『ファイティング・ファミリー』
Fighting with My Family
プロレスをこよなく愛し家族全員がレスラーという一家。題名に偽りなし。ザ・ロックの本人役は目立つ。ニック・フロストの父親のおバカな言動に垣間見える家族愛とプロレス愛が沁みる。家族ドラマとして観るのが正解。
公開:2019 年 時間:108分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: スティーヴン・マーチャント
原作: マックス・フィッシャー
『The Wrestlers:
Fighting with My Family』
キャスト
サラヤ(ペイジ):
フローレンス・ピュー
ザック(ゾディアック):
ジャック・ロウデン
パトリック: ニック・フロスト
ジュリア: レナ・ヘディ
ハッチ・モーガン:
ヴィンス・ヴォーン
ドウェイン・ジョンソン: 本人
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
イギリス北部でレスリングジムを営むナイト一家。13歳からリングに立っている18歳のサラヤ(フローレンス・ピュー)は、いつかWWEの試合に出て一家を盛り上げたいと願っていた。
兄ザック(ジャック・ロウデン)もプロレス命だが、その一方で愛する彼女と結婚して普通の家庭を持ちたいとも考えている。
ある日、WWEのトライアウトに参加した二人だったが、サラヤ(ペイジ)だけが次のステージに進み、フロリダへ行くことが決定する。
レビュー(ネタバレなし)
プロレスに疎くても大丈夫
WWEの女性プロレスラー、ペイジの実話に基づいたドラマであるが、何を隠そう、プロレスに疎い私は、WWEは勿論、ペイジという人物の存在すら分かっていない。
トライアウトに兄のザックを差し置いて、妹のペイジだけが選抜に残ったところで、もしかしたら主人公はザックではなく妹の方ではないかと気づいたくらいの門外漢である。
◇
だが、そんなズブシロで、ザ・ロックのドウェイン・ジョンソンくらいしかレスラーが判別できない私にも、レスリングをこよなく愛するレスラー馬鹿の一家の物語として、結構楽しめる作品に仕上がっている。
アメフトやラグビーだったら、ルールが分からないと映画もつまらないだろうが、プロレスならば、勝敗が良く分からず映画もチンプンカンプンということはなさそうだ。ハードルは低い。
大黒柱のニックフロストの陽気さがいい
さて、このレスリング映画なるジャンル。過去の鑑賞作品を思い浮かべると、洋画だとミッキーロークの『レスラー』、邦画では佐藤隆太の『ガチ☆ボーイ』、棚橋弘至の『パパはわるものチャンピオン』だのが記憶をよぎる。
どれもちょっと古いが、『ガチ☆ボーイ』は意外に泣けた、『パパは~』は棚橋弘至主演なので、試合の本物感が違うなあという記憶がある。どの作品も、基本的にプロレスはストイックに描かれていたと思う。
◇
本作はどうか。プロレスそのものはマジメに撮られ、またペイジのスタントもギリギリまで入れずに撮っている苦労もあったようだ。素人目には、よくできていたのではという感想。
だが、何といっても一家五人が全員レスラーという、プロレス一家が猛烈に陽気にプロレスを愛しているところがいい。
◇
特に、父親のパトリック・ベヴィス(ニック・フロスト)が最高だ。正直、今まではサイモン・ペグと一緒に『ショーン・オブ・ザ・デッド』などでバカをやっている役の印象しかなかった。
ザ・ロックが言うところの<セックステープ>さながらに、サイモン・ペグの引き立て役だったが、本作は堂々の大黒柱。笑いも、家族からの信頼も、きっちり押さえている。
フローレンス・ピューの変幻自在
主人公ペイジを演じたフローレンス・ピューは、ペイジ本人に寄せに行っているのが、本物を見ると良く分かる。
『ブラックウィドウ』はコロナ影響で公開が延びてしまったが、評価の高い『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』などの彼女を見ても、本作から受ける印象とギャップが大きい。まるで『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラのようだ。
◇
兄ザックを演じたジャック・ロウデンはレスラーの頑健さと、WWEでトップを目指す長年の夢を妹に取られる屈折した心情の弱さをうまく演じている。
彼には結構共感できた。もう少し、レスラーとしての見せ場をあげたかったけど。
ザックの彼女の上品な両親が、荒っぽいレスラー一家の食事に招かれて、パトリックの犯罪歴などを聞き、自分たちの生活とのギャップに驚いていく様子が面白い。
夫役は、監督のスティーヴン・マーチャントだそうだが、彼は俳優が本業で、最近では『ジョジョ・ラビット』にも出ている。そのジョジョでは監督のタイカ・ワイティティがヒトラー役をやっていたりで、どうにも複雑だ。
レビュー(ネタバレあり)
ドウェイン・ジョンソンは扱いが大きい
WWEの鬼コーチ、ハッチ・モーガン(ヴィンス・ヴォーン)がペイジたちをしごき抜き、毎日彼が握手したものが脱落していくシステムは、オーディションものにはありがちのパターンではあるが、結構楽しめる。
セクシーなヴィジュアルが武器でプロレス経験不足のライバルたちを、ペイジが蹴落としていくのだと思っていた。
だが、なんと、体力不足やら友だちができないやらで、さっさと夢を諦めて彼女自身が脱落してしまいそうになるのだ。結構意外な展開だった。
ザ・ロックのドウェイン・ジョンソンについては一言いいたい。ペイジやザックが子供のころから憧れていたスーパースターは、冒頭で偶然に出会うシーンと、終盤に再度出てくるシーン、いずれもスターのオーラに溢れていて、カッコいいのは激しく同意する。
でも、あくまで本作の主役はペイジおよびレスラー一家であって、ポスターでザ・ロックが一番でかくて目立ってるってのはどうなのよ、と思う。
ほんの数シーン出るだけで、本作ではプロデューサーだろうに。本作のターゲット層のプロレスファンには、違和感ないのかな。
終盤の展開は予定調和モード
さて、本作は実話ベースだと冒頭に出るし、ラストに出てくる本物のペイジと一家の映像からも、結構頑張って本物を再現しているのだと分かった。
ただ、それゆえか、鬼コーチのもとで日々頑張ってトレーニングしているシーンから、レッスルマニアの試合に連れて行ってもらって以降の展開の速さというか、最後に待っているであろう勝利に向かって一直線の予定調和感が、少し気になった。
◇
その、最後のAJ・リーとの試合であるが、ぶっちゃけ対戦相手にしてはあまり強そうに見えないな、と思っていた。ところが、本物の試合映像をあとで確認してみたら、結構再現力が高いではないか。これは参りました。
実話ベースであることにこだわらない私には、終盤くらいはもう少し脚色してもいいのにと感じたが、この忠実さが、プロレスファンには納得の出来なのかもしれない。
ボール紙で作ったチャンピオンベルトを、兄妹で高々と掲げる幼い頃の写真は、実にかわいい。