『ザ・スイッチ』考察とネタバレ|お手軽B級ホラーと侮れない

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『ザ・スイッチ』 
 Freaky

ボディスイッチの映画は数あれど、女子高生と連続殺人犯はなかなか目新しい組み合わせ。ホラー要素もありのコメディ。いや、逆か。

公開:2021 年  時間:101分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督・脚本: クリストファー・ランドン
製作:       ジェイソン・ブラム

キャスト
ブッチャー:     ヴィンス・ヴォーン
ミリー・ケスラー:キャスリン・ニュートン
コーラル・ケスラー:    
         ケイティ・フィナーラン
シャーリーン・ケスラー:デイナ・ドゥロリ
ナイラ:       セレステ・オコナー
ジョシュ:   ミシャ・オシェロヴィッチ
ベルナルディ先生:    アラン・ラック
ブッカー:      ユリア・シェルトン
ライラー:      メリッサ・コラーゾ

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS

あらすじ

家でも学校でも我慢を強いられる生活を送る冴えない女子高生のミリー(キャスリン・ニュートン)

ある夜、アメフトの応援後に無人のグラウンドで母の迎えを待っていた彼女に、背後から指名手配犯の連続殺人鬼ブッチャー(ヴィンス・ヴォーン)が忍び寄る。

鳴り響く雷鳴とともにブッチャーに短剣を突き立てられたミリーだったが、その時、2人の身体が入れ替わってしまう。24時間以内に入れ替わりを解かなければ、二度と元の身体に戻れない。

ミリーは新たな殺戮を企てるブッチャーを相手に、自分の身体を取り戻そうとするが。

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レビュー(まずはネタバレなし)

ボディスイッチものだが独自性あり

女子高生と連続殺人鬼の身体が入れ替わってしまう。そう聞くと脳裏をよみがえる数々のボディスイッチ映画。

洋画なら『フォーチュン・クッキー』、邦画なら大林宣彦の『転校生』あたりが有名どころか。国内ドラマでも、『パパとムスメの7日間』やら、最近なら『天国と地獄 〜サイコな 2人〜』とか。

題材としては目新しくはない。そもそも原題のFreakyだって、この手の映画のはしりといえるジョディ・フォスターの『フリーキー・フライデー』を意識したものだろう。

製作者側は、これら過去作品に敬意を払いつつも、気弱な女子高生と恐ろしい猟奇殺人鬼という組み合わせにホラー要素もぶち込んで独自性をうみだし、アイデア勝負の映画に仕立てたのだ。

低予算ながらも快進撃を続ける制作会社のブラムハウス。代表者のジェイソン・ブラムと組んで『ハッピー・デス・デイ』の監督や『パラノーマル・アクティビティ』シリーズの脚本に携わったクリストファー・ランドン監督。

本作も、<11日の水曜日>で始まる冒頭からB級ホラーの匂いがプンプンする。だって、明後日が13金になるのがミエミエだし、ジェイソンみたいなマスク男が登場するし。

(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS

都市伝説の男と運命の出会い

怪しい洋館には二組の若者カップル。どれが主人公の女子高生だろうと思っていたら、あっという間に全員惨殺。怖がらせようという演出意図は感じさせず、ホラーとも言えないかも。

そして、都市伝説の殺人鬼・ブッチャー(ヴィンス・ヴォーン)は、屋敷で「ラ・ドーラ」という神秘的な剣を手に入れる。

<12日の木曜日>になり、ようやく主人公の女子高生ミリー(キャスリン・ニュートン)が登場。

気弱なミリーは高校でもからかわれる対象になっているが、女友達のナイラ(セレステ・オコナー)とゲイのジョシュ(ミシャ・オシェロヴィッチ)という二人の親友のおかげで、どうにか楽しく学校生活を過ごせている。

(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS

ミリーは父親を一年前に亡くし、気弱な娘に細かく指示を与えて振り回す母コーラル(ケイティ・フィナーラン)と、妹とは正反対の気質で仕事にうちこむ警察官の姉シャーリーン(デイナ・ドゥロリ)と暮らしている。

これらに加え、学校には厳しい先生(アラン・ラック)や、意地悪女ライラー(メリッサ・コラーゾ)ほか仲の悪い級友たち、それにミリーが憧れる片想いのブッカー(ユリア・シェルトン)など、登場人物過多の導入部分。

だが、さほど混乱もせず、というより感心したのは、これらのキャラクターがほぼ全員、しっかりと終盤で見せ場が与えられ活躍するか、さもなければ鮮やかに殺されるか、そのいずれかに落ち着く点だ。

脚本を軽視した作品ではないことがよく分かる。でも、ブッチャーとブッカーにナイラとライラー、もう少し聞き分けやすい役名を付けてくれよ、とは思った。

さて、12日の晩、誰もいない高校のグラウンドで、ようやくミリーとブッチャーは偶然に対峙する。ここでラ・ドーラの不思議な力により、二人の身体が入れ替わることになるのだが、それに気づくのは、まさに翌朝の<13日の金曜日>なのである。

