『オリエント急行殺人事件』
Murder on the Orient Express
結末は分かっていても楽しめる、豪華キャストによる有名な殺人事件。監督・主演はケネス・ブラナー。彼の名探偵ポアロを見ているだけでも面白いけど、本音はジョニー・デップがもっと見たかったかな。
公開:2017 年 時間:114分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ケネス・ブラナー 原作: アガサ・クリスティ 『オリエント急行の殺人』 キャスト エルキュール・ポアロ:探偵 ケネス・ブラナー ピラール・エストラバドス:宣教師 ペネロペ・クルス ゲアハルト・ハードマン:教授 ウィレム・デフォー エドワード・ラチェット:富豪 ジョニー・デップ ヘクター・マックイーン:その秘書 ジョシュ・ギャッド エドワード・マスターマン:その執事 デレク・ジャコビ ドクター・アーバスノット:医師 レスリー・オドム・Jr キャロライン・ハバード:未亡人 ミシェル・ファイファー メアリ・デブナム:家庭教師 デイジー・リドリー ドラゴミロフ公爵夫人: ジュディ・デンチ ヒルデガルデ・シュミット:メイド オリヴィア・コールマン ルドルフ・アンドレニ伯爵: セルゲイ・ポルーニン エレナ・アンドレニ伯爵夫人: ルーシー・ボイントン ビニアミノ・マルケス:セールスマン マヌエル・ガルシア=ルルフォ ブーク:列車運行会社の重役 トム・ベイトマン ピエール・ミシェル:車掌 マーワン・ケンザリ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
エルサレムで事件を解決した私立探偵のエルキュール・ポアロが乗車していたオリエント急行の車内で殺人事件が発生する。被害者はポアロに身辺警護を依頼してきた富豪エドワード・ラチェット。
教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人。目的地以外は共通点のない乗客たちと車掌をあわせた13人が、殺人事件の容疑者となる。
ポアロは、列車内という動く密室で起こった事件の解決に挑む。
レビュー(ネタバレなし)
アガサ・クリスティの名作ミステリーをケネス・ブラナーが製作・監督・主演。ノーラン監督作品の流れでケネス・ブラナーの映画が観たくなって、本作を選ぶ。
シドニー・ルメット監督の1974年公開版の『オリエント急行殺人事件』も、大昔に観た。大層豪華なキャスティングだったことは覚えている。
だが本作もルメット版に負けず劣らずの豪華キャストだ。あいにく比較できるほど記憶は定かでないので、あくまで本作単体でのレビューを書かせていただく。
ミステリーの女王アガサ・クリスティによるかの有名な原作は、映画やドラマにもなっており、そのトリックや結末はわりと知られているのではないかと思う。
私は都合よくその辺の記憶がなくなっていたので、途中まで新鮮な気持ちで没頭することができた。
残念ながら、数年前にテレビで観た三谷幸喜によるスペシャルドラマの記憶がよみがえり、本作観賞の途中でトリックを思い出してしまったのだが、それでも十分に見応えはあったように思う。
◇
その内容をここでネタバレしてもあまりに味気ないので、今回トリックについては語らないことにしたい。知っている人には解説不要だし、未見・未読の人には邪魔な情報なので。
その分、いつもより多めに、キャスティングの紹介をしたい。人数は多いが、いずれも事件現場である列車内にいた乗客・乗務員の一人であり、探偵と被害者を除けば、容疑者でもある。
キャスティング一挙紹介
エルキュール・ポアロ
世界一の名探偵を自任するポアロ。今回も、列車の乗る前後で別の事件解決に関わっており、引く手あまたの探偵だが、善と悪の線引きには厳しい。
ちなみに原作のポアロは小柄だそうだが、映画のポアロは常に大柄だ。大仰なひげは、むしろ原作に忠実だそうで、中盤以降は見慣れてくる。ひげ専用のカバーを付けて寝るのやディケンズの小説で笑うのも原作由来か。
シェイクスピア劇で名をはせた名優ケネス・ブラナーはこの手の役柄もお手のものだろうが、製作・監督もこなすのだから大した才人である。
思えばマーベルの『マイティ・ソー』も彼の監督作品なのは意外だが、監督名を聞くと、MCU唯一の神話ヒーローの世界観に、どことなくシェイクスピア的なものを感じ取ってしまう。
エドワード・ラチェット
実業家。彼の狡猾さや獰猛さを感じ取り、ポアロは頼まれた護衛を断る。本名はカセッティ。デイジー・アームストロングを誘拐・殺害した犯人だが、正体を伏せていた。寝台で12回刺され、死亡。
ジョニー・デップ様の悪党ぶりが冴える演技で、早々に退場となるのがちょっと残念。
ヘクター・マックイーン
ラチェットの秘書であるが、個人的な面識はあまり見られず、金目当てで彼に近づいたような人物。演じるジョシュ・ギャッドは『アナ雪』のオラフ声優として有名らしい。
