『ダンケルク』 考察とネタバレ:英国人はこの<名誉ある撤退>でのスピリットを忘れない

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『ダンケルク』 Dunkirk

ノーラン監督が空想を離れ、名誉ある撤退を映画化。個人の目線で捕えた戦争の迫力と悲惨さを体感せよ。ハンス・ジマーの劇伴が、CGなしの広大な海岸の圧倒的スケールが、迫り来る水と火の恐怖が、不安を煽る。

公開:2017 年  時間:106分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:  クリストファー・ノーラン

キャスト
<防波堤 1週間>
トミー: フィオン・ホワイトヘッド
ギブソン: アナイリン・バーナード
アレックス:  ハリー・スタイルズ
ボルトン:    ケネス・ブラナー
ウィナント: ジェームズ・ダーシー

<海 1日>
ドーソン:   マーク・ライランス
ピーター: トム・グリン=カーニー
ジョージ:    バリー・コーガン
謎の英国兵: キリアン・マーフィー

<空 1時間>
ファリア:     トム・ハーディ
コリンズ:   ジャック・ロウデン

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

あらすじ

フランス北端ダンケルクに追い詰められた英仏連合軍40万人の兵士。背後は海。陸・空からは敵。そんな逃げ場なしの状況でも、生き抜くことを諦めないトミー(フィオン・ホワイトヘッド)と若き兵士たち。

一方、母国イギリスでは海を隔てた対岸の仲間を助けようと、民間船までもが動員された救出作戦が動き出そうとしていた。民間の船長ドーソン(マーク・ライランス)は息子ピーター(トム・グリン=カーニー)らと共に危険を顧みずダンケルクへと向かう。

英空軍のパイロット・ファリア(トム・ハーディー)達も、数において形勢不利ながら、出撃。こうして、命をかけた史上最大の救出作戦が始まった。果たしてトミーと仲間たちは生き抜けるのか。

レビュー(まずはネタバレなし)

時系列の処理にノーランらしさ

本作も『TENET』公開に先立ちリバイバル上映されたもの。クリストファー・ノーラン監督が、今までの空想世界ベースの映画ではなく本作のような事実に基づく作品を取るのは珍しいが、時系列の扱い方に彼らしさが窺える。

防波堤・海・空の3パートで構成され、それぞれ、1週間・1日・1時間とタイムスパンが異なる。その時間の流れのなかで、各パートでドラマが展開される訳だが、それは中盤以降から交錯しあって最後には一つに集約していくのである。

文字にすると複雑だが、時系列でシーンを逆行する『メメント』や、時間そのものが逆行してしまう『TENET』に比べれば、ごく自然な構成であり、シーン構成を意識する必要は殆どない。

言い換えれば、ノーラン作品にしては、時系列だとか、ここは夢の何階層だとかを考えずに、物語に没頭すればよいのでまあ、分かりやすいといえる。

そうは言っても、気楽に観ていられる雰囲気ではない。冒頭でドイツ軍がダンケルクの町の空中にばら撒く「We Surround You」の降伏を促すビラが、一目で英仏連合軍の不利な状況を教えてくれる。

そしていきなりの銃撃で部隊の仲間は全滅、ひとり残った主人公の二等兵トミーが、砂浜で撤退のための乗船を待つ何千人という兵士を目の当たりにする。

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

時代背景を簡単に紹介

時代背景としては第二次世界大戦初期の1940年5月。ポーランドを侵攻して北フランスまで勢力を広げたドイツ軍が、英仏連合軍をダンケルクへと追い詰めていく。

イギリス首相のチャーチルは、ダンケルクに取り残された兵士40万人の救出を命じ、軍艦はもとより、民間の船舶も総動員したダイナモ作戦を発動するというのが史実。

勿論、知っていて観賞した方が面白いと思うが、映画の登場人物同様、先の見えない戦局の中で、目先の危機を乗り切るのが精一杯という状況を体感することが何よりのポイント。

