『大河への道』考察とネタバレ|でも伊能たかだかのこの地図、北海道ちょっとズレてません?

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『大河への道』 

日本全国を測量して地図を作った伊能忠敬を主人公に大河ドラマを誘致する。その手があったかという時代劇。

公開:2022 年  時間:112分  
製作国:日本
  

スタッフ  
監督:        中西健二
脚本:        森下佳子 
企画:        中井貴一 
原作:        立川志の輔 
    『伊能忠敬物語 -大河への道-』 
キャスト 
池本保治/高橋景保:  中井貴一 
木下浩章/又吉:    松山ケンイチ 
小林永美/エイ:    北川景子 
加藤浩造/源空寺和尚: 橋爪功 
安野富海/トヨ:    岸井ゆきの 
各務修/修武格之進:  和田正人 
吉山朗/吉之助:    田中美央 
山本友輔/友蔵:    溝口琢矢 
梅さん/梅安:     立川志の輔 
山神三太郎/神田三郎: 西村まさ彦 
和田善久/綿貫善右衛門:平田満 
千葉県知事/徳川家斉: 草刈正雄

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

あらすじ

千葉県香取市役所では地域を盛り上げるため、初めて日本地図を作ったことで有名な郷土の偉人・伊能忠敬を主人公にした大河ドラマの開発プロジェクトが立ち上がる。

しかし脚本制作の最中に、忠敬が地図完成の三年前に亡くなっていたという事実が発覚してしまう。

1818年、江戸の下町。伊能忠敬は日本地図の完成を見ることなく他界する。彼の志を継いだ弟子たちは地図を完成させるべく、一世一代の隠密作戦に乗り出す。

レビュー(まずはネタバレなし)

忠敬さんで大河を呼ぼう

全国を旅して測量し日本地図を作った伊能忠敬を主人公にして、地元千葉県香取市を大河ドラマの舞台に誘致しようと悪戦苦闘するコメディ。

主演の中井貴一は企画にも携わっている。というより、立川志の輔による新作落語『伊能忠敬物語 -大河への道-』を映画化しようと考えた時点では、出演するつもりはなかったそうだ。

普段この手の松竹喜劇を観ることはあまりないのだが、本作は劇場予告が興味を引いた。

忠敬を敬愛する市役所総務課主任・池本(中井貴一)が、部下の木下(松山ケンイチ)を記念館に連れて行く。忠敬の大日本沿海輿地全図実際の日本地図をオーバーラップさせた展示を前に、池本がその正確無比な仕事ぶりを自慢げに語ると…。

「ん~、でも北海道ちょっとズレてません?」
「おまっ、おまえ、今なんつった!?」

このやりとりで、中井貴一松ケンの息の合った面白味が伝わる。実際、映画でもこの二人のとぼけた会話が笑いの中心になっている。

映画『大河への道』予告編

まずは現代パートの面白さ

大河ドラマの誘致に奔走するドタバタコメディだと思っていたが、実際観てみるとだいぶ印象が異なった。想像以上に、時代劇パートにあたる回想シーンが多い。時間配分でいえば7:3くらいで時代劇がメインなのだ。

市役所の企画会議で日光江戸村のような案をプレゼンする観光課の小林(北川景子)に代案を求められ、この町出身の偉人・忠敬ちゅうけいさん(地元ではそう呼ぶらしい)で大河を呼ぶ意見を出す池本。

それに県知事がくいつき、池本は知事の要望で、引退同然の脚本家・加藤(橋爪功)を何とか口説き落とす。このあたりの展開は実にテンポよく進む。ドラマのまじめさを壊さない笑いの匙加減がいい。

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

中井貴一は真面目そうな堅物に見える大物俳優だが、『記憶にござません』を始めとする三谷幸喜監督のコメディ映画でも常連だ。NHKの『サラメシ』のナレーションなどでも、彼のコメディ俳優としての才能を感じる。

一方の松山ケンイチも、まじめ路線とふざけ路線の振れ幅が大きく、どちらにも魅力があるが今回はふざけモード。

本作は大河ドラマ誘致の話だが、中井貴一『武田信玄』(1988)、松ケン『平清盛』(2012)でそれぞれ大河に主演している。『平清盛』では二人は父子を演じており、世代を超えた信頼関係があるのだろう。

忠敬じゃドラマにならん

個人的には、脚本家の加藤を演じた橋爪功の演技が気に入っている。意に沿わずに書いたドラマが評判となり、以来20年も書いていない頑固な老人。

松竹喜劇なら、彼に笑いを取りに行かせたくなるところだが、ここはグッと堪えて、怖そうな老人キャラを貫く演出。それがいいのだ橋爪功がボケをやると『家族はつらいよ』のようでシリアスドラマにならない。

池本に説得され、忠敬の研究を始める加藤が、驚くことを言う。

「シノプシスは書けん。忠敬は1821年に地図が完成した際、三年前に死んでいることが明かされている。つまり、忠敬は地図を完成させていないのだ。これじゃドラマにならん」

