『GONIN』今更レビュー|ポスターの五人になぜかたけしが?泣くな桔平

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『GONIN』 

石井隆監督の代表作といえるバイオレンスアクション。転落人生の中にある散り際の美学。

公開:1995 年  時間:109分  
製作国:日本

スタッフ  
監督・脚本:    石井隆 
製作総指揮:    奥山和由 

キャスト 
万代樹彦:     佐藤浩市 
三屋純一:     本木雅弘 
氷頭要:      根津甚八 
荻原昌平:     竹中直人 
山路美治(ジミー):椎名桔平 
京谷一郎:     ビートたけし 
柴田一馬:     木村一八 
久松茂:      鶴見辰吾 
大越康正:     永島敏行 
式根:       室田日出男 
ナミィー:     横山めぐみ 
キム:       川上麻衣子 
アケミ:      滝沢涼子 
早紀:       永島暎子

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

あらすじ

バブル崩壊により暴力団・大越組に多額の借金を抱えてしまったディスコのオーナー万代(佐藤浩市)

彼はさまざまな出会いにより知り合った四人の男たちと共に、大越組事務所からの現金強奪を実行する。しかし、それも些細なミスから大越組に知れ、彼らは命を狙われることになる。

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今更レビュー(ネタバレあり)

五人そろって、GONIN!

2022年5月に逝去した石井隆監督の代表作ともいえるバイオレンス・アクション。それまでは、ロマンポルノをはじめ女性が主役の映画が続いていた石井隆監督、「今度は男ばかりが出てくる映画を撮りましょうよ」と盛り上がって生まれた企画。

暴力団の金庫から1億円のカネを強奪しようと結集する五人の命知らずの男たちの物語。だからタイトルは『GONIN』、ローマ字にすると意味ありげに見えるが、単純明快だ。

かつてはディスコのオーナーとして羽振りがよかった万代(佐藤浩市)だが、バブル崩壊で多額の借金を背負い、暴力団・大越組の取り立てに苦しむ。そこで大越組の金庫から大金を強奪しようとたくらみ、仲間を募る。

  • 金持ちの男相手のコールボーイを装い金を巻き上げている美青年・三屋(本木雅弘)
  • キレやすい性格で金属バットを振り回す、リストラのサラリーマン荻原(竹中直人)
  • パンチドランカーの元ボクサーで売春婦ナミー(横山めぐみ)のヒモ・ジミー(椎名桔平)
  • そして汚職で警察をクビになった元刑事、今はぼったくりバーの用心棒の氷頭(根津甚八)

万代が当初あてにしていたのはかつて因縁のあった氷頭、そして店の客を相手に過激なナイフさばきを見せた狂犬のような三屋。「この三人で十分だ、他は邪魔だ」という氷頭だったが、ちょっとしたしがらみから、結局五人で計画を進めることになる。

あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション『GONIN』2015/9/2リリース!

90年代の時代を思わせる空気感が随所に漂う。万代が経営する巨大なディスコは、今は取り壊されている、横浜は新山下にあった巨大なハコだろう。一方、今も健在、歌舞伎町の健康を支える新宿バッティングセンター

出てくる繁華街の街並みはどこもギラギラしている部分と光の当たらない薄汚れた部分が混然一体とし、それが不思議な魅力を醸している。不健全さも危険な匂いもあるが、こういう雰囲気は大資本による再開発でクリーン一辺倒の昨今の東京では、もう出せないだろう。ああ、懐かしい。

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GONINの顔ぶれ

今思えば個性的かつゴージャスなメンバー編成だ。主人公の金策に走るディスコ経営者・万代樹彦佐藤浩市。まだ若く、青臭さも残るが、当然主役として存在感がある。

常連メンバーの起用が多い石井隆監督だが、本作で初めて組んだ佐藤浩市は仕事の多さから他の作品では日程調整がつかなかったのか、結局『GONINサーガ』(2015)でカメオ出演する程度で監督とお別れとなった。これは惜しい。

準主役ともいえる、万代のバディになるコールボーイ・三屋純一役に本木雅弘

今や日本を代表する俳優のひとりといえる本木雅弘、最近では『永い言い訳』(2015、西川美和監督)の妻を亡くした主人公、大河ドラマ『麒麟がくる』の斎藤道三など、物静かだが胆力がある人物役が多い印象。「伊右衛門」のCM効果かもしれない。

だから、久々にセクシー度全開の若者を演じる本木雅弘を目の当たりにして、その立ち姿の美しさと端整な顔立ちに驚かされる。三屋のマッドドッグぶりもいい。

闇落ちした元刑事・氷頭要には石井隆監督の盟友・根津甚八。汚職で捕まった元刑事が妻や娘と別れて、場末のキャッチバーで用心棒。万代に請われてその気になる。頼れるタフガイには、どう見ても汚職警官にはみえないクリーンさがあるが、それはこの役者ゆえか。

