『そろばんずく』今更レビュー|限定Blu-rayBOXにも入れてくれよ~

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『そろばんずく』

とんねるずの映画初主演作は、森田芳光監督が良くも悪くもふざけまくった最大の異色コメディ。

公開:1986 年  時間:109分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本:    森田芳光

キャスト
春日野八千男:   石橋貴明
時津風わたる:   木梨憲武
梅づくしのり子:  安田成美
桜宮天神:     小林薫
桜宮雅:      名取裕子
天敵雄:      渡辺徹
クライアント大山: 石立鉄男
クライアント波野: 財津和夫
月丸:       浅野ゆう子
花月:        イッセー尾形
桃子:        木内みどり
水原(ラ社社長): 三木のり平
三原(ト社社長): 小林桂樹
海鮮料理屋主人:  ベンガル
コワオモテスター: SABU
竹千代 :      奥野敦子
平和島:      加藤善博
植田:       椎名桔平
吉川:       豊原功補

勝手に評点:1.5
(私は薦めない)

©1986フジテレビジョン/ニッポン放送/AtoZ

ポイント

  • 配信もされていないようだし、今となっては観たくても容易に観られない森田芳光監督の最大異色作。
  • かといって薦めてはいない。昭和末期の奇妙な暴走感と、笑いの演出がすべった時の寒さを体感する意味では、貴重な一本。

あらすじ

春日野八千男(石橋貴明)と時津風わたる(木梨憲武)の二人は広告代理店“ト社”に勤める若き営業マン。

その二人にパブで知り合った梅づくしのり子(安田成美)がト社に入社し、三人でチームを組んで仕事を進めていたが、ライバル“ラ社”の天敵雄(渡辺徹)に度々横ヤリを入れられる。

その“ラ社”のエリート社員、桜宮天神(小林薫)の策略で三人は窮地に立たされるが…。

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今更レビュー(ネタバレあり)

森田芳光版「気まぐれコンセプト」

森田芳光監督最大の異色作、というかトホホな作品だと思う。バブル景気の時代を思い起こさせる、ホイチョイ「気まコン」のような大手広告代理店同士の無茶な仕事の取り合い。

当時人気絶頂だったとんねるずの二人を映画初主演で起用し、ヒロインには本作共演が縁でのちに木梨憲武と結婚する安田成美

ライバル会社の強敵には、森田監督の前作『それから』(1985)で文芸作品濃度を一気に高めた小林薫が、そこまで激変するのかという怪演。

更には、先日逝去されたばかりの渡辺徹が、体型もあってかコミカルなキャラクターに路線変更し、愛らしく笑いを取る。

©1986フジテレビジョン/ニッポン放送/AtoZ

キャスティングをみれば、けして悪くない。だが、なぜか演出も脚本もすべりまくっている。

昭和末期に撮られた本作と令和の今では時代感覚が変わったからで、当時は劇場でバカ受けだったのだろうか? うーん。

私は多くの森田芳光作品にもとんねるずのバラエティやドラマにもリアルタイムで接してきたが、本作だけは初見だった。でもこれを劇場に見に行っていたら、併映の『おニャン子ザ・ムービー 危機イッパツ!』(原田眞人監督!)まで待てずに席を立っていたかも。

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悪ノリ全開の演出と脚本

だって、この『そろばんずく』、映画として成り立っているのか? 出演者の多くをカメラの前に立たせて正面からのバストショットで台詞を言わせる演出は斬新とも思えず。

更に、同じアングルで同じ演者が台詞を言うカットだけをつなぐ手法を多用し、まるで乱暴に編集で無言部分を削除したインタビュー映像のようになっている。CMならともかく、映画でこの演出に付き合わされるのはつらい。

文芸作品で優等生に撮った『それから』の反動なのか、映像で遊びたいことはみんなやってみる森田芳光のスタンス。撮影は前田米蔵か。よく我慢した。

演出・脚本についてはどうだろう。悪ノリでふざけまくったり、意味不明な会話やカットがあったっていいとは思う。でもそこには突き抜けた振り切りが必要で、中途半端に低体温なリアクションの主人公たちは観客を戸惑わせる。

おバカ映画を貫くならば、近年でいえば『脳天パラダイス』(山本政志監督)なみの高揚感とインパクトがあってほしいのに、石橋貴明には変な声のレレレのおじさん風清掃業者木梨憲武には低いテンションの蕎麦屋の出前という、微妙な変装キャラで長々引っ張る。

©1986フジテレビジョン/ニッポン放送/AtoZ

小林薫のいいとこ取り

森田芳光監督が映画初主演のとんねるずに、日頃よくやるアドリブを禁じたという話は有名だ。

それは映画人としてあるべき姿だと思うが、その結果、彼らの持ちネタのようなことを監督が振り付けていては意味がない。よくお笑い芸人がCMで陳腐なギャグを台本通り言わされているのと似ている。

とんねるずの二人が、ボケてはいるもののテレビドラマでやっていたように普通に芝居をするものだから、笑いも演技も含め、美味しいところはほぼ小林薫に持っていかれている。

観終わって耳に残っているのも、小林薫が演じたライバルの「待ってくれよ~」(イントネーションが面白い)という台詞だし。

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ほかに本作の中で笑えた役は、敵対するラ社で渡辺徹が演じた憎めない敵キャラ、あとクライアントの石立鉄男安田成美も好演していたと思う。チョイ役だが、イッセー尾形ベンガルなどはやりすぎ感があって、ちょっとイタいなあ。

イタいといえば、湾岸沿いの団地から始まる『家族ゲーム』的なオープニングや、安田成美に歌わせる薬師丸ひろ子『メイン・テーマ』小林薫の台詞「ビ・サイレント」『ときめきに死す』から、といった自作パロディも分かり易すぎて、ちょっとなあ。

広告代理店二社の社長に小林桂樹三木のり平東宝往年ヒットの社長シリーズのオマージュなのだろうが、こういうのは物語がしっかりしているからこそ面白いのであって、本作のようなキワモノとは相性が悪い。

寝た子も起きる子守唄

DVD使用許諾権、認めてくれよ~

亡くなった森田芳光監督の70周年記念ブルーレイボックスには、『そろばんずく』だけが版権元許諾が得られず収録されていない。裏事情はよく分からない。

映画の出来不出来が理由ではないのかもしれないが、せっかくの記念企画なのだからコンプリートにならなかったのは残念だ。監督のファンならば当然全作手元に残したいと思うだろう。

1986年、フジテレビとんねるず、ついでに併映のおニャン子クラブもそうだが、飛ぶ鳥を落とす勢いの連中揃いで、何をやっても許される、というかうまくいく時代だった。今ならば、このような無謀な作品が公開までたどりつくとはとても思えない、しかも天下の東宝で。

この時代を知るひとつの大きな歴史的遺産という意味では、本作は大いに見る価値がある。森田監督ファンや、とんねるずファンなら尚更だ。渡辺徹の追悼で地上波放映されてもおかしくない(彼の魅力は十分出ている)。

それ以外の、何かメディ映画を観ようと思っている一見さんにはうかつに手を出すことを薦めない。だが、幸か不幸か、本作は配信している先も見当たらず、レンタルDVDの枚数も極めて乏しい。

観るためには、ちょっとしたハードルがあるのだ。でも、そのうち希少価値が高まったりして。