『トカレフ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『トカレフ』今更レビュー|阪本順治が撮る『煉獄と地獄』

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『トカレフ』
 Токарев

阪本順治監督が大和武士と佐藤浩市を起用し、細かい理屈を抜きにしてシンプルに描き抜いた復讐劇。


公開:1994 年  時間:103分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本:    阪本順治

キャスト
西海道夫:     大和武士
松村計:      佐藤浩市
西海あや子:    西山由海
西海タカシ:    類家大地
高橋刑事:      國村隼
田中刑事:     水上竜士
和田刑事:     鈴木晋介
幼稚園園長:    牧口元美
下山俊和:     芹沢正和
夏美:        尹明蘭

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

あらすじ

幼稚園バスの運転手をしている西海道夫(大和武士)は、ある日、自分が運転するバスから息子のタカシを誘拐されてしまう。

犯人は身代金を奪ったあげく、タカシを殺害し遺棄する。道夫はかつてタカシが元気だったころの運動会のビデオに、同じマンションに住む松村(佐藤浩市)の姿をみとめ、彼が犯人ではないかと疑いを抱く。

警察に相談しても聞き入れてもらえず、道夫は松村を追求しようとするが、逆にトカレフで撃たれてしまう。

今更レビュー(ネタバレあり)

阪本順治監督の初期の作品。デビュー作『どついたるねん』赤井英和の対戦相手を演じた元ミドル級チャンピオンの大和武士の初主演。

阪本監督は二作目『鉄拳』(1990)では高知を舞台に大和武士、三作目『王手』(1991)では一作目同様に大阪・新世界を舞台に赤井英和を再度起用。

そして本作では、ついに東京(いや千葉か)を舞台に、三度目出演の大和武士がついにボクサー役を離れて初主演、更に敵役には、以降の阪本作品で欠かせない存在となる佐藤浩市。配役だけで、観る気をそそられる。

タイトル通り、拳銃がらみの物語である。冒頭、会社帰りにバスを降りた男が、自販機の下に小銭を落とし、拾おうと手を伸ばすと怪しい紙包みに手が触れる。出てきたのは拳銃。そこからドラマが始まる。

銃を拾ったところから始まるドラマといえば、中村文則原作で映画にもなった『銃』を思い出すが、本作はその何年も前に公開されている。

シーンは変わり、主人公の西海道夫(大和武士)と妻のあや子(西山由海)が暮らすニュータウンの光景。舞台は千葉、検見川界隈。千葉駅前でモノレールが一部建設工事中なのは貴重な映像。

阪本順治監督は、そのものズバリで『団地』(2016)なる映画を撮っており、このての大型ニュータウンが好きなのかも。西海夫妻の暮らすこのニュータウンに、謎めいた新聞印刷工の松村計(佐藤浩市)も住んでいる。

そして事件は起こる。映画の中で拾われた拳銃は、使われなければならない。

道夫は幼稚園の送迎バス運転手をしているが、その運行中のバスをマスクで顔を覆った犯人が襲う。

銃を突きつけた犯人は、道夫自身の息子で園児であるタカシ(類家大地)を誘拐し、クルマで逃亡する。道夫はバスで犯人を追うが、犯人は通りがかった松村を撃ちバイクを奪って、タカシを連れて走り去る。

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1千万円の身代金要求がタカシの映像とともに送られてきて、園児の営利誘拐事件となる。警察で捜査を仕切る高橋刑事には國村隼。彼も阪本作品の常連だが、まだ若くて誘拐事件を任せるには頼りない感じ。

案の定、園長(牧口元美)に工面してもらった身代金は渋谷道玄坂でまんまと犯人の男女に奪われただけでなく、なんと幼いタカシは、遺体となってゴミ捨て場から発見される。

本来ならもっと盛り上げるべき誘拐事件の脅迫やカネのやり取りが割と淡泊に描かれ、子どももあっさり殺される。しかも、犯人が誰かと言う点も、勿体つけずに明かしてしまう。

はじめから怪しさ満点に登場させる松村。子持ちでもないのに、タカシの幼稚園の運動会のビデオに観客として映り込んでいる。

これだけ犯人フラッグが立っていたら、イマドキのミステリーなら真犯人は別にいそうだが、そんなひねりは本作にはない。

松村は偽装工作で自分の肩を撃ちぬいた。つまり、拳銃を突き付けて子どもを攫ったのは、拳銃の拾い主である松村。身代金を奪ったカップル(芹沢正和、尹明蘭)は、彼の共犯者ということになる。

