『沈まない三つの家』/『お兄チャンは戦場に行った!?』今更レビュー|中野量太監督作品2連発

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『沈まない三つの家』 

『沈まない三つの家』 
『お兄チャンは戦場に行った!?』

公開:2013 年  時間:69分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:  中野量太

キャスト
神田家: 松原菜野花、椎名琴音、橋本拓也、久藤今日子
相模家: 中村朝佳、泉光典、大沢まりを、山田奈々子 
最上家: 木村知貴、田中えみ

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

ⓒ 2013 kohakuiro cinema / 手島昭一

あらすじ

川に落ちた我が子を釣り上げようとする女とその夫、離婚する両親のどちらと住むのか選択を迫られ苦悩する姉妹、ある目的のために病気で死に行く叔父を見舞い続ける少女とその母。

川は昨日へと流す、悲しみも喜びも…大きな川が流れる街に住む三つの家族の物語。

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今更レビュー(ネタバレあります)

大きな川のある町の群像劇

中野量太監督による群像劇であり、当然のことながら、普通に平和に暮らす家族はひとつもなく、みんな重たいものを抱えながら頑張って生きている。

初めに大きな川で遊ぶ男の子が、母親が目を離した隙に川に落ちてしまう。そこから始まる三つの家族の話はそれぞれ独立しているが、川沿いの同じ町の中で少しだけ交錯する。

まずは神田家

離婚することになる両親のどちらと暮すか、選択を迫られる姉妹。優しい姉(椎名琴音)は看護師長の母を選ぶが、妹(松原菜野花)には、バランスなど考えずに自分の幸福を考えて選ぶよう諭す。

両親の愛情を試すようにコンビニで万引きし捕まる妹を、しかし両親とも仕事都合で迎えにこない。店長(木村知貴)が善人で救われる思いだ。

中野作品のミューズ・松原菜野花は、本作では『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』のような吃音少女を演じるが、こちらも好演。

姉の椎名琴音は、岩井俊二結成の音楽ユニット<ヘクとパスカル>のボーカルの女性だった。女優だったのか。あの<風が吹いている>の透明感のある歌声が、彼女のものだったとは、本作とは関係ないけど感動。

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次は相模家

冒頭、わがままな娘(中村朝佳)を夜に迎えに出た父が交通事故死。その重荷を背負った彼女は、余命わずかで闘病中の叔父(泉光典)を病院に熱心に訪ねる。

姪っ子のスカートの中に手を入れる太ももフェチの叔父のカットにはドキリとする。

子供の頃のように、死んだ兄と釣りをするんだと橋から身を投げてしまう叔父。彼は、<天国でお父さんに、ごめんなさいと伝えてほしい>という姪っ子の真意に気づいていた。

叔父の骨壺を便器でまたぐらに挟んで泣く彼女の絵面に、感動しつつも衝撃。あのトイレで床に流れる水はどう解釈したらいいのだろう。まさか小水ではあるまいに。

彼女に万引きを強要していた親友(成澤優子)絡みの挿話で、コンビニ店長が再登場。

また、川では、冒頭で少年を見失った母親が、息子を釣りあげようと糸を垂れている。橋の上では、離婚後にも定期的に再会する神田家の母娘の姿。こうして話は交錯する。

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最後は、最上家

冒頭に息子を見失った最上家に戻る。お気づきのとおり、三つの家族はみんな河川の名前にちなんでいる。万引き強要の親友名も鶴見さんという徹底ぶりだ。

そして、釣り糸を垂れ続ける妻(田中えみ)のもとに近寄る夫はなんとコンビニ店長。

「もういいんじゃないかな」

だが、最後に釣り竿に獲物が引っかかる。それは何だろう。母に釣りあげてもらい、やっと成仏できた男の子が、現れたのだろうか。

不思議と、希望の見えるラストであった。どんな家庭にも浮き沈みはある。だが、そう簡単には沈まない。そういう話に思えた。

『沈まない三つの家』 予告