(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS

キャスティングについて

女子高生ミリーにはキャスリン・ニュートン。かつてクリストファー・ランドンが脚本の『パラノーマル・アクティビティ4』に出演していたとはいえ、『レディ・バード』『スリー・ビルボード』とキャリアを重ねて、この手の映画は卒業かと思っていたが、堂々復帰。

今後は『アントマン&ワスプ』の続編にも出る予定だから、『ブラックウィドウ』のフローレンス・ピューみたいな活躍を期待。

本作は殺人鬼の魂が憑依する難しい役を熱演していたが、キャスリン・ニュートン華やかなルックスだと、気弱な非モテ女子にも見えないし、あのスリムな体つきだと、殺人鬼として迫力が不足するのが惜しい。

(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS

一方の猟奇殺人鬼のブッチャーにはヴィンス・ヴォーン。S・クレイグ・ザラー監督と組んだ『ブルータル・ジャスティス』『デンジャラス・プリズン -牢獄の処刑人-』の印象が強すぎて、シリアルキラーの方は違和感ない

女子高生パートの演技は意外だったけど、最高に笑えた。もともとコメディアンだから、この手の演技も得意分野か。

大柄で強面のヴィンス・ヴォーンが女性っぽい動きで恥じらうだけで笑いが取れる分、キャスリン・ニュートンより優勢だったのかもしれない。

『転校生-さよなら あなた-』を観た時に、新旧作いずれも女優が男になる演技の方が目立ち、女々しく泣くのが中心の男優は不利だと思っていた

だが、殺人犯・高橋一生が女刑事になった『天国と地獄 〜サイコな 2人〜』といい、本作といい、演技・演出・脚本のバランスによっては、男優が目立つことは可能だということがよく分かった。

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レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

どうにもブッチャー(中身ミリー)が不利

公式サイトにも一部載っていることだが、ラ・ドーラの剣を使った儀式が途中で失敗すると、両者の身体が入れ替わってしまい、24時間が経過すると永遠に元には戻らない

まあ、強引な設定なわけだが、そこに噛みついても仕方がない。学校のグラウンドでミリーに襲い掛かったブッチャー、月の隠れるタイミングと関係があったのか分からないが、たまたま儀式(それも失敗の)として認定されてしまったのだ。

交代が起きたあとのミリー(中身ブッチャー)は、異変に気付くも、これでまた怪しまれずに殺人が繰り返せるようになったわいと、ミリーになりすまして家族と接し、学校でも獲物を探し始める。

母や姉は包丁で殺されそうになるが、そうと知らずにミリーを偶然制止するハラハラ感がいい。

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ブッチャー(中身ミリー)は相対的に不利な状況だ。隠れ家で目覚め、出歩くと殺人犯として指名手配されており、みんなが騒ぐ。

大男の体臭に嫌気がさしながら、学校に逃げこむも、親友のナイラとジョシュは殺人犯が来たと誤解し必死に抗戦。

ブッチャーの説明に耳を貸さずに戦ってしまうのは無理もない。なんとか二人に状況を理解させたあと、元の身体に戻る為に、相手を探さなければという展開になる。

(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS

作りこまれた伏線の数々

ネタバレになるが、自分がミリーだと理解させるのに、好きな映画(ピッチ・パーフェクト2)、高校の部活のチアダンス、三人でのハイタッチの決めポーズと、全ての情報はさりげなく前半に仕込まれていて美しい。

タイムリミットまでに何とかミリー(中身ブッチャー)を捕まえようとする三人が、ブッチャー(中身ミリー)が指名手配犯と誤認され警察に追われる中で、どう敵を捕獲するか、そして儀式に必要なラ・ドーラの剣を警察の証拠品倉庫から奪還するか。

この展開のなかで、宿直をしている、職務に忠実な警察官の姉シャーリーンがうまい具合に絡んでくる(本件に関与する警察官がほぼ彼女一人なのは、やや不自然だが)。

映画『ザ・スイッチ』本予告編<4月9日(金)公開>

また、ブッチャー(中身ミリー)が逃げ込んだショッピング・モールの試着室で、そこに働く母とドア越しに会話し、見知らぬ店員と客なのに、娘への心配や亡き夫の話を聞くうちに、母を元気づけるという、ちょっといい挿話もある。

B級ホラーと侮ることなかれ結構脚本は作りこまれているのだ。

果たして、無事に剣を持って、儀式を再現できるか。そこに至るまでにも、晴れて両想いになったブッカーが、前半に授業を遅刻ばかりのミリーに言った <何でも5分前の心構え>という伏線が効いてくる。

いい雰囲気になったブッカーが、中身がミリーとはいえ、ブッチャーとキスするシーンは噴いた

最後は当然、予定調和で終わるのだけれど、そのあとにももう一ひねりあるところが、さすが素晴らしきB級ホラーの世界。