その意味では、戦史的な知識はあまり重要でない。

徹底して煽る不安感

全編に流れ不安感をあおるハンス・ジマーによる重低音中心の劇伴音楽。曇天の下の広大な砂浜に大量の兵士を写すスケール感。

どこからか銃撃され、メッサーシュミットの飛行シーンは出てきても、敵のドイツ軍の姿は一度も登場させない徹底ぶりが、かえって不気味さを煽る。

ダンケルクの戦いは、撤退という作戦ゆえか、映画としてお目にかかる例は少ないように思う。

イアン・マキューアン原作の『つぐない』を思い出すが、あれは戦争映画というよりは恋愛メインだ。わざわざこの題材を選ぶところがノーラン監督らしい。

CG撤廃のリアリズム。俯瞰映像もパイロット目線によるものを除けば、極小化している。

徹底した英国軍目線で、ドイツ軍は勿論のこと、連合のフランス軍の登場さえも、冒頭の市街戦で助けられた以外は皆無に等しい。

観客が、主人公とともに悲惨なオペレーションに巻き込まれている感覚は、後発のサム・メンデス監督『1917命をかけた伝令』 と相通じるところがある。

キャスティングについて

主なキャスティングは、メインパートの<防波堤 1週間>ではトミーを演じたフィオン・ホワイトヘッドと、無口な友人ギブソンにアナイリン・バーナード、アレックスにハリー・スタイルズ

また<海 1日>では、息子ピーターを演じたトム・グリン=カーニーと、ジョージ少年のバリー・コーガンなど。

若手俳優陣は、あまり日本では馴染みがなさそうなフレッシュなメンバー。とはいえ、ハリー・スタイルズは1Dだから有名か。

バリー・コーガンの印象的な顔立ちは、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』の恐ろしい少年として鮮明に記憶している。

また、ノーラン組メンバーとしては『インセプション』からトム・ハーディ(パイロット)、キリアン・マーフィー(民間船に救出された兵)。

ボルトン海軍中佐のケネス・ブラナーは、男気溢れる指揮官を演じたが、次作『TENET』ではヴィランというのも面白い。

常連のマイケル・ケインは今回、墜落した隊長の声の出演だけらしいが、さすがに聞き分けられず。

それにしても、トム・ハーディは今回ほぼ空中戦のシーンなので、ヘルメットをはずしてまともに顔を見せてくれるのは最後の1シーンのみではなかったか。少々物足りない。

(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.

レビュー(ここからネタバレ)

やはりこのシーンに尽きる

桟橋が破壊されたために、浜に近づけない駆逐艦まで兵士を運ぶ術がなく、救出が絶望視される中、ドーバーを渡って多数の民間船が兵士の救出に現われるシーンはやはり感動的だ。

民間船のドーソン船長の気骨溢れる頑固ぶりが、何とも味わい深い。

双眼鏡を通して、水平線の彼方から英国旗を掲げた民間船が見え始める。

ウィナント陸軍大佐:「何が見えますか」
ボルトン海軍中佐:少し微笑んで「故国だ」

ここがクライマックスでも良さそうなものだが、更に主人公たちには難局が待っており、映画としてはもうひと捻りある。

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誰も運命は紙一重

閉じこめられた船が浸水して溺死するのは苦しそうでゴメンだが、本作のように、水面に広がった重油が炎上して、下は大水、上は大火事となっている海中でもがき苦しむのは、更につらそう。

帰還する燃料もなくなり、仲間を救うためにひとりスピットファイアで戦い続け、最後には地で愛機をわざと燃やし、独軍に降伏するパイロットのファリア。格好よすぎる。

危機一髪に登場して敵を蹴散らすわけだから、地上では大歓声。アドレナリンも放出されまくりなシーンは、戦争映画には欠かせないものなのだろうが、反戦の立場からは、ちょっと複雑な心境ではある。

汽車で戻った本土で市民の怒りに脅える兵士を、『名誉ある撤退』と歓待する市民。だが、列車の中で新聞記事を読むトミーの表情は悲痛に見えた。

ギブソンをはじめ、大勢の仲間が犠牲になったこの撤退のなかで、自分たちがここにいられることは、紙一重の運の結果でしかない。そんな思いだろうか。