『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981)
『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)
『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(1989)
『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008)
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
Indiana Jones and the Dial of Destiny
ハリソン・フォードがこれでインディは卒業といったからか、卒業制作に相応しいシリーズ集大成的な作品に。
公開:2023 年 時間:154分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ジェームズ・マンゴールド 製作総指揮: ジョージ・ルーカス スティーヴン・スピルバーグ キャスト インディ・ジョーンズ:ハリソン・フォード ヘレナ・ショー: フィービー・ウォーラー=ブリッジ ユルゲン・フォラー: マッツ・ミケルセン バジル・ショー: トビー・ジョーンズ レナルド: アントニオ・バンデラス テディ少年: イーサン・イシドール サラー: ジョン・リス=デイヴィス クレーバー: ボイド・ホルブルック ポンティマス: マーク・キリーン ウェーバー大佐: トーマス・クレッチマン メイソン:シャウネット・レネ・ウィルソン
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
考古学者で冒険家のインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)の前に旧友の娘ヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)が現れ、インディが若き日に発見した伝説の秘宝「運命のダイヤル」の話を持ち掛ける。
それは人類の歴史を変える力を持つとされる究極の秘宝であり、その「運命のダイヤル」を巡ってインディは、因縁の宿敵である元ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)を相手に、全世界を股にかけた争奪戦を繰り広げることとなる。
レビュー(まずはネタバレなし)
インディが帰ってきた!
ハリソン・フォードの主演でインディ・ジョーンズの新作が登場するとは思わなかった。
『レイダース 失われた聖櫃』(1981)の初登場から40年以上。前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)公開時には19年ぶりの新作と騒がれたが、そこから更に15年。はたして、ハリソン・フォードは、年齢的に冒険映画の主役がまだ務まるか。
『ブレードランナー2049』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督)では、引退した捜査官役のハリソン・フォードは主役をライアン・ゴズリングに譲っているが、本作はタイトルロールだ。御年80歳、鞭で敵を蹴散らして、冒険活劇ができるのか。
◇
今回のマクガフィンは聖櫃ではなく、『エヴァ」でお馴染みロンギヌスの聖槍か、と思っていると真打登場。ロケット科学者ユルゲン・フォラー(マッツ・ミケルセン)が持ってきたアルキメデスのダイヤル、これが今回のお宝だ。
インディと戦うのは考古学者のバジル・ショー(トビー・ジョーンズ)。『キャプテンアメリカ』では、ナチスのような組織お抱えのマッドサイエンティストだったけど、今回は人道派か。
列車の上で敵と戦うアクションは『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)の若きインディ(リヴァー・フェニックス)を思わせる。
アンティキティラのダイヤル
それにしても、ハリソン・フォード、全然老けてないじゃん。まだまだ顔の色つやもいいし、これなら当分続投できる。と、つい錯覚してしまったことに、舞台が1969年に移ってから気づく。
ここでのインディは、もう学校を定年退職する高齢者。これが現実。ロバート・デ・ニーロが『アイリッシュマン』(2019)で見せたような若返りCG加工だったわけだ。あれで若き日の活劇を堪能させてくれたあとは、年相応のインディの冒険となる。
◇
ナチスから一旦奪いかけて、結局川に落としてしまったアルキメデスのダイヤル。
映画ではアンティキティラのダイヤルと紹介され、ピンとこなかったが、あとで思い出した。あれは実際に発見された古代ミステリーの代物だ。古代ギリシャの文明の高さを示す、天体運行を計算するために作られた歯車式機械。
◇
