『フェイブルマンズ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『フェイブルマンズ』考察とネタバレ|これはスピルバーグのネタ帳だ

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『フェイブルマンズ』
The Fabelmans

スティーヴン・スピルバーグが死ぬまでに撮らなければと永年思い続けてきた、彼自身の半生

公開:2023 年  時間:151分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:   
     スティーヴン・スピルバーグ
脚本:      トニー・クシュナー

キャスト
<フェイブルマン家>
サミー:     ガブリエル・ラベル
ミッツィ(母): 
       ミシェル・ウィリアムズ
バート(父):     ポール・ダノ
ナタリー(妹):キーリー・カルステン
レジ―(妹):  ジュリア・バターズ
リサ(妹):    ソフィア・コペラ
<その他>
ベニー:       セス・ローゲン
ボリス:      ジャド・ハーシュ
モニカ:      クロエ・イースト
ローガン:      サム・レヒナー
チャド:    オークス・フェグリー
クラウディア:  イサベル・クスマン

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

あらすじ

初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になった少年サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)は、母親(ミシェル・ウィリアムズ)から8ミリカメラをプレゼントされる。

家族や仲間たちと過ごす日々のなか、人生の一瞬一瞬を探求し、夢を追い求めていくサミー。母親はそんな彼の夢を支えてくれるが、父親(ポール・ダノ)はその夢を単なる趣味としか見なさない。

サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを通じて成長していく。

レビュー(まずはネタバレなし)

死ぬまでに撮っておきたかった映画

スティーヴン・スピルバーグが、死ぬまでにどうしても撮っておきたかった映画。それは、彼の自伝ともいえる、映画の魔力に憑りつかれた少年時代から青年になるまでを描く作品だった。

父は電気技師、母はコンサートピアニストという、ユダヤ人家庭に生まれたスティーヴン少年は、10歳で初めて父親の8ミリカメラで自主映画を撮り始める。

本作の主人公、サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)もまた、技術者の父と芸術家の母の間に生まれたユダヤ人の少年だ。

タイトルはつまり、この一家のことだ。ドイツ語の’Spielberg’は英語で’play mountain’の意となり、脚本を手掛けたトニー・クシュナーの発案で、演劇のプロットの古語である’fabel’を採用したという。「寓話」の意味があるのかと思っていたが、どうやら違った。

映画製作に魅了された少年時代

サミー少年は両親に連れられて初めて劇場で映画を観る。フィルムは秒速何コマで、残像がどうだこうだ、と技術屋の父バート(ポール・ダノ)は怖がるサミーを説得するが、『地上最大のショウ』(1952)の列車脱線シーンの大迫力にサミーは圧倒される。

そして、鉄道模型とミニカーで、何度もその衝突を再現し、母ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)に貰った8ミリカメラで、その様子を撮影する。そこから、彼の映画屋人生が始まる。

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

幼少期から8ミリカメラに慣れ親しみ、玩具で遊ぶように次々と映像を創作していく様子は日本では大林宣彦監督の生い立ちと重なるが、スピルバーグもまた、そのような環境で育ったのだと知る。

憑りつかれたように鉄道模型を衝突させ続けるサミーが、『未知との遭遇』でマッシュポテトを削って山を再現するリチャード・ドレイファスのよう。

少年の撮った列車脱線事故の映像は、素晴らしい臨場感だ(実際にスピルバーグが最初に撮ったものの出来は知らないが)。

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

サミーは中学・高校でも友だちを巻き込んで映画を撮り続ける。

フィルムに直接穴をあけることで銃撃戦を再現した西部劇、ドリー撮影を採り入れ砂塵で砲撃を再現した戦争映画など、どれも映像的な工夫と優れたカット割りで、8ミリ映画の面白さをみせつけてくれる。

デジタル世代にはどこまで共感が得られるか知らないが、8ミリ映画に少しでも携わったことのある人なら、カメラや映写機の駆動音、カラカラと回るリール、8ミリフィルムのスプライサーなど、懐かしいネタが豊富に詰まっている。

身も心もボロボロになるぞ

サミーには三人の妹がおり、父のバートは子供たちにも妻にも愛情を注ぐが、科学者気質であり息子サミーの映画作りは<趣味>としかみない。一方、母のミッツィは芸術家肌のピアニストゆえか、息子のやりたいことには理解を示す。

長らく音信のなかった母の伯父ボリス(ジャド・ハーシュ)も、サーカスから映画界に移った変わり者の人物だが、「映画に生きることは、身も心もボロボロになることだぞ」とサミーに覚悟を促す。

そして、フェイブルマン家と家族同然に一緒にいるベニー(セス・ローゲン)。バートの親友でもある後輩の技術者だが、そのベニーと母ミッツィの間にある親密な空気を、サミーはラッシュフィルムの中から感じ取る。

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

ユニークな家庭環境から、どうやって映画少年は育まれたのか、我々は本作を通じて知ることができる。その随所に、スピルバーグ数多いヒット作の元ネタともいえるエッセンスが散りばめられている。

