『さんかく』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『さんかく』今更レビュー|女は生まれながらにして小悪魔である

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『さんかく』

好きになるのは、カンタン。好きでいるのは、ムズカシイ。

公開:2010年  時間:99分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:  𠮷田恵輔

キャスト
百瀬:     高岡蒼佑
桃:      小野恵令奈
佳代:     田畑智子
栗田:     矢沢心
桃の彼氏:   仲野太賀
釣具店の店長: 三島ゆたか
荻野目洋介:  谷口一
百瀬の後輩:  宇野祥平

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

あらすじ

釣具店で働く30歳の百瀬(高岡蒼佑)とデパートの化粧品売場で働く29歳の佳代(田畑智子)は同棲中。

ある夏、二人のアパートに佳代の中学3年生の妹、桃(小野恵令奈)が訪れ、夏休みの間、一緒に暮らすことに。まだ中学生の桃だが百瀬はいつしか魅了され、ひそかに佳代よりも桃に対して熱を上げ始める。

一方で佳代も百瀬のそんな変化にうすうす気付きだす。夏休みが終わって桃は実家に帰るが、百瀬はそれからもずっと桃のことを忘れられず。

今更レビュー(ネタバレあり)

公開時以来久々の鑑賞となる、𠮷田恵輔の初期の作品。〇でもなく、×でもない、△な人間模様。つまりは三角関係の映画であるが、本作は姉と同棲している男が、上京してきた15歳の妹につい心を奪われてしまう物語。

ここまで辛辣に描くかといいたくなる、見た目はイケてるけどダメ男の主人公・百瀬高岡蒼佑。妹に彼氏を奪われる形の哀れな姉・佳代田畑智子

そして、15歳にして余裕で男を手玉に取る恋愛ハンターの小悪魔・役には、当時AKB48のメンバーだった<えれぴょん>こと小野恵令奈

(C)2010「さんかく」製作委員会

まあ、いかに女という生き物は怖くて、男という生き物は愚かかということを改めて教えてくれる作品である。

桃はミニスカートで足を広げて電車で横の見知らぬ男にもたれて居眠りする冒頭のシーンから、肌の露出も高めの悩殺系女子。

ロリータというには発育が進んでいて、子ども扱いするにも微妙な年頃小野恵令奈は、まさに本作の桃役にはぴったりといえる。

夏休みに姉の佳代の部屋に寝泊まりさせてもらうことになるが、そこには同棲中の百瀬がいる。しかも、どうやら百瀬は佳代への愛情や優しさが薄らぎつつある模様。

そんなところに小型爆弾を投入するようなもので、勘違いさせる発言や思わせぶりな耳打ちなどで、数日のうちに百瀬は彼女を意識し始める。

桃は東京にいる先輩目当てに上京してきたのだが、あっさりフラれてしまう(先輩のバイト先のファミレスには大島優子がカメオ出演)。そこで桃は、どこか先輩に雰囲気の似た百瀬を相手に、暇つぶしに男心を弄び始める。

桃が下着同然の部屋着姿でうろついたり、髪の毛に焼肉屋の匂いがついているか嗅がせたり、画鋲を踏んだから取ってと生足を投げ出したり。

これらはみな、まだ子供の桃の無意識の言動と言えなくもないが、15歳だったら、確信犯的に百瀬を翻弄しているに違いない。

お姉ちゃんのものを何でも欲しがる妹というのは、昔からいるものだ。桃が使うトイレの音までネタにしている着眼点の鋭さは𠮷田恵輔監督ならでは。

30歳男子が15歳にのぼせ上がるかという点に関しては、AKB48の当時の盛り上がりを思えば当然あり得るのだろう。

一つ屋根の下に桃のような無防備で無邪気な小悪魔がいて、肩紐ストラップがはずれたまま「行ってらっしゃい」とか言われると、ヒステリー気味で口喧嘩が絶えない佳代よりも気になる存在になってしまうのは、同じ男としてよく分かる。

百瀬は勤め先の釣具店では後輩の荻野目ちゃん(谷口一)に威張り散らし、高校時代の後輩(宇野祥平)にもいまだに先輩風を吹かしていると陰口を叩かれ、早い話、誰からも煙たがられる存在。

