『チチを撮りに』 今更レビュー:念のために言っておくが、家族ドラマである

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『チチを撮りに』

中野量太監督の初長篇。幼い頃に家を出た父の死に顔を撮りに、田舎まで出向く姉妹が出会う父の親族。気丈な母の渡辺真起子をはじめ、仲の良い姉妹の素朴さがいい。泣かせる映画ではないと油断しているとヤラれる。

公開:2013 年  時間:74分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:    中野量太

キャスト
東村佐和: 渡辺真起子
東村葉月: 柳英里紗
東村呼春: 松原菜野花
西森徹二: 滝藤賢一
西森正高: 二階堂智
西森千尋: 小林海人

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2012 ピクチャーズネットワーク/日吉ヶ丘ピクチャーズ

あらすじ

フリーターの姉・葉月(柳英里紗)と女子高生の妹・呼春(松原菜野花)は、父親が14年前に女を作って出て行ってしまって以来、母の佐和(渡辺真起子)と三人で暮らしていた。

ある日、佐和から「お父さんがもうすぐ死ぬから会いに行って、ついでにその顔を写真に撮ってきてほしい」と告げられる。

嫌々ながら出発した姉妹だが、心の底では会いたい気持ちも顔を出す。

電車を乗り継ぎ父親のいる田舎町へやってきた姉妹は、そこで、異母兄弟の少年や叔父に出迎えられる。

レビュー(まずはネタバレなし)

中野量太監督の初長篇は<川街diary>

本作は74分とコンパクトな作品だが、これまで短編中心の中野量太監督が、初めて挑んだ長篇映画であり、ここでもやはり、彼が描くのは家族の生き様である。

余命わずかだという、もはや記憶にもない父親の顔を、「笑ってやりたいから撮ってこい」と田舎に送り出す母親。何とも無茶で強引な設定だが、これで映画は回りだす。

姉妹が小さな頃に女を作って出て行った、もはや記憶もおぼろげな父親。死ぬというので田舎の実家を娘たちが訪ねると、そこには、腹違いの兄弟にあたる子供がいて…。

と、こう書くと、完全に是枝監督が映画化したコミック『海街diary』の三姉妹に末っ子のすずが出会うまでの物語とまるかぶりだ。遺産相続を放棄してほしい云々のくだりまで似ている。

だが、既視感はあっても、不思議と抵抗感はない。綾瀬はるかから広瀬すずまで豪華な四姉妹をもってきた同作と違い、こちらはこぢんまりした素朴さが売りの作品だからだろうか。

他愛もないエピソードばかりなのだが、どこか温かく、微笑ましいものに思える。

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大きな河川の土手に座るのが定番スタイル

中野監督が、家族ドラマにこだわりを持っているのはよくわかるが、河川敷にもこだわりがありそうだ。

本作では、冒頭に呼春が制服のまま河原で昼寝をしているし、母娘三人が川岸で語り合う終盤のシーンが特徴的。

だが、例えば『長いお別れ』で、蒼井優がキッチンカーをひくのも河川敷だし、『お兄チャンは戦場に行った!?』でも川と橋が登場。

『沈まない三つの家』に至っては、河川敷を舞台にしたような群像劇だ。監督は、どれだけ川と土手が好きなのだろう。このこだわりの理由をいつか聞いてみたい。

キャスティングについて

本作は、何といっても母親の佐和を演じた渡辺真起子がハマる。

あの、サバサバしていて、凛としていて何事にもバッサリ斬り込んでいく強い母の役が、ピッタリ合う。園子温監督『愛のむきだし』で悪女を怪演した女優とはとても思えない。

この役を彼女にオファーする予定だった日に、東日本大震災が起きたのだそうだ。中野監督が『浅田家!』で渡辺真起子を震災後の復興に励むボランティアの女性役に起用したのも、何かの縁かもしれない。

(C)2012 ピクチャーズネットワーク/日吉ヶ丘ピクチャーズ

姉の葉月には柳英里紗山下敦弘監督『天然コケッコー』の頃から成長し(当たり前だが)、ここではキャバ嬢っぽいバイトもしている役。

やや暗い感じの妹の対比で、本作では明るさと健康的なお色気の担当なのだろう。タバコはセブンスターと硬派だが、別にスレた感じではない、いいお姉さんなのでホッとする。

妹の呼春は、中野作品ではお馴染みの松原菜野花『沈まない三つの家』では、離婚家庭のまじめで純朴な娘役を演じていたが、本作でもそれに近い。

だが、終盤で観る者の心を揺さぶるのは、彼女の迫真の演技であり、さすが中野監督の秘蔵っ子である。

死んでしまう父親は、14年前の回想シーンでしか顔を見せないが、ここにイニャリトゥ監督『バベル』でも注目された二階堂智を持ってくるとは、何とも贅沢な起用。

そして、田舎で姉妹を迎える叔父役が、滝藤賢一。公開時はまだ『半沢直樹』でのブレイク前だと思うが、さすが無名塾出身。どうみても、田舎の実家の親族にいそうな、人の好い叔父だ。

もう来ないものと諦めていた兄の娘たちが火葬場に現れた時の喜びようと、その後の激しい人格の豹変ぶりは圧巻の面白さ。

姉妹の腹違いの弟にあたる小学生の千尋(小林海人)も、小さいのに随分大人びたしっかり者の少年で、それこそ『海街diary』よろしく、田舎から連れ帰ってきても良かったのにと思ってしまう。

レビュー(ここからネタバレ)

随所に仕掛けられた軽めの伏線と回収

本作は、他の中野監督印の家族ドラマ同様に、それなりにハードな状況を抱えた家族を取り扱っている。

女を作って出て行った父親の事情について多くは語られないが、14年前に赤いお揃いのワンピースを着た小さな娘たちと離れることになる父親には胸が痛む。

「この子たちが大きくなったら、もう一度だけ会わせてほしい」と懇願した父親。浮気を許せなかった気丈な母だが、父親の切なる願いを覚えていて、何も言わず娘たちを差し向けたのだろうか。

(C)2012 ピクチャーズネットワーク/日吉ヶ丘ピクチャーズ

単純なストーリー展開のようにみせて、意外と随所に伏線が仕掛けられているのも、興味深い。

それは、姉のタバコだったり、幼い頃に父親を悲しませた万引きだったり、妹のマグロだったり。母親が金融関係のエリートというのも、伏線としては回収される。

「ユメを買うより、コメを買う」と言った母が、だから米を届ける男といい仲になりそうだったのかは、よく分からなかった。

カラッとした終わり方がいい

分からないと言えば、タイトルのカタカナの意味も不明だ。乳を触るカットや、洗濯もののブラジャーが傷んでいるのは分かったけど、監督のいう母性の意味を含めるとは? 

私はそれより、チチの二つのチとチの書き順を変えている(ロゴではそう見える)ことの方が気になった。

ともあれ、無事にお骨を一本、母のために万引きしてきた姉。一旦は号泣モードに入る母だが、ここでお涙頂戴にせずに、最後はカラッと終わらせるところが中野量太監督らしいところ。

『湯を沸かすほどの熱い愛』では、文字通り風呂を沸かすのに燃やしてしまったが、ここでは、愛する人の骨は、川に投げ込まれるのである。

「これで田舎に墓参りに行かないで済むよ』
千の風にならずとも、そういう考え方もある。