列車の衝突、ハリケーンの風で路上を動くスーパーマーケットの買い物カート、ハイスクールのプロム、押し入れの中の暗闇、等々。

過去作のセルフオマージュではない。スピルバーグ経験としてはこれらが先にあって『激突!』『宇宙戦争』『ミュンヘン』『E.T.』といった数々の名作が生まれたのだ。

キャスティングほか

本作は映画少年が次々と独創的な自主映画を撮っていくだけの物語ではない。科学者と芸術家の夫婦、そしてそこに不協和音をもたらす友人の存在。アリゾナから西海岸に移転しエスカレートする、ユダヤ人一家をとりまく人種差別。

どの程度まで事実に則しているのかは分からないが、スピルバーグの実母は2017年、実父は2020年にそれぞれ他界しており、本作の完成に間に合わなかったのは、心残りだったのではないか。

天真爛漫さを失わない美しい母を演じたのは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』ミシェル・ウィリアムズ堅物だが家族思いの父を演じたのは『THE BATMAN-ザ・バットマン-』ポール・ダノ

友人ベニーはいつも人の良さそうなキャラのセス・ローゲン。主人公サミーを演じたガブリエル・ラベルは日本ではほとんど知られていない俳優だと思うが、本作で一躍スターかも。

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

家族の進む先に漂う不安

アリゾナでは楽しく暮らしていたフェイブルマン家だったが、祖母がなくなり、落ち込む母ミッツィを元気づけるために家族みんなでキャンプに行ったときの映画を撮るように父バートに依頼されたサミー。

だが家族フィルムの片隅に写っているのは、仲良く談笑し手を繋ぎ、抱擁する母とベニーの姿だった。

思い悩むサミーの様子がおかしいと問い詰める母を彼は押し入れに置き去りにして映写を見せる。映像を見せず、母の表情が曇っていく様子で語る演出がいい。

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

このあたりから、家族に暗雲が立ち込める。父は好条件で引き抜かれ、張り切って西海岸に家族移転。だが黴臭い家を借り新居の完成を待つ間に、学校でのいじめはエスカレートし、一家も離散の憂き目を迎える。

ハイスクールにはマッチョで頭の軽そうな体育会系男子が幅を利かせ、取り巻きの女の子が何人もいる。

学園もので見慣れた光景のなかで、ユダヤ人のサミーは<キリストを殺した民族>として「おい、ベーグルマン」とからかわれ、いじめられる。

やっぱり、自主映画撮ってるヤツは、男女共学校ではスクールカースト低めなんだな、これじゃ『桐島、部活やめるってよ』だ。もっとも、サミーにはモニカ(クロエ・イースト)という彼女ができたけど。

映画が映し出すもの

終盤まで分かりやすい展開だった本作で、唯一不思議だったのは、卒業のプロムでサミーが「おさぼりデー(卒業学年みんながビーチで遊ぶ日)」のフィルムを上映する場面。

彼をいじめていたマッチョ系イケメンのローガン(サム・レヒナー)の勇姿が目立つ映像に、会場は大盛り上がり。だが、ローガンはそれに傷つき、楽屋でサミーを責め、泣く。なぜだ。

私はここでも、『桐島、部活やめるってよ』を思い出した。映画部の神木隆之介はモテ男の東出昌大「やっぱ、かっこいいね」とカメラを向けるが、「やめろよ、俺なんか」と涙ぐむ。あのときの東出は、ろくに努力もしない自分への嫌悪で泣いたのだ。

だが、本作のローガンは、自分はスポーツで勝ち抜くべく努力しているのに、苦労知らずの英雄に見えることに傷ついていた。カメラは表面的な事実は写せても、それが真実とは限らないことをサミーはまだ気づいていない。

(C)2022 Universal Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.

祖母が亡くなるシーンでもサミーは冷静に血管の動きを観察していたし、両親が大喧嘩しているシーンでは、サミーが二人にカメラを向ける幻視まで登場した。

映画を作るということは、家族を捨てても芸術に生きる覚悟が必要なのだ。

地平線はどこにある

本作のラストには、冒頭の『地上最大のショウ』セシル・B・デミル監督と並んで、スピルバーグが強く影響を受けたもう一人の監督ジョン・フォードが登場する。

鬼才デヴィッド・リンチがその役を演じているのだが、太い葉巻を咥えて火をつける様子が堂に入っていて、惚れ惚れする。スピルバーグリンチではあまりに作風が異なるので意外だが、二人は親交が深いのだろうか。

このジョン・フォードが青二才のサミーに語る台詞がいい。言った方は覚えちゃいないだろうが、サミーにとっては生涯忘れられない言葉になるに違いない。

かくして、新たな才能がハリウッドに生まれた。スピルバーグ監督の自伝的要素が強すぎることに抵抗感を覚える人もいるかもしれないが、彼のこれまでの映画界への功績を考えれば、本作の意義は大きい。