そんな百瀬が、数百万円を注ぎこんだ自慢のカスタムカー(自画像入りの族車仕様のバンは相当イタい)を、桃は褒めてくれる。こうなると、メロメロだ。

夏休みも終わり桃が帰ってしまうと、百瀬には大きな喪失感が残る。ここまでが前半部分。

百瀬役の高岡蒼佑は、私生活では離婚や暴力沙汰、ツイート騒動などで世間を賑わし、俳優業を引退宣言したり格闘家になったりと、何かと忙しい人物だが、本作でのダメンズぶりは堂に入っていてすばらしい。

役の小野恵令奈も、本作出演あたりまではAKB48の中でも注目されるメンバーの一人だったと思うが、なぜか本作後すぐにAKB48を卒業、海外留学のため芸能界引退となったようだ。

本作は彼女の存在なくしては成立しない作品だっただけに、惜しい気もする。個人的にはあの鼻声は気になったが。

という訳で、高岡蒼佑小野恵令奈の共演など二度と見られないレアものといえる。

ちなみに、「さんかく」のもう一角である佳代役の田畑智子は現在もご存知のとおり女優業で活躍中であり、𠮷田恵輔監督作品には『空白』(2021)で久々に出演を果たしている。

さて、後半になると、百瀬のダメ男ぶりがエスカレート。映画もここからコメディ要素が強まった感あり。毎日何度も桃に電話する百瀬だが、返事は皆無。

一方、佳代の親友・栗ちゃん(矢沢心)のマルチ商法勧誘がきっかけで、百瀬は佳代と大喧嘩し、別れを切り出す。

百瀬にしてみれば、佳代に見切りをつけ、桃に走ろうと考えたのだろう。だが意外にも、佳代は百瀬に未練たらたらで自殺せんばかりの激しさでしがみつき、警察に警告を受けるほどのストーカーに変身する。

『アメリ』みたいに、百瀬の留守宅に侵入しては掃除やシャンプー・食料品の補充などをし、隠しカメラで侵入がバレる展開は笑えた。スカヨハ『私がクマにキレた理由』(2007)の隠しカメラのネタに似てるけど。

考えてみると、本作のメンバーは、

佳代⇒ 百瀬⇒ 桃⇒ 中学の先輩

と言う風に、それぞれが誰かをストーキングしているという相関図なのだ。

百瀬が佳代を憐れに思って告訴を取り下げた時には、ようやく二人が仲直りするのかと思うが、ここはダメ男の面目躍如。百瀬は自慢のカスタムバンを駆って、はるばる姉妹の実家まで桃に会いに行くのである。

だが、突然おしかけた彼が目にしたのは、同級生男子と仲睦まじい桃。そして百瀬は、「お前、桃に毎日何度も電話してきやがって、ストーカーかよ!」と中学男子に投げ飛ばされる。なんとも情けない。

この男子、当時は気づかなかったが、仲野太賀だったか。『今日から俺は!!』の番長ほどではないが、中坊の太賀もなかなか頼もしい。ただ、大人相手では柔道技がきれいには決まらないのが残念。

東京で一度キスしたことだけを支えに田舎まで出向いてきた百瀬は、「子供だからわかんない」と桃に言われ現実に戻り、退散しようとする。そこで、実家に戻っていた佳代と偶然再会する。

自分に会いにきたと早とちりする佳代を相手に、「俺はなんてバカだ!」と謝って寄りを戻そうとする百瀬のずるさ。だが、会話するうちに、佳代は百瀬が誰に会いに来たのかを察知する。

本作のラストは、翌朝になっても家の前で待ち伏せしている百瀬と姉妹が鉢合わせするシーンだ。ここに台詞はない。

「さんかく」の三人は、それぞれに相手の領地にズカズカと足を踏み入れてかき回した。桃は姉の勤める化粧品売り場に押しかけ、佳代は百瀬の釣具店に押しかけ、百瀬は桃の実家に押しかけ、それぞれを悩ませた。

佳代は桃と百瀬の関係に気づいている。だが、桃はもう、このダメ男に興味はない。百瀬は、もうどっちでもいいから相手にしてほしい。そんなところか。

(C)2010「さんかく」製作委員会

映画は佳代が一瞬百瀬に微笑むショットで終わり、解釈は見る者に委ねられる。佳代と百瀬が寄りを戻すと見る人もいるだろう。あんなマルチ商法にひっかかるお人好しの佳代なら、寛容なのかもしれない。

だが私には、昨夜妹と取っ組み合いの喧嘩をして、もう吹っ切れた佳代が、復縁する気になれないダメ男を憐れむ微笑みにみえた。百瀬にはハッピーエンドは似合わない。