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

ドラマ義母と娘のブルースギボムス等で知られる本作の脚本家・森下佳子。大河では『おんな城主 直虎』を書いている彼女だが、当初、本作の脚本は難しいと言ってきたという。忠敬の生涯は波乱万丈すぎて実にドラマ向きで、<大河にできない>という本作の設定に沿わないからという理由だ。

そこから、長期にわたり議論を重ねた末の本作であり、苦労の甲斐はあったと思える脚本になっている。

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レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分があるので、未見の方はご留意願います。

時代劇パートで偉業に触れる

話を時代劇パートに移す。回想というより、加藤が調査のうえで考えたドラマの筋書きという設定になる。

いきなり忠敬が病死する場面。地図の完成までもう少しというところで亡くなり、残された彼の隊員は、幕府にその死を伏せて資金援助を継続させ、なんとか偉業を成就させようと企む。

伊能忠敬の物語でありながら、本人は死に顔さえ見せず役者もいないという割り切りの良さが面白い。

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

幕府に仕える天文学者・高橋景保(中井貴一)は、そんな企みが幕府に知られたらみんな死罪だと反対するが、忠敬の妻エイ(北川景子)の策略で、いつしか仲間に加わることになる。

何とか二年で仕上げようと、忠敬の影武者を作り、隊員たちは測量に行脚し、地図作りに励む。

地図作りは、平田満を筆頭に、和田正人、田中美央、溝口琢矢、岸井ゆきのといった忠敬に仕えたメンバーが継承。さらには、忠敬の死を看取った医師・梅安(立川志の輔)や、忠敬の死を疑い調査をする神田(西村まさ彦)などが登場する。

ユニークなことに、揃いも揃って全員が、時代劇パートと現代パートで二役を持っている。特に時代を越えた関連性はなく、例えば伊能隊の連中は、みんな香取市役所の職員になっていたりするわけだ。

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

時代劇の灯を消すな

中井貴一は近年減少している時代劇を、若い世代にも受け入れられる形で何とか残したいと考えているそうで、本作はその一つの試みである。

現代からタイムスリップすることもなく、江戸時代の話につなげられる。これは落語の得意分野かもしれない。

時代劇として見た場合には、本格的というにはちょっと背景や映像が綺麗すぎる気もするが、けして手抜き感はない。少なくとも、時代劇のノウハウを継承したいという気概は伝わる。

ところで、中西健二監督は、本作の北川景子主演で藤沢周平ものの時代劇『花のあと』も撮っている。余談だが、

主演:中井貴一 × 原作:立川志の輔 × 脚本:森下佳子 × 主題歌:玉置浩二

という配給会社の売り方は、さすがに新人でもない監督に失礼ではないかと思うが、いかがなものか。

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

大広間一面に敷かれた日本地図

本作は、現代パートはコメディタッチだが、時代劇パートは基本的にまじめに作っている。映画全体では時代劇の比重が大きいので、これをコメディと呼んでいいのか微妙だ。

どうにか三年がかりで地図を完成し、徳川家斉(草刈正雄)に献上しにいく高橋景保たち。だが、忠敬の死を隠蔽した罪を問われれば、その場で斬られることさえある。

この緊迫感のなか、広大な屋敷の畳の上に並べられた大日本沿海輿地全図の荘厳な輝き日本という国のカタチの美しさ。このビジュアルの感動は落語では難しい。

「景保、余の国は、かような形をしておったのか」

徳川家斉は感銘を受ける。

(C)2022「大河への道」フィルムパートナーズ

風雨をしのぎ全国を歩いた測量旅の苦労が、地図の一つ一つの地名に滲み出る。なんという偉業だろう。そしてそれは、忠敬だけでなく、彼の遺志を継いでここまで成し遂げた弟子たちの功績でもあるのだ。

忠敬はどこにおるのだと殿に聞かれて、死を覚悟して景保は忠敬のわらじを差し出す。それこそが、高齢をおして全国を渡り歩いた忠敬の魂の入ったわらじなのだ。その思いが、殿にも伝わる。

『記憶にございません』(三谷幸喜監督)でライバル政治家を演じた中井貴一草刈正雄だが、同じコメディでありながら、本作でのやりとりはしっかり胸をうつ。

面白いのは、本作はこのまま感動で終わらずに、現代パートに舞台を戻すことだ。加藤の作った脚本は感動的だが、この内容では、主役は忠敬ではなく景保であり、それだと千葉に誘致できない。

「大河は伊能忠敬でなく、高橋景保でいくか」と、息巻く脚本家の加藤。
「ちょっと意味わかんないんですけど」と、慌てる池本。

いつも弾け気味の岸井ゆきの西村まさ彦が抑え目で、志の輔も演技に専念。全体としてはうまくまとまった作品だったと思う。千葉県香取市、あまり知らなかったけど、小江戸の落ち着いた街並みが残っていそうで、行ってみたくなった。