映画『団地』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『団地』考察とネタバレ|団地の給水塔マニアも萌える逸品

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『団地』

阪本順治監督がお馴染みのメンバーに斎藤工を加えて贈る、団地を舞台にした不思議な世界。

公開:2016 年  時間:103分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:    阪本順治

キャスト
山下ヒナ子: 藤山直美
山下清治:  岸部一徳
行徳君子:  大楠道代
行徳正三:  石橋蓮司
真城:    斎藤工

勝手に評点:3.0 
(一見の価値はあり)

(C)2016「団地」製作委員

ポイント

  • 大阪の団地で漢方を調剤する家内制手工業ぶりがいい。阪本順治常連組と斎藤工の不思議なマリアージュ。大阪弁が良く合うコメディなのだが、後半からは違うジャンルに様変わり。団地の床下収納って、意外に広いの?

あらすじ

大阪近郊にある、古ぼけた団地。山下ヒナ子(藤山直美)と漢方薬局店主の清治(岸部一徳)の夫婦は半年前に店を閉め、引っ越してきたばかりだった。

妙な言動の青年・真城(斎藤工)だけが、清治の漢方薬を求めて時おり訪れる。

調子のいい自治会長の行徳(石橋蓮司)と、しっかり者の妻の君子(大楠道代)とは仲良く付き合うが、ひっそりと暮らすヒナ子たちに、暇を持て余した団地妻たちは好奇心を向ける。

ある日、些細な出来事でヘソを曲げた清治が「僕は死んだことにしてくれ」と床下に隠れてしまう。

夫の姿が団地から消えても、平然とパートに通い続けるヒナ子を、住民たちは妄想で殺人妻に仕立てていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

いい意味で、すっかり騙された

いい意味で、大きく裏切られた気持ちになっている。

藤山直美といえば喜劇女優の代名詞のような人物であり、阪本順治監督も、幅広なジャンルを撮る人だと思うが、『大鹿村騒動記』のような作品があるので、本作は大阪の団地を舞台にしたコメディだと信じて疑わなかった。

勿論それは間違ってはいないのだが、コメディタッチではあるものの、根っこはまったく異なるジャンルの映画であることに気づく。ネタバレはここではしないが、これには(勝手に)騙された。


昭和感あふれる団地に流れる浜村淳のラジオ番組「人生はサバンナだ」で、冒頭から脱力モードになる。

漢方薬店を突如廃業して、団地の部屋の中に大量の生薬を貯蔵している夫婦。たまに要望に応えて薬を調合するという、奇抜な設定がまず面白い。

団地の狭い空間の中で、生薬を混ぜては煮たり捏ねたり、伸ばしてノギスで測ったり。食卓の上で、等分に切って丸薬にする流れは、パティシエの華麗な手作業を見ているようで楽しい。

(C)2016「団地」製作委員会

珍妙にして絶妙な配役

藤山直美岸部一徳。多くの共演で息の合った二人に大楠道代石橋蓮司という阪本組常連も加わる。

しかも全員を監督があて書きして作った脚本というのだから、作っている側の一体感とかノリの良さが、画面からにじみ出てくるようだ。

阪本監督の新作『一度も撃ってません』にも、石橋・大楠・岸部の三名は登場するので、これも見逃せない。

藤山直美阪本監督のタッグとしては、本作の15年前の犯罪映画が有名だが、一方では『昼で名を馳せた斎藤工が異分子として本作に参加しているのが、また面白い。

斎藤演じる真城は冒頭から
「ごぶ刈りです」「ごぶさたでしょ」 
とか
「効果きしめんです」「てきめん、な」   
みたいに、天然でボケてはヒナ子に正される不思議な人物。

彼といい、宅配に来てはいつも下痢で便所を借りる配達員(冨浦智嗣)といい、奇妙な連中が山下夫妻の家に引き寄せられてくるのだ

映画『団地』予告篇<ロングVer.>

レビュー(ここからネタバレ)

自治会長選挙戦の行方

団地の住民たちを巡っては自治会長選挙の話が進んでいく。現会長の行徳正三(石橋蓮司)、妻君子の他薦による山下清治(岸部一徳)、そして息子に体罰をしているDV男の吉住(宅間孝行)の三人が次期会長を争うことになる。

このエピソードはコメディパートだ。だが、この選挙がきっかけになり、清治は床下収納に引きこもってしまうし、また、夫が消えても平然としていることで、ヒナ子は住民たちに殺人を疑われる。

これは全体の展開にも大きな意味を持つため、会長選の挿話は笑いだけではなく重要な役割があるのだ。

(C)2016「団地」製作委員会

浪花版・狙われた街

冒頭で自分を東京人だと強調する行徳会長が、生粋の大阪人である山下夫妻とうまく馴染めるか心配した際に、
「会長が東京人でも火星人でも平気です」
とヒナ子が言い放つ。

実はこの冒頭の発言が、その後の展開を予言していた。何を隠そう、奇妙な若者の真城も配達員も、異星から来た者たちだったのだ。

進化しすぎた彼らには免疫力が弱まり、清治が調合する自然派志向の漢方薬が必要だというのである。単なるコメディと思っていた本作は、ここでSFファンタジーに様変わりだ。

団地の中でちゃぶ台を挟んで向き合う人間と宇宙人。まるでウルトラセブン「狙われた街」のメトロン星人ではないか。斎藤工『シン・ウルトラマン』主演を予期していたかのようだ。

更に、別のヒーローネタも登場する。DV父の吉住に折檻されていた息子(小笠原弘晃)は、いつもガッチャマンの主題歌をきれいな声でひとり熱唱するのだ。

この少年の現実逃避願望と同様に、実は山下夫妻にも切なる願望がある。漢方薬店を廃業した理由である、<交通事故死した一人息子に会いたい>という願いである。

異星人の真城は、自分たち種族の生存のために大量の漢方薬を調合してくれれば、それを叶えてあげると言う。

話の流れは、もはやコメディではないはずだが、出演者は誰もみな、大真面目に笑かそうとしている。この可笑しみと、その奥にあるしんみりとした感情が、よいバランスで伝わってくる。

団地映画というカテゴリー

団地を舞台にした邦画というのは、一つのカテゴリーとして成立するくらいの本数がありそうだ。それこそ『団地妻シリーズ』から『喜劇駅前団地』、ホラーでは『クロユリ団地』と、多種多様である。

なんとなく、どの団地映画にも子供が大勢でてくる印象があり、本作のように子供のいない、相応に年齢を重ねた夫婦が主演という作品は珍しいのではないか。

普通に撮ると、どことなく動きのない、暗くてつまらない映画になりがちだからか。

その意味では、本作はコメディとしては難しそうな条件を見事にクリアし、笑いとペーソスを共存させるあたりが、さすが阪本監督の手腕だと感服した。