根津甚八は2016年に他界してしまったが、晩年俳優業を引退していた彼を口説き落として、『GONINサーガ』を撮影した石井隆監督。

図らずも、同作は二人にとっての遺作となってしまったが、そこに揺るぎない信頼関係が感じ取れる。それを知る今、本作の氷頭は涙なしに観られない。

一人だけコミカルなキャラの、リストラされたサラリーマン荻原昌平を演じた竹中直人。にっかつロマンポルノの最後を飾った石井監督デビュー作『天使のはらわた 赤い眩暈』の出演以来、石井隆監督作品の常連だ。

コミックリリーフとはいえ、ゆるい笑いでもないし、他の作品で竹中直人が見せるような、やりすぎの過剰演技でもない。ほどよく笑えて、ほどよく暴力的。このバランスのおかげで後半の彼のエピソードに納得感が出る。

そして五人目がパンチドランカーの元ボクサー、ジミー役の椎名桔平。タイ人の売春婦ナミー(横山めぐみ)のヒモをやり、新宿バッティングセンターで働き、そして大越組では厄介者扱いのチンピラ。

ジミーだけでもいいのに、ちゃんと山路美治という愛称の由来となる名前が与えられているのは監督の役者愛。椎名桔平『ヌードの夜』『夜がまた来る』といった、石井作品の常連だ。かつ、本作のジミーのように、いつも狂気の役で登場する。

その後の椎名桔平のイメージとはかけ離れた、プラチナブロンドの男だが、ナミーへの愛を貫いて、華々しく散っていく。

映画『GONIN』本予告編

GONIN以外の顔ぶれ

ここまでがGONINのメンバー。個性的な彼らに比べると、彼らが襲撃する大越組の組長(永島敏行)、若頭の久松(鶴見辰吾)、組員の野本(飯島大介)、上部組織の式根会長(室田日出男)などは、暴力団っぽく描かれてはいるが、ちょっと脇が甘いというか、すぐに倒せそうだなという印象を持った。

もっとも、芸歴こそ長いが、ソフト路線ではなくこういう任侠の世界を渇望していた鶴見辰吾が、念願叶って若頭を演じているのは、観ている方も嬉しくなったが。

だが、大越組に怖さが欠けているのには理由があった。その背後に、真打が登場するのだ。襲撃後に式根会長がGONINを始末するために雇った殺し屋コンビ。京谷一郎(ビートたけし)柴田一馬(木村一八)。この二人は滅法強い。

本作を観る前は、大越組から大金を奪い取るクライムアクションなのだと思っていたが、実はそうではなかった。襲撃・強奪の計画は成功するのだ。だが、そのあとに、次第にこのGONINの身元が次々に割れていき、一人ずつ、京谷たちに始末されていくという展開になる。

ビートたけしが拳銃を振り回して、無言・無表情に獲物や家族を殺しまくるのは、何も本作が初めてというわけではない。『ソナチネ』(1993)をはじめ、北野武監督自身の作品でもいくつか似たようなキャラを演じている。

だが、北野作品でのたけしのバイオレンスなら初めから予想できるが、主役は五人いると思っていた映画にいきなり、無敵の殺し屋として登場してくるので、その冷酷無比な仕事ぶりには結構驚いた。

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男たちの散り際の美学

ここからネタバレになる。GONINの中で、最初に殺されてしまうのは、ジミー(椎名桔平)だ。これは愛するナミー(横山めぐみ)を強姦の末に殺された大越組の連中に決死の殴り込みをかけたからだ。彼女の服を着て臨んだだけでなく、剥いだ頭髪をかぶっているのは、狂気なのか愛なのか。

ここから、GONINはひとりずつ死んでいくのだと理解するが、盗んだカネを持って久々に荻原(竹中直人)自宅に帰ると、誰もいないシーンの演出が凄かった。

すでに無人の家に死臭がプンプン漂っているのが伝わるのに、ハエの音しかしない。おまけに娘(栗山千明!)が現れ、ピアノを弾いてくれる(死んでいるのだが、荻原は気づかない)。

これと似ているが、レストランで別れた妻子と食事をしていた氷頭(根津甚八)が気づくと、周囲に客も店員も誰もいなくなっていて襲撃を予感する演出も怖かった。はたして、京谷(ビートたけし)たちは、GONINをどこまで片付けていくことができるのだろう。

ここから先は触れないが、氷頭の言っていたように、はじめからSAN-NINで仕掛けていたら、こういう顛末にはならなかったのかもしれない。だが、万代は二人を切れなかった。小さな選択ミスが、人生を左右する。

大雨の夜、大越組の事務所に再度襲撃をかけ、敵組織を一網打尽に銃弾を撃ち尽くす氷頭と三屋。ノータイ・スーツの京谷も怖いが、ジャージ姿はもっと怖い。この雨のシーンは目に焼き付けておこう。『GONINサーガ』はここから始まる物語だ。

そして最後は長距離バスの中での撃ち合い。嗚呼、バイオレンス、ここにあり。

本作には何のモラルもない。無鉄砲にカネに群がる男たちが、人生のほんのわずかな時間、華々しく燃えて散っていく。それだけの物語だが、なぜか惹かれてしまう。