『僕達急行 A列車で行こう』
森田芳光監督の遺作となった、松ケンと瑛太が演じる鉄オタ二人の脱力系コメディ。
公開:2012年 時間:117分
製作国:日本
スタッフ
監督: 森田芳光
キャスト
小町圭: 松山ケンイチ
小玉健太: 永山瑛太
小玉哲夫: 笹野高史
相馬あずさ: 貫地谷しほり
日向みどり: 村川絵梨
筑後雅也: ピエール瀧
早登野庄一: 伊武雅刀
大空ふらの: 伊東ゆかり
大空あやめ: 松平千里
北斗みのり: 松坂慶子
天城勇智: 西岡徳馬
谷川信二: 菅原大吉
湯布院文悟: 三上市朗
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
大手不動産会社の社員・小町圭(松山ケンイチ)と下町の鉄工場の二代目・小玉健太(永山瑛太)は、ともに鉄道をこよなく愛する青年同士。よく同じ電車内に乗り合わせるのが縁で知り合った二人は、すっかり意気投合。
やがて小町は急に九州支店へ配属されることになり、上司は言いにくそうに転勤の話を伝えるが、小町はこれで九州の列車にいろいろ乗れると、むしろ大喜び。失恋して傷心を癒やすべく九州へやって来た小玉を小町は早速、列車旅行に連れ出す。
今更レビュー(ネタバレあり)
鉄オタの仲良し二人組
森田芳光監督の遺作となった、鉄オタの若者二人のゆるめなコメディ。
大手不動産デベロッパー・のぞみ地所に勤める若手社員の小室じゃないよ小町圭(松山ケンイチ)と、父の経営する蒲田の町工場・コダマ鉄工所に勤める小玉健太(永山瑛太)。
電車の旅で偶然出会った二人は、微妙にこだわりポイントは異なるものの鉄道マニアに変わりはなく、すぐに意気投合して親友となる。
『僕達急行』とは果たしてどういう意味なのだろう。「君たち鈍行、僕たち急行、へイへイヘイ」と続いていく郷ひろみ的文脈なのか、それとも森田監督がデビュー前に撮った『水蒸気急行』の流れを汲むタイトルなのか。
副題の『A列車で行こう』は、当然ジャズのスタンダード曲由来だと思ったが、本作に登場するJR九州にも特急A列車というのがあるらしいから、それに因んでいるのかも。
コメディとしてはゆるく、初期の作品『の・ようなもの』や『そろばんずく』の系列とみられるが、大御所になってもまだ、こういう作品を撮ってしまうのが森田芳光らしいところでもある。
ただ、遺作に辛口採点するのもどうかとは思うが、もともと監督が撮りたがっていたという『間宮兄弟』の続編のイメージになっているかというと、そこまでの洗練とキレはない。
佐々木蔵之介と塚地武雅の兄弟役は、ずば抜けて良かった。いい大人のオタクな兄弟が、くだらないことや彼女作りに情熱を傾ける可笑しみがあった。
松山ケンイチと瑛太は役者としては間宮兄弟に勝るとも劣らないが、鉄分豊富な友だち同士という設定に、やや無理を感じた。
平たくいえば、これだけ仲良しの男二人をみていると、ゲイにしかみえない。いや、むしろそういう設定にしてくれた方が、自然に観られたのに。
間宮兄弟は弟がイカ大王の塚地だし、そもそも兄弟なのだからお揃いのパジャマでも違和感ない。
だが、この映画のように、二人のイケメンがパステルカラーのニットを着て仲睦まじく電車に並んで座っていると、これはもう『きのう何食べた?』の世界にしか見えんのだ。

