『港のひかり』
少年は男から<ひかり>をもらい、男に人生を与えた。
公開:2025年 時間:118分
製作国:日本
スタッフ
監督: 藤井道人
撮影: 木村大作
キャスト
三浦諒一: 舘ひろし
大森幸太: 眞栄田郷敦
(少年期) 尾上眞秀
荒川定敏: 笹野高史
石崎剛: 椎名桔平
八代龍太郎: 斎藤工
大塚夕斗: ピエール瀧
河村時雄: 宇崎竜童
田辺智之: 市村正親
大黒浩: 一ノ瀬ワタル
大森美和子: MEGUMI
美和子の交際相手: 赤堀雅秋
浅川あや: 黒島結菜
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
漁師として細々と生活する元ヤクザの三浦(舘ひろし)は、白い杖をついて歩く少年の幸太(尾上眞秀)を見かける。
両親をヤクザ絡みの交通事故で亡くした幸太は、彼を引き取った叔母やその交際相手からも虐待を受けていた。
孤独な幸太にどこか自身の姿を重ねた三浦は、自身の船に幸太を誘う。どこにも居場所がなかった者同⼠、二人は年の差を超えた特別な友情を築いていく。
幸太に視力回復の手術を受けさせるため、ヤクザから金を奪った三浦は、幸太に一通の手紙を残して自首する。
12年後、突如として⾏⽅がわからなくなった三浦を捜していくうちに、幸太(眞栄田郷敦)はある秘密を知る。
レビュー(若干ネタバレあり)
今度はヤクザと少年
過去を捨てた元ヤクザの漁師と目の見えない少年との、年の差を超えた友情と再会。
こういう映画に舘ひろしが起用されるとは意外な気もしたが、『ヤクザと家族 The Family』での舘ひろしの演出が良かった藤井道人監督との再タッグ、しかもカメラがレジェンド木村大作とあれば、観ない手はない。
とはいえ、結構ベタな設定のストーリーにたじろぐ。東映というより大映ドラマの世界だ。
足を洗ってカタギになった主人公の三浦(舘ひろし)に漁師で生計が立てられているようには見えない。
その彼が、自分には何の責任もないのに、交通事故で視力を失った少年・幸太(尾上眞秀)に気をかけるだけでなく、莫大な手術料まで工面するというのがちょっと解せない。
幸太は薬漬けのヤクザとの交通事故で両親と視力を失ったのだが、一方で三浦は先代の教えどおり、ヤクザが薬物をシノギにすることに反対であり、古巣の組がおこした事故に責任を感じていたのかもしれない。
好意を施された盲目の少年が、やがて手術で視力を回復し、顔の知らない足長おじさんに思い焦がれる。

木村大作のカメラと藤井道人の采配
元ネタをたどれば、チャップリンの『街の灯』まで遡るか。盲目の花売り娘が気になって、身体を張って滞納家賃を工面してあげる心優しい男。あの名作のチャップリンを舘ひろしが演じるのか。
ただ、金を工面するためにチャップリンが懸賞金付きのボクシングの試合に出たのと違い、この映画の三浦は、もっと即金性のある手段に出る。古巣の組織が麻薬取引で用意したカネを横取りする。これはどうなのだ。

確かに、このカネを幸太の手術代500万円に充当することは筋なのかもしれないが、そんな汚れたカネで視力を取り戻すことに、幸太は苦悩すると思うんだけど。
だって、彼はおじさんに憧れて、三浦が偽証した刑事という仕事を目指し、12年後には実現しているのだから。
◇
木村大作のカメラが相変わらず素晴らしい。能登半島の寂しげな風景をバックに、東映のロゴが出てきそうな日本海やお馴染みの飛びかうカモメたち。

デジタル世代の藤井道人監督も一目を置く、35ミリフィルムの伝説の使い手・木村大作。その映像の奥行と陰影は見事なものだ。
今回、木村監督の『散り椿』と藤井監督の『最後まで行く』で主演している岡田准一が、意外に見える二人を引き合わせたという(それもあっての友情出演?)。
キャスティングについて
三浦が属していた暴力団組織は、亡くなった先代の河村に宇崎竜童。「ひかり」ではなく「港のヨーコ」だ。
河村のオヤジという役名は、企画にクレジットされたスターサンズの創設者、故河村光庸に捧げられたものだろう。
◇
三浦が抜けた組織を恐怖政治で仕切る石崎(椎名桔平)とその右腕の八代(斎藤工)。

桔平のバイオレンスなキャラは過去作品でもお馴染みだが、我が目を疑う豹変ぶりの斎藤工には驚いた。実に楽しそうにサディスティックなキャラを演じている。『孤狼の血 LEVEL2』でもヤクザの若頭だったが、今回さらに狂気増量。
一方、構成員の一人、大塚役のピエール瀧は、『アウトレイジ最終章』あたりに比べると迫力大幅減で善人モードなのが物足りない。
◇
幸太が少年時代の前半は、三浦と盲目の少年の心の交流がちょっと泣かせる。
静かに優しく少年を気遣う舘ひろしの渋さもいいが、幸太役の尾上眞秀がうまい。なんか顔立ちが佐久間由衣っぽいなあと思って観ていた。
目を動かせない中であの演技は、さすが映画初出演とはいえ、舞台慣れしたサラブレッド。リアル『国宝』といえそうな家系だもの。
幸太が出店でみつけたキーホルダーを、食事の礼にと三浦に買う場面がある。自分の財布を出す幸太だが、三浦は先に千円札を店の人に無言で渡し、小銭だけ少年に払ってもらう。この振る舞いは粋だった。
12年後に刑事なった少年
この少年時代は良かったのだが、あれ、ちょっとどうなのと思い始めたのは、12年後に、刑事になった幸太(眞栄田郷敦)が登場してから。
目の手術は成功したが、直後に三浦は姿を消し、それ以来、幸太は憧れのおじさんに会えていない。
顔もしらない三浦に返事の来ない手紙を書き続けて12年。その歳月が丸々スキップされており、あまりの唐突感が味気ない。この時代をもう少し描けば、作品に説得力が生まれたと思う。

12年というのは、三浦が手術代のために組の麻薬取引を襲い、売り手の外国人を殺した罪で服役し、出所するまでの時間だ。
刑期を終え一人寂しく出所した三浦を、全ての事情を知る荒川(笹野高史)が迎える。だが、三浦は刑事になった幸太に会うつもりはないという。二人の老け方がリアルだ。前半が若作りだったのだと知る。
◇
眞栄田郷敦は勿論カッコいいし、尾上眞秀が成長した姿にも思えるのだが、何だろう、彼の演じる幸太は、眉目秀麗かつ聖人君子すぎて、何か人間味が足りない。

先輩刑事役の一ノ瀬ワタルがイキイキしてたのと対照的。性格も、もっと屈折させてもよかった。
◇
幸太は憧れの三浦がヤクザだったことや、自分の手術代のために罪を犯したことを知ってしまい、衝撃を受ける。
ここからの苦悩や葛藤からの立ち直りが早い。同じベタな設定で大映ドラマに対抗する気なら、もっともっと三浦にも幸太にも試練が与えられないと。
絶対に幸太の恋人のあや(黒島結菜)も敵の手に落ちてしまうと信じて、ハラハラしながら観ていたんだが、そうはならなかったな。
あと、長年三浦たちを追いかけてきたマル暴の老刑事・田辺を市村正親が演じていて、当然存在感が凄い。
だけど、彼はやはり演劇人で、何だか東映アクション育ちの舘ひろしとは、ちょっと生きる世界が違うような気がした。