エドワード・ヘンリー・マスターマン
ラチェットの執事で、無表情でかしこまった老齢の男性。演じるデレク・ジャコビは若き日のケネス・ブラナーが憧れたシェイクスピア劇俳優のベテラン。
ケネス・ブラナーがローレンス・オリビエを演じた映画『マリリン 7日間の恋』では、デレク・ジャコビとジュディ・デンチも共演していた。
ドクター・アーバスノット
ラチェットの死体を確認した医師。従軍経験もある。演じたレスリー・オドム・Jr.は映画初出演のようだが、舞台では全米で高い評価を得た『ハミルトン』に出演している実力派。
メアリ・デブナム
家庭教師をしていた若い女性、アーバスノット医師とも繋がりがありそう。演じたデイジー・リドリー、どこかで見覚えある女優だと思っていたら、『スター・ウォーズ』のレイではないか。
ドラゴミロフ公爵夫人
高齢だが高潔な大富豪公爵夫人。言わずと知れた大女優、ジュディ・デンチがいるだけで座が締まる。今回の豪華キャスティングも、まずは彼女へのオファーから始まったそうだが、おかげで他の俳優たちのオファーもスムーズに進んだとか。
ヒルデガルデ・シュミット
ドラゴミロフ公爵夫人に長年仕える無表情で静かなメイド。オリヴィア・コールマンは、『女王陛下のお気に入り』でアン女王を演じた女優。あの映画は宮廷ドラマにしてはとても面白かった印象が強いけれど、なぜか女王の記憶は薄い。
キャロライン・ハバード夫人
陽気でおしゃべりな中年女性で、複数回結婚している。演じるミシェル・ファイファーは、近作の『アントマン&ワスプ』の老いた母親役とは異なるお色気満点モード。
ピラール・エストラバドス
羊のような宣教師、ラチェットと最後に会った人物。ペネロペ・クルスが演じるが、役柄からか彼女の美しさとかセクシーさとかは相当抑制されていて、こういう役は珍しいかも。
ルドルフ・アンドレニ伯爵
外交官をしている若い美男。妻を事件にあまり関わらせないよう擁護している。セルゲイ・ポルーニンは著名なバレエダンサー。史上最年少プリンシパルの座を獲得するも、ロイヤルバレエ団を脱退し、その後は様々な分野で活躍しているそうだ。寡聞にして知らなかった。
エレナ・アンドレニ伯爵夫人
アンドレニ伯爵の美しき若妻。ルーシー・ボイントンは『ボヘミアン・ラプソディ』で若き日のフレディ・マーキュリーの恋人メアリーを演じた女優。
ゲアハルト・ハードマン
教授として通していたが、実は私立探偵でラチェットに依頼されて身辺護衛を行っていた。何でもこなす名優ウィレム・デフォーだが、『半沢直樹』を観た後だと、浅野和之に見えてしまう。
ビニアミノ・マルケス
自動車のセールスマンで、色の浅黒い陽気な男。演じるマヌエル・ガルシア=ルルフォは、『マグニフィセント・セブン』の用心棒や『6アンダーグラウンド』のヒットマンと、チームメンバーの一員役が多い。
ピエール・ミシェル
オリエント急行の車掌で、ラチェットの死体の発見者でもある。一応、容疑者の一人。マーワン・ケンザリは『オールドガード』の不死身メンバーの一員だった。気づかなかったな。
ブーク
国際寝台車会社の重役で、ポアロの古くからの知人。所用でオリエント急行に乗っていたところ事件の発生を知り、会社としてポアロに事件の究明を要請する。トム・ベイトマンはブーク役で次回作にも出るようだ。
おわりに
それにしても、豪華な寝台特急というのは狭さゆえに撮影は大変そうだが、映画の舞台としては大変魅力的だ。
列車という環境が旅情をかきたてるし、手の込んだ調度品や食事などの美しさ、閉鎖空間の緊張感もある、それでいて舞台自体が大陸を移動しているので、大きく遠景を写しても絵になる。
雪で立ち往生する列車は原作通りなのだろうが、雪崩で脱線してしまうほどの大迫力はサービスだろうか。懐かしきアクション映画『アバランチエクスプレス』を思い出してしまった。
◇
ところで、文学界で同じ名探偵ものと言えば、先日観た『エノーラ・ホームズの事件簿』はシャーロック・ホームズの妹の話。名探偵の活躍は僅少だったが、暗号解読ばかりが多いのが難点だった。
本作も名探偵の活躍としてアクションは当然少なく、またそれぞれの容疑者との事情聴取がメインになってしまうのは、映画的にはやや盛り上がりに欠けた気がする。
そこに原作の面白味があるとすれば、事情聴取を楽しむのが正しい鑑賞法なのかもしれないが。
◇
ラストのトンネルに全員を並べて座らせての謎解きは、最後の晩餐のようだ。さて、めでたく解決したあとに、次の事件のお呼びがかかるあたりは金田一耕助のようだが、横溝正史がこのアガサ・クリスティーのスタイルを参考にしたのだろう。
次に控えるのは『ナイル殺人事件』か。これも大昔に観たので、どんな違いを見せてくれるのか楽しみだ。ケネス・ブラナーは、何作までポアロを作り続けるつもりだろうか。
以上、お読みいただき、ありがとうございました。久々にアガサ・クリスティー、再読はいかがでしょう。結構、読みやすいようです。