『陽気なギャングが地球を回す』今更レビュー|ロマンはどこだ?ねえな

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『陽気なギャングが地球を回す』 

伊坂幸太郎原作の初の映画化だけあって、正直内容はハチャメチャだが、豪華キャストに惹かれる人なら楽しめるかも。

公開:2006 年  時間:92分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:    前田哲
原作:    伊坂幸太郎
      『陽気なギャングが地球を回す』
キャスト
成瀬:    大沢たかお
響野:    佐藤浩市
久遠:    松田翔太
雪子:    鈴木京香
祥子:    加藤ローサ
地道:    大倉孝二
田中:    古田新太
朝倉:    光石研
林:     木下ほうか

勝手に評点:1.5 
        (私は薦めない)

あらすじ

他人の嘘がわかってしまう成瀬(大沢たかお)、正確に時を刻むことのできる体内時計を持つ雪子(鈴木京香)、演説をさせたら右に出る者はいない響野(佐藤浩市)と若き天才スリ久遠(松田翔太)

ある日彼らはロマンあふれる強盗計画を実行に移すのだが、突如現れた別の強盗にあっさり大金を奪われてしまう。

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今更レビュー(まずはネタバレなし)

軽妙洒脱はどこだ

伊坂幸太郎原作の映画化としては、最も古い作品のようだ。それもあってか、製作サイドはこの原作者の持ち味や原作のもつ魅力をきちんと理解できていないように思う。

ひょっとすると、伊坂幸太郎ミステリー作家だとも思っていなかったのではないか。そうでなければ、原作の肝である真相が解き明かされる部分を、あんなにいただけないものにするはずがない。

監督は前田哲。2021年10月には『そして、バトンは渡された』『老後の資金がありません!』と同月に二作が公開の売れっ子監督だが、本作ではどうにも不可解な演出が多い。

「陽気なギャング」シリーズの面白さは、個性豊かな強盗四人組の醸し出す軽妙洒脱なところであるはずが、本作はその魅力が伝えられていない。

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登場人物たちの特殊能力は紹介されるが、会話の情報量は多く、編集が慌ただしすぎて、筋を追うのに精いっぱいだ。読者でさえそうなのだから、予備知識のないひとには不親切な気もする。

銀行強盗の場に、店頭にいた客として偶然居合わせた四人が仲良くなって、彼ら自身が銀行強盗になる。喫茶ロマンを切り盛りしている響野の妻・祥子(加藤ローサ)や、もろもろ秘密兵器を開発してくれる業者の田中(古田新太)など、説明不足でわかりにくいキャラもいる。

『オーシャンズ11』『ルパン三世』あたりを意識したのかもしれないが、この四人組がなぜ、こんなに楽しそうに銀行強盗を繰り広げ、しかもあんなに派手な格好で犯罪に臨むのか、さっぱり理解できない。これは原作でも説明されていないが、映像で見せられると、違和感が強まる。

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不可解な点ばかりだ

伊坂幸太郎が原作あとがきで「90分くらいの映画が好きです」と書いているのを受け、本作も短い内容でコンパクトにまとめている。横浜みなとみらいの市街を十二分に活用したロケも、町が発展を続けている今ではとても実現できない代物に思える。そのくらいは褒めてあげたいが、あとは欠点しか思い浮かばない。

私が最初に感じた違和感は、カーアクション(というか、ただクルマが走っているだけのシーンでも)に、CGを採用していることだ。

アルファロメオ・Alfa155が登場して喜んでいたら、それがCGでがっかりした。不思議なことに、当時にしてはよくできたCGなのに、わざと車体を歪ませデフォルメして、特撮とバラしている

しかも本作はプロの技術なら実写で撮れる程度のカースタントでいける映画なのに、あえてCGにする意味が分からない。ここで猛烈に不信感が芽生える。クルマのCGに比較して、タイトルのロゴとか発射される弾丸とかは妙にチープなのも不思議だ。