そこをあっさりと種明かしするということは、監督がメインで撮りたいものは他にあるのだ。それは復讐劇。

犯人に我が子を殺され、身代金も奪われ、更には、眼前で我が子を誘拐されたことで妻にも逆恨みされ、道夫は犯人への復讐心を募らせていく。

運動会のビデオを手がかりに、主犯は松村だと確信する道夫だが、警察も妻も相手にしてくれない。

ついに単身、松村の部屋に押しかけるが、返り討ちに遭い、口の中に突っ込まれた銃が火を吹く。四方を新聞紙が山積みになった松村の部屋での乱闘シーンがカッコいい。劇中のテレビでキャイ〜ンの漫才が新聞ネタなのは、これの暗示か?

ここで道夫が殺されてしまえば、あまりに無情な物語だが、幸い一命を取り留める。彼は警察に撃たれた相手の名を明かさず、執念深く反撃の時機を待つ。この後半展開が、本作の見せ場になっている。

率直にいって、脚本はかなり乱暴な仕上がりだ。説明的なカットは極力省略されている。それはむしろ好ましい点だが、それにしたって、謎は多い。

まず、松村はなぜ、タカシを誘拐したのか。営利目的なら、もっと裕福そうな家庭を選ぶべきだろう。

西海家の夫婦仲を裂いて、美しい人妻のあや子を自分のモノにすることが、はじめからのねらいだったのか。それで子どもを誘拐して殺すのは、あまりにリスキーな計画だと思うが。

松村が自分の肩を撃ちぬいて、被害者だと偽装するのも必然性がない。バイクに乗り換えて共犯者にバトンタッチするだけなら、もっといい手があったのではないか。

一方の道夫も、松村に喉を撃たれて重傷を負ったのち、反撃に出るのはよいが、入院していた病院でトカレフを入手できてしまうのが謎だ。

あれは、暴力団から買ったということか、偶然トイレで拾ったということか。後者なら、100分の映画のなかで、対立する二人がそれぞれ偶然に拳銃を拾って対決する設定は、さすがに嘘っぽいにも程がある。

道夫は退院すると、街中で執拗に松村たちを探し始める。

そして道夫が怪しいと思い尾行するのが、息子を誘拐した共犯者のカップルなのだが、彼がなぜ二人を怪しいと思ったのかが分からない。道夫は共犯者の顔を知らないはずではないのか。

ただ、本作の面白味はそういう理屈を越えたところにあるのだと思う。

とにかく、自分から子どもも妻も仕事もカネも、全てを奪って重傷まで負わせた男に、手に入れたトカレフで仕返しをしてやる。この執念が、一見柔和そうな面構えの道夫を、目つきの鋭いハンターに変えてしまうのだ。

大和武士は実際、撮影中も佐藤浩市とは口もきかず、常に敵対心をもって過ごしていたという。ボクサーから俳優に転身した彼らしいアプローチだ。

なお、かつて和製マイク・タイソンと呼ばれたハードパンチャー、大和武士はその後暴力沙汰で有罪判決をうけ、シャブで逮捕されたのち、しゃぶしゃぶ居酒屋を開店するという人生を歩んでいるとのこと。

共犯者の男を追い詰めた道夫は、松村が男の店の常連客で、その店の借金返済のために誘拐の犯行に及んだことを突き止める。

男を撃った道夫は、聞き出した松村の居場所を訪ね、松村が失踪した自分の妻・あや子と子どもまで作り、家庭を持って暮らしていることを知る。この艶っぽい妻にも、鉄拳をくらわしてやればいいのになあ、道夫。

そこからの二人の対決が阪本監督らしいエッジの効き方。特に、何を考えて何をしでかすか読めない松村の不気味さがいい。佐藤浩市は、『ノーカントリー』ハビエル・バルデムを思わせるサイコ野郎ぶり。

火を放たれた古びた風車、警官から強奪した警察車両、そして思わぬ伏線となった小道具の交通量調査用カウンター(どうりで弾切れでも撃ちまくるわけだ)。この辺のアイテムが混然一体となるクライマックス。

二人とも警察を敵に回しており、後がない男同士が拳銃を向け合う。

「親より先に死ねないよね」

ほざくな松村。お前らがタカシを殺したのではないか。

本作は理屈よりもパッション重視で観る映画阪本順治の最高傑作と持ち上げる気にはなれないが、穴だらけの脚本を補って余りある何かを感じさせる。