『罪の声』 考察とネタバレ:子供の声は俺のだと気づく再生テープの無機質な不気味さがいい

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『罪の声』 

日本中を震撼させた事件の脅迫電話の子供の声は、自分のものだと気づく男。星野・小栗のバディが新鮮!原作は勿論面白いが、映画化ならではの要素が随所に散りばめられている。警察の出ないミステリーも良い。

公開:2020 年  時間:142分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:  土井裕泰
原作: 塩田武士『罪の声』
脚本: 野木亜紀子

キャスト
阿久津英士: 小栗旬    
曽根俊也:  星野源    
水島洋介:  松重豊    
鳥居雅夫:  古舘寛治   
曽根光雄:  尾上寛之   
曽根亜美:  市川実日子  
曽根達雄:  宇崎竜童/川口覚
曽根真由美: 梶芽衣子/阿部純子
生島総一郎: 宇野祥平
生島千代子: 篠原ゆき子
生島望:   原菜乃華
生島秀樹:  阿部亮平
板長:    橋本じゅん
河村和信:  火野正平

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

あらすじ

35年前、食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件は、誘拐や身代金要求、そして毒物混入など数々の犯罪を繰り返す凶悪さと同時に、警察やマスコミまでも挑発し、世間の関心を引き続けた挙句に忽然と姿を消した謎の犯人グループによる、日本の犯罪史上類を見ない劇場型犯罪だった。

大日新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は、既に時効となっているこの未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、取材を重ねる毎日を過ごしていた。

一方、京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、家族三人で幸せに暮らしていたが、ある日、父の遺品の中に古いカセットテープを見つける。

テープを再生してみると、幼いころの自分の声が聞こえてくる。そしてその声は、30年以上前に複数の企業を脅迫して日本中を震撼させた、昭和最大の未解決人で犯行グループが使用した脅迫テープの声と同じものだった。

レビュー(まずはネタバレなし)

どくいりきけん

塩田武士による同名の原作は、35年前に実際に発生し、警察庁広域重要指定事件では初の未解決事件となった菓子メーカー等食品会社の脅迫事件がモチーフのフィクションだ。週刊文春ミステリーベストテン国内部門第1位や山田風太郎賞受賞を果たしている。

実名をいえば、当時を知る世代なら誰もが記憶しているだろう事件だが、その脅迫テープが子供の声だったことから発想を得た小説らしい。本作での犯人集団の名前「くら魔天狗」も、実際の事件の人を食った犯人名を真似たものだ。

映画化によって引き出された魅力

原作も引き込まれたが、こうして映画としてみると、実に映画化に向いている話だと感じる。

そもそも、物語のトリガーであり軸となるのは、男女三人の子供の声による脅迫電話であり、その無機質な不気味さと薄気味悪さは、やはり文字よりは音声の方が伝わりやすい。

また、道頓堀に大きな看板のあるお菓子メーカーと、その競合先であるキャラメルのメーカーが、毒物混入で脅迫され、店頭の陳列棚から撤収される姿等も、それらしいパッケージや会社ロゴを作って映像で見せられると、やはり説得力がある。

何より、モンタージュで一躍有名になったキツネ目の男が写真に現れ、更に実物も登場するとなると、この興奮は映画ならではである。

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阿久津と曽根のバディ・ムービー

事件そのものは、すでに時効を迎えている。『時効警察』の霧山君が趣味で捜査に出てくるわけではないので、この手の作品には珍しく、警察はほとんど活躍の場がない

事件を再び掘り起こしていくのは、未解決事件の特集で本事件を追う新聞記者の阿久津(小栗旬)と、自分の子供時代の声が脅迫電話に使われていると気づくテーラーの曽根(星野源)だ。二人はそれぞれ単線で捜査らしきものを始める。

二人が曽根のテーラーの店内で初めて顔を合わせるシーンがよい。

マスコミに過去を暴かれ、平和な暮らしや娘の将来が脅かされることを恐れる曽根。一方で、被害者も金も無事で終わった時効の事件を蒸し返すことは、事件をエンタメとして消費するだけではないのかと葛藤する阿久津。

だが、阿久津が曽根の小さな娘に、驚かせたことを詫びた様子を見て、曽根は、彼の人柄を信用するようになる。

このシーンは二人の共演の場面として最初に撮影されたそうだが、よい緊張感がでている。二人の共演は『コウノドリ』の医師(星野)と妊婦の夫(小栗)以来か。後半はすっかりバディムービーとなっていく。

