『顔』 考察とネタバレ:役者は顔じゃないよ、ハートさ。名だたる国内映画祭を総ナメにした女優の顔を見よ

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『顔』 

殺人犯の逃亡劇を描いても、どこか滑稽さを感じさせる藤山直美の持味と、それを引き出す阪本順治監督。脇を固める常連メンバーの結束も固い。各地を転々としても静かに過ごせる日々は短く、また逃げ去らなければ。

公開:2000 年  時間:123分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:   阪本順治

キャスト
吉村正子: 藤山直美
池田彰:  佐藤浩市
中上洋行: 豊川悦司
中上律子: 大楠道代
狩山健太: 國村隼
花田英一: 岸部一徳
吉村由香里:牧瀬里穂

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

あらすじ

1995年。ひきこもりの正子(藤山直美)は、母親のクリーニング店の二階で洋服のかけはぎの仕事をしながらひっそりと暮らしていた。

そこに母親の急死。通夜の晩、正子は仲の悪かった妹・由香里(牧瀬里穂)をはずみで殺害。長年閉じこもっていた家を飛び出す。

突然の震災で逃亡に成功した正子。大阪、別府と外の世界を転々としながら、さまざまな人たちとの出会いによって人の温かみと生きる意欲を見出していく。

レビュー(まずはネタバレなし)

阪本監督と藤山直美のタッグ

日本アカデミー賞作品賞やキネマ旬報の日本映画ベストテン1位はじめ、公開当時の数々の賞を総ナメにした、阪本順治監督と藤山直美の代表作である。

先日、再タッグを組んだ『団地』を鑑賞した流れで、ここまで遡ってみた。監督・主演のみならず、大楠道代岸部一徳といった阪本組常連も、本作以降『団地』で再結集している。

団地とミシンのある部屋という違いはあれど、両作品とも、地元のAMラジオ放送が流れるシーンから始まるところまで共通だ。

本作は、35歳になっても家に閉じこもっていた冴えない女性が、衝動的に妹を殺害してしまったことで、家を初めて飛び出したあとの逃亡劇を描いたものだ。

犯罪映画となっているが、当初想像していた冷酷な連続殺人犯という感じではない。逃亡する各地での、さまざまな人たちとの出会いがメインの映画である。

福田和子というモデル

主人公の正子は、1982年に発生した松山ホステス殺害事件の犯人、福田和子がモデルになっている。実際の事件では、発生から逮捕されるまで15年に及ぶ逃走劇で知られ、ワイドショーでも扱いが大きかった印象が強い。

本作は実際の事件を再現している訳ではなく、インスパイアされた内容ということだろう。

実際の事件と比べてみると、逃亡中にラブホテルの清掃員で働いたり、自転車でまんまと警察から逃げ延びたり、スナックで歌う映像やら写真やらが報道されたりと、類似する部分はいくつか窺える。

レビュー(ここからネタバレ)

7つの顔を持つ女

福田和子は、美容整形をしていたことから「7つの顔を持つ女」と騒がれたようだ(あまり記憶はないが)。本作のタイトル『顔』もそこに由来するのかもしれない。

正子は整形手術をした訳ではないが、自転車で転倒したり、強姦されたりで、中盤から顔も傷だらけのことが多く、またそもそも指名手配されている中、マスクで顔を覆うこともしばしばある。

それに、整形などしなくても、家で塞ぎ込んでいた当初の表情と、転々とする地で好きになった男や、助けてくれる人に出会ったことで、表情自体も豊かになっている。このあたりの変化も見応えがある。

衝動的に妹を絞殺してしまった正子、ニュースは街の電光掲示板にも流れ、逮捕も時間の問題と思われたところで、阪神・淡路大震災が発生。どさくさに紛れる形で逃げ延びる。

逃亡劇での出会い

逃亡劇を詳細に書くことはしないが、どちらかと言えば日陰でひっそりと生きているような、すねに傷のありそうな輩との出会いが多い。

  1. 夜の無人交番で罪を自白していた正子を誘い出し、自分のトラックの荷台で強姦する男(18代目中村勘三郎)。行為のあとで、彼女が探していた父親の実家住所の場所を教えてくれるのが、妙におかしい。勘三郎にこの役を与えるとは、結構サプライズだ。
  2. 清掃員として働き始めたラブホテルのオーナー(岸部一徳)。どうやら経営不振で高利貸しに借金も嵩んでいるようだが、不思議と正子には優しい。
  3. リストラされた営業マン(佐藤浩市)。妹を絞殺する前の北陸でも、正子はこの男に偶然会っているが、その後列車の中でも会い、また子供連れの際にも会う。

    次第に彼に惹かれていく正子が、好きなTVドラマをまねして、
    「もしも月が西から出たら、私と結婚してください。もし、生まれ変わって、また…」
    云々と言い続け、最後に
    「深く考えずにうんと言ってください」
    となるところが、少し可愛い。
  4. ヤクザ稼業から足を洗った弟(豊川悦司)と、スナックをやっている姉(大楠道代)の姉弟は、自殺しそこねた正子を救ったうえ、スナックで働かせ始める。この店でようやく正子は明るい顔をみせるようになるが、彼女目当ての客(國村隼)に襲われる羽目となる。

スナックで唄うカラオケ曲が「ズルい女」や「WOW WAR TONIGHT」だったりと、思いっきり時代を感じさせてくれるのも一興。

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逃亡生活でかなえた子供のころの夢

さて、本作は逃げ回る殺人犯の話ゆえ、楽しい生活があるはずもなく、少し安静な生活を手に入れると、何かがおきてしまう繰り返しである。

ホテル経営者の岸部一徳は首吊り自殺してしまうし、ヤクザ者のトヨエツは、敵対組織の連中に刺殺される。その都度、警察がやってきて、身元不明の従業員である正子は、こそこそと逃げていく。

だが、こんな殺人犯でも、藤山直美が演じると、どことなく可笑しい雰囲気が出る。初めて言葉を交わす営業マンの佐藤浩市に、
「自転車でこけて、顔がこんなに腫れてしまいまして。身体もです」
と、この局面で冗談が出てくるとは、さすがだ。


また、本人は至って本気なのかもしれないが、子供のころからの夢である
<自転車に乗れるようになること>
<泳げるようになること>を、
逃亡生活の中で、二人の男にそれぞれ教わるところが、なんとも滑稽で、また味わい深い。

この二つの夢は、正子が警察から逃げるという点において、大いに有効な武器となるのも面白いではないか。

福田和子の役は、かつて大竹しのぶもTVドラマで演じていたようだ。未見だが、どうにも『黒い家』の彼女を思い出してしまい、そうなら怖い。

かたや、藤山直美は本作が映画初主演だが、やはり稀有の才能のひとだと思う。阪本順治監督の演出も冴え、実在の殺人事件をモデルにしながら、どことなくユーモラスな作品にもなっているという絶妙なバランスは見事だ。

何となく、自然に正子に感情移入できているし、彼女が島から逃げようと港に向かうと出ている、「本日のフェリーは終了しました」の告知板をみて、彼女の身を案じている自分がいる。