人間嘘発見機の成瀬(大沢たかお)からは別れた妻や自閉症の息子という設定が消え、正確な体内時計をもつ雪子(鈴木京香)とのラブ・ロマンス要素が加味された。

否定はしないが、この恋愛要素や長いキスシーンは、必要だとも客寄せになるとも思えない。成瀬の上司役で松尾スズキがしつこく笑いをとりにいくが、これも意味不明だ。

演説の達人、響野佐藤浩市はさすがに存在感を感じさせたが、佐藤浩市なら、アドリブで演じてもらったほうが、もっと演説がうまかった気も。彼からは『少年メリケンサック』(宮藤官九郎監督)くらいのハジけた演技が見たかった。

天才スリ青年の久遠役の松田翔太本作が映画デビューなので、さすがにまだその後の活躍にみられるクールなキャラはなく、四人組の中では影が薄い。

ただ、大沢たかお、鈴木京香、佐藤浩市の三人だけでも、この当時、単独で主役を張れるだけの人気と実力をそれぞれ備えていたはずだ。これだけの布陣を揃えても、なぜ面白くならなかったか。

映画を先に観て懲りてしまった人も、ぜひ原作に立ち戻って、この四人組のクライム・コメディの楽しさを味わってほしいと思う。

a cheerful gang turns the earth

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見・未読の方はご留意願います。

原作ズタズタの暴挙

原作には、大きく二つのサプライズがある。成瀬たちが銀行強盗で奪ったカネを待ち伏せた連中に横取りされてしまうのだが、それは子供を誘拐された雪子が、脅迫されて仲間を裏切ったためだというのがまず一つ目。

そして、雪子の元夫である地道を使い彼女を再び脅迫してきた神崎という黒幕の指示で、四人組は再度銀行強盗をする羽目になるのだが、土壇場で裏をかくというのが二つ目のサプライズ。神崎は結構怖い人物に描かれており、成瀬たちと神崎のどちらが勝利するのか分からず、ハラハラする展開なのだ。

だが、映画は驚いたことに、原作で作り込んできたこの流れを無視して、まず雪子の裏切りについては、自ら簡単に成瀬に白状してしまう。謎解き要素なし。

また後者については、原作でのどんでん返しの計画を、成瀬は銀行を襲う前に、計画としてみんなに語ってしまうのだ。これによって、制服からモデルガンまで揃える警察オタクや、田中(古田新太)の作った監禁用のグルーシェニ・カー(カラマーゾフ由来って映画では言ってた?)など、原作での伏線はみな軽く流されてしまう

計画段階でネタを明かしてしまう以上、終盤には別のストーリーが用意されているが、これも噴飯ものだ。市長のパレードに敵がクルマで突っ込むことに必然性はないし、当たったと見せかけて血糊を噴霧して標的の直前で破裂する弾丸(田中謹製)はさすがに禁じ手と思う。

ラスボス相手にハラハラする展開を期待しようにも、四人組の顔ぶれに比較して、悪党連中の顔ぶれが貧弱すぎる

彼らを逆恨みして復讐機会をねらう朝倉(光石研)、神崎という架空の存在を作りカネを巻き上げようとしている雪子の元夫の地道(大倉孝二)、そしてその手先の林(木下ほうか、不快感が先立ってしまう)。

誰がラスボスでも、勝ち目があるようには思えず、ハラハラしようもない。この出演者勢だったら、古田新太なり大杉漣なり、もっと悪役のボス格が相応しい俳優がいたろうに。

後味に軽妙さは微塵もない

本作は最後の最後まで、神経を逆なでする。敵を懲らしめた四人組は、メキシコに行った久遠を追って、現地で銀行強盗に入り、大金をもって逃走する。

陽気なギャングたちに向かって、犯罪はけしからんといっても仕方ないが、それでも雪子が犯罪に子供まで巻き込んで一緒にクルマに乗っているのは、やはり違和感がある。彼女は息子にも犯罪者の道を歩ませたいのだろうか。

そして映画は、キリンを冷蔵庫に入れる4つのステップというなぞなぞの解答で終わる。これ懐かしいけど、原作にもなく、映画と何の関係もない、CMにも使われてた、よく知られたクイズではないのか。本作発祥ではないのなら、よくあんなに自慢げにエンディングで披露できたものだと思う。

伊坂原作は、しっかり読み込んだ監督にぜひ映画化してもらいたいものだ。著作『マリアビートル』をハリウッドで映画化したブラピ主演の『ブレット・トレイン』。やたら長い予告編は観たが、嫌な予感しかしない。