原作を相当読み込んでいる仕事ぶり

監督の土井裕泰監督と脚本家の野木亜紀子が、相当に原作を読み込んで作り込んだのだろうと感じさせる。

原作をかなり削ぎ落さなければ140分台には収まらないだろうが、しっかりとメリハリを効かせて原作のテイストを残しながらも、バディ感の強調や平成の終わりの雰囲気なども加えて、独自のアレンジも生きている。

京都の川沿いのテーラーの佇まいも美しい。大阪弁・京都弁の出し方も(どこまで自然なのか聞き分けられないが)、まあ余所者には違和感なく聞ける。

どうしてもTBS系ドラマの匂いがしてしまうのは否めないか。星野源が登場すれば、野木脚本では『MIU404』『逃げ恥』、土井監督では『コウノドリ』あたりを思わせる。まあ、どれもいずれ劣らぬ傑作ドラマなので、これ自体は何の問題もないけれど。

(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

レビュー(少しネタバレあり)

その後の子どもたちの人生はどうなったのか

本作はミステリーではあるが、何か驚きのトリックが解明される類の内容ではなく、少しずつ手がかりを辿っていき真相に到達する話だ。

<なぜ、誰が子供たちの声を使ったのか>よりも、<その後、子供たちの人生はどうなったのか>ということに焦点が当たっている。

曽根は、テープを発見するまで、そんな録音も事件との関与も知らずに生きてきた。死んだ父のテーラーを継ぎ、母と妻・小さな娘と幸せに暮らしている。彼にそんな録音をさせた人物として浮かび上がるのが、失踪している伯父の達雄である。

曽根が小さい頃に達雄に連れていってもらった動物園のレオポンや、録音テープの前後に入っている、子供の歌う『もしも明日が』など、当時を思わせる小ネタがさりげなく挿入されているのは楽しい。

脅迫電話は三回あり、違う子供の声が使われている。他の二人の声の持ち主をどうにか探しあてた曽根と阿久津は、この二人のその後の苦難の人生を知る。

録音させられた子供に罪はなく、まして時効の事件だ。だから阿久津が初めてテーラーに訪れた時、曽根が恐れたのは、事件への関与が明るみに出て、家族や娘が、世間の非難を浴びることだろう。

だが、そんな曽根の眼前に、子供ながらに録音と事件の関係を知り、その後に夢も希望も失い悲惨な青春を過ごした人たちがいるのだ。何も知らずに呑気に幸福な人生を築いてきた曽根は自責の念にかられる。宇野祥平の迫真の演技に圧倒される。

何も知らない子供たちを勝手に凶悪犯罪に巻き込んだ大人たち、親たちには、一体どんな事情があったのか。そして、それが子供たちのこれからの人生にどんな影響を与えるのかを、思ったことがあるのか。

本作は全体を通じて、それを問いかける。エンタメ消費で終わらせないために、阿久津にも失っていたジャーナリスト魂がよみがえってくる。

気づいた点を少々

原作を読んでから久しいので、詳細な比較はできないのだが、映画としては手際よくまとめられていたと思う。

メイン二人の演技は勿論よかったが、周囲のに配したベテラン勢が、妙に目立った演技をすることもなく、うまいながらも抑制を効かせ(特に板長の橋本じゅん)、全体として調和のとれた作品に仕上がっていた。

阿久津の上司の古舘寛治松重豊など、新聞社の面々は、塩田武士が新聞社出身だけに熱く描かれている気がする。

若干引っかかりを覚えた点もある。

小料理屋『し乃』の板長(橋本じゅん)のもとに、曽根と阿久津はそれぞれ単線で聞き込みに行き、これが二人の接点になっていく。

だが、振り返ると、犯人一味の解明にあたっては、この板長が小出しにする情報がメチャクチャ重要すぎて、ちょっと板長に頼り過ぎな気はした。

(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

また、曽根の子供時代の顔は、どう見ても星野源の幼少期には見えない。子役の少年は勿論かわいいのだが、ちょっと違和感あり。

ロンドンのロケは取って付けたような座りの悪さがあるが、女性記者の<ご飯論法>のようなはぐらかしも、あのように見せられるとすぐに気づいてしまった。

元ネタの方も未解決事件で終わっており、本作のように、録音の声の子供たちが今もどこかにいるのだろうと思うと、作品の取り扱いは難しいのだろうが、よく配慮されているように感じた。

ラストのテーラーでの再会シーンは映画オリジナルだと思う。予定調和的ではあるが、きれいに収まっていて、後味スッキリが嬉しい。原作を読んでいてもいなくても、のめり込める作品だった。

以上、お読みいただきありがとうございました。原作未読な方は、ぜひ。