帆だった)、一生分の下ネタを聞かせる伊藤沙莉のいるスナックだとか、茨城弁でまくしたてる町の人々。砂田にはどうにも馴染めない。

(C)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会

少女の頃にブルーアワーの山道を一人で駆け回っていたころの自分が、ゆかっぺのペンネームで「カップルしか入れない混浴温泉」の漫画を描いていたころの自分が、無敵の絶頂期だった。

そのはずなのに、いつから故郷はコンプレックスになってしまったのだろう。

病院で大好きな祖母を見舞い、祖母に注がれた愛情を受け止め、年老いた彼女の爪を切ってあげて、その過程で砂田はようやっと苦手だった故郷に素直に向き合えるようになってきたように思える。

このおばあちゃんは本当に高齢にみえ、俳優には思えないドキュメンタリーのようなリアルさがあった。爪切はいいシーンだが、深爪しそうでちょっと苦手。

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みんな納得できたのか終盤のひとひねり

さて、慌ただしい旅行の帰り道、砂田がふざけて撮っていたビデオカメラの映像が、二人の旅で出会ったいろいろな人々を蘇らせる。まるで『ニューシネマパラダイス』のキスシーン百連発だ

ここで映画は終わるのかなと思っていたら、なんと驚いたことに、目を開けたままのくしゃみで笑わせていた清浦が、いつのまにか運転席から消え、そこには砂田一人が。

え、どういうこと。清浦は空想の産物?

ここで公式サイトからストーリー引用させていただくと、

やがて全てを剥がされた時、見ようとしなかった本当の自分が顔を出す―。そして夕暮れに差し掛かる時間、清浦との別れが迫っていた…。 こんにちは、本当の自分。さようなら、なりたかったもう 一人の私。

公式サイト

ポスターにも

30歳の砂田、秘密の友だち・清浦と大嫌いな故郷へと向かう

映画ポスター

はて、この手がかりなしに、そんな解釈できるだろうか。

ブルーアワーをぶっ飛ばしている幼少期の彼女の周囲には確かに友だちはいなかった(声だけ)けど、ほかに手がかりがあったか。

『シックスセンス』のブルース・ウィリスと違い、周囲のみんなは清浦と接してたし、納豆ごはん食べてたし、ちょっと説明に無理がないか? 

それに、意気投合できる唯一の話相手が空想の存在って、寂しすぎるじゃないか。『ビューティフル・マインド』のラッセル・クロウかよ(どれも引き合いが古くて恐縮だが)。

確かに想像の産物ということなら、『新聞記者』のシム・ウンギョンのように外国育ちの設定でもない、清浦の日本語がなぜたどたどしいのかも説明がつくけれど。

砂田のノートパソコンに貼ってある双子っぽいゆるキャライラストも、SとKって二人のイニシャルだったが、なにか深い意味があったのだろうか。

もう少し、ラストを納得させる材料が欲しかった。とはいえ、二人の会話が聞けただけでも楽しい映画だったけど。