全編通じてゆるいコメディ
ストーリーも『間宮兄弟』に比べると、ほんわかダラダラと続いていく。
小町(松ケン)は北千住駅への抜け道を教えてあげたことで親しくなったOLの相馬あずさ(貫地谷しほり)といい仲になりかけるが、九州支社へ転勤となり、博多へ行く。
勤務先・のぞみ地所の女社長に松坂慶子、専務に西岡徳馬、部長に菅原大吉。『社長』シリーズへのオマージュのような、ゆるい三人組として描かれている。
◇
一方の小玉(瑛太)は、父(笹野高史)の経営する町工場で、最新鋭の機械購入の資金借入目途がたたずに経営不振の中でも、腐らずに仕事に精を出す。
池井戸潤のドラマのように、悪辣な銀行支店長は登場しない(何せ、融資担当が中村靖日だもの)。お見合い相手の大空あやめ(松平千里)にはフラれた小玉は、小町の暮らす博多まで旅行に。
◇
楽しく鉄道三昧の小町と小玉。そこで偶然出会って親しくなった筑後雅也(ピエール瀧)が九州の有力企業の社長だと分かる。
『僕達急行 A列車で行こう』(2012)
— とっけつ (@yoc_tkz) January 28, 2023
筑後雅也 : ピエール瀧#ピエール瀧出演作品 pic.twitter.com/Cb9UfxlomM
不振の九州支社を立て直すべく大きな仕事を託された小町は、小玉の協力を仰ぎ、彼の技術力を駆使して、どうにか筑後社長に新工場建設を決心させる。
誘致に絶好の用地をみつけた小町は、その地主でサッカー好きの早登野(伊武雅刀)のもとに日参するが、交渉は難航。だが、小玉の見合い相手あやめの伝手から、こちらもうまく応諾を得ることができ、大仕事が成立。

実にとんとん拍子で話が進んでいく。筑後社長が大の鉄道マニアで二人と意気投合するという話まではよいが、早登野が見合い相手の元父親という繋がりは、さすがにご都合主義が過ぎた。
遺作になってしまったが…
登場人物の名前がすべて鉄道がらみなのは、『メイン・テーマ』のときを同じふざけ方だが、映画的にはこれといった効果は感じられない。
鉄道の小ネタだらけなのは、私のような門外漢にはちょうどいい塩梅で楽しめたが、本物の鉄オタには物足らないのではないか。

町工場が蒲田にあるせいか、小玉の話には京急ネタが盛り沢山なのが個人的には刺さった。彼の着メロも京急ドレミファインバータの音だったし。
本筋と関係なく背景や効果音で遊んでいることも多く、鉄道ネタ以外にもナンセンスなギャグやふざけをふんだんに採用。これは好みが分かれるところか。

のぞみ地所の社長秘書、日向みどり(村川絵梨)が口癖のようにいう「少し好きです」が、何とも可愛い。
松ケンと瑛太が夜中に京急線を見下ろしながら熱く語り合う跨線橋、終盤にはそこにピエール瀧まで参入してくる豪華なシーンなのだが、このロケ地となったのは、京急線で最も地味な急行停車駅といわれる神奈川新町。
おそろしく狭く、古びた橋であり、映像からも欄干が錆だらけなのが見てとれる。小町がその欄干にスーツの袖を載せているのが気になってしまった。汚れるぞ。

JR九州・駒鳴駅で筑肥線に乗って去る小玉と入れ違いにあずさ(貫地谷しほり)が降車し、プラットホームに佇む小町と再会する。誰もいない駅でのフォトジェニックなキスシーン。
このまま二人はゴールインするのだと思ったが、新顔のサンダーバードが登場するとは思わなかった。
◇
森田監督はシリーズ化を目論んでいたそうだが、このゆるさで連作となると正直興行的には厳しいのではないかと思ってしまった。
ただ、監督の好きな鉄道ネタの詰め合わせと常連俳優を大勢起用で、キャリアの集大成的な作品となったコメディは、遺作として相応しい気もする。
エンドクレジットの最後に、手書き文字で監督の名前が登場し、「ありがとう」と付け加わる。これはさすがに、ホロっとさせられる。常に時代の半歩先を行く森田芳光監督は、追い付かれることなく、ついに完走してしまった。