インディのもとに突如現れた考古学者ヘレナ・ショー(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)はバジルの娘。「父が生涯研究を捧げたこのダイヤルを、一緒に探してほしい」と持ち掛ける。
この、お宝をめぐる冒険の導入部分も、パパ・ジョーンズことショーン・コネリーの登場した『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』の再来だ。
シリーズ集大成の卒業制作
本作には、長年シリーズを作り上げてきたジョージ・ルーカスとスティーヴン・スピルバーグが殆ど口を挟んでいない。
スピルバーグが監督を離れ『フェイブルマンズ』を撮り始めてしまったことで、もはやインディ・ジョーンズらしさが失われるかと危惧されたが、本作の監督は多才な職人ジェームズ・マンゴールド、手堅くまとめてきた。
◇
本シリーズを愛し、その重みを知っているから、本作には至る所に過去作のオマージュらしきものがある。
映画のプロットもそうだし、裏切者のヒロインや、『エブエブ』でのキー・ホイ・クァンの復活劇でも話題になった『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』のような少年の配置、ナチスの陣営や古代の仕掛けやうごめく熱帯の巨大な昆虫や蛇蝎の類、どれもこれもインディっぽいではないか。
元々は、007のようなスパイ映画の要素を採り入れた、懐かしき連続活劇を復活させようとしたのがシリーズの発端。
今回の敵、ユルゲン・フォラーを演じたマッツ・ミケルセンも、登場当初は気弱そうな学者だったが、時代がかわりすっかり悪人顔に。『007 カジノロワイヤル』でのヴィランぶりを彷彿とさせ、目論見通り007の雰囲気も醸している。
そして嬉しいことに、『レイダース 失われた聖櫃』でもインディをサポートしたサラー(ジョン・リス=デイヴィス)を始め、懐かしいメンバーも顔をだす。
年齢を感じさせるインディがいい
ハリソン・フォードが「本作でインディは卒業だ」と宣言したからか、シリーズの集大成的な仕上がりになっている。スピルバーグでは小っ恥ずかしくてできないオマージュ採り入れも、ジェームズ・マンゴールド監督だから無問題。
そして40年以上続いた作品との向き合い方。いつまでも老けないどころか、常に前作を上回るスタントに挑戦する年齢不詳のトム・クルーズの『ミッションインポッシブル』とは違い、インディ・ジョーンズは生身の人間だ。ハリソン・フォードとともに年齢を重ねていく。
だから、1969年のインディはその年齢で、ちょっと背伸びしてできる戦いを懸命に繰り広げ、歴史的な遺産を取り返そうと奮闘する。その姿に我々は心打たれる。
長年、インディの冒険に付き合ってきた私にとっては、本作はかけがえのない作品になった。初めてこの偏屈者の考古学者の老人に出会った若い世代の観客にも、この冒険活劇の詰め合わせのような作品に、ぜひ面白さと興奮を見出してほしいと思ってしまう。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
さて、もうここからはご覧になっている前提で書いてしまうが、アンティキティラのダイヤルは時空の歪みの生じる地理的な座標を特定する装置であり、つまりは過去へのタイムリープが可能になるという話になる。
スピルバーグの製作総指揮だから『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の要素を入れたわけではないだろう。
前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』を個人的に評価していないのは、謎の正体を宇宙人にしてしまったことが許容できなかったためだ。それならばタイムリープも同じではないのか。いや、両者には違いがある。
インディは考古学者だ。古代にロマンを求め、歴史の探究を愛している男だ。そこに、エイリアンを持ってこられても親和性はないが、タイムリープで過去に戻り、古代史を目の当たりにすることは、彼にとって悲願であり、夢のような出来事であるはず。
老いたインディが時空の歪みで紀元前のシチリア島シラクサに迷い込み、そこでアルキメデスと出会う。
彼はそこで、「私が探し求めていた古代の歴史がここにある。もう現代に戻らず、ここに残りたい」と訴える。そういう終わり方もあるかと思った。彼の最期には相応しいかもしれない。
◇
だが、そんな勝手は許されなかった。現代に戻った彼が、離婚協議中の妻マリオン(カレン・アレン)と再会する。他愛もない場面だが、ここは長年のファンとしては感極まる。
インディとマリオンの年の取り方がいいではないか。長い歴史のあるシリーズでなければ、到達できない夫婦の姿だ。
◇
そしてエンディングにはジョン・ウィリアムズのお馴染みテーマ曲。最近の映画音楽にはない、華やかさと力強さに、冒険活劇映画の矜持をみた。