『エイリアン ロムルス』考察とネタバレ !あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『エイリアン ロムルス』考察とネタバレ|「強い、速い、グロい」の秘伝のタレを継承

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『エイリアン:ロムルス』
 Alien: Romulus

『エイリアン』シリーズの歴史に新たな1ページ。一作目の後日譚といえる本作で、あの恐怖がアップデートされる。

公開:2024 年  時間:119分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:     フェデ・アルバレス
脚本:          ロド・サヤゲス
キャラクター創作:    ダン・オバノン
          ロナルド・シャセット
製作:        リドリー・スコット


キャスト
レイン・キャラダイン:

          ケイリー・スピーニー
アンディ:    デヴィッド・ジョンソン
タイラー:       アーチー・ルノー
ケイ:       イザベラ・メルセード
ビヨン:       スパイク・ファーン
ナヴァロ:       アイリーン・ウー

勝手に評点:4.0
  (オススメ!)

(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

あらすじ

人生の行き場を失った6人の若者たちは、廃墟と化した宇宙ステーション「ロムルス」を発見し、生きる希望を求めて探索を開始する。

しかしそこで彼らを待ち受けていたのは、人間に寄生して異常な速さで進化する恐怖の生命体・エイリアンだった。

その血液はすべての物質を溶かすほど強力な酸性であるため、攻撃することはできない。逃げ場のない宇宙空間で、次々と襲い来るエイリアンに翻弄され極限状態に追い詰められていく6人だったが…。

レビュー(まずはネタバレなし)

閉所空間SFホラーの金字塔、『エイリアン』シリーズのスピンオフ。

シリーズ4作品は監督の顔ぶれこそ鬼才揃いだが、映画的な完成度からいえば、リドリー・スコットの1作目、ジェームズ・キャメロンの2作目が突出で、あとはパッとしない作品だった。

それに我慢がならなかったか、生みの親リドリー・スコットは前日譚にあたる『プロメテウス』(2011)と『エイリアン・コヴェナント』(2017)を自ら監督。

本作は時系列的には、原点である1作目『エイリアン』『エイリアン2』の間に入る作品で、リドリー・スコット監修のもと、『ドント・ブリーズ』で知られるフェデ・アルバレス監督がメガホンを取る。

(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

サム・ライミの傑作ホラー『死霊のはらわた』のリブート作でデビューした監督だけに、この手の金字塔作品の換骨堕胎は得意なのかもしれない。

本作で好感が持てるのは、物語や構成がとてもシンプルだということだ。あらすじを見ていただいても分かるように、大したことが書かれていない。

原点回帰するように、宇宙船の中に突如闖入したエイリアンに、乗組員がひとりずつ襲われていく。言ってしまえば、それだけの映画なのだが、いかに観客をハラハラさせられるかを愚直に考えて作られている。

(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画は冒頭、宇宙空間で爆散した宇宙船から無人探査機が生命体の繭のようなものを持ち帰る。

船体にはノストロモ号の文字、運び込まれた研究用宇宙施設ロムルスのシステムはウェイランド・ユタニ社製。何の説明もなく、『エイリアン』(1979)からの悪夢が45年を経て受け継がれていることに感動。

主人公のレイン・キャラダイン(ケイリー・スピーニー)は劣悪な植民地惑星で鉱山労働者として働く女性。

アンディ(デヴィッド・ジョンソン)とともに、違う惑星に転職移住する予定が、労働契約の不当延長で、まだ5-6年はここで働かざるを得ないと分かる。絶望するレイン。

さて、弟に見えたアンディは亡父が拾ってきた古い型のアンドロイド。

ウェイランド・ユタニ社製である彼のIDを使って、廃棄施設となっていたロムルスに潜入し、冬眠ポッドを盗んで他の惑星に逃げ出すことを、レインの元カレのタイラー(アーチー・ルノー)らが考えつく。

気乗りしないレインだったが、アンディとともに、昔の仲間たちの犯行に参画することになる。分かり易い導入部分。あとはロムルスの施設内を逃げ回れ。

エイリアンの恐怖に逃げ場もなく、餌食になって人生を終えてしまうのは、いつもこのような底辺層の労働者階級だ。シリーズを通じて変わることがない。そして労働者を搾取する層は、事態の重大さに気づかず、初動を誤る。

『プロメテウス』『エイリアン:コヴェナント』マイケル・ファスベンダー演じるアンドロイドのおかげで、人間とは何なのか、どうやって誕生したのか等、人類創造に関わる哲学的な問いかけが多く投げかけられた。

物語の深みとエイリアンの怖さを共存させる作品であり、ユニークな試みだった。そういう作品も良いが、本作は原点回帰だから、人類のことなど何も考える余裕なく、ただひたすら逃げ回る。実に潔い。

レイン(ケイリー・スピーニー)の仲間たちは、元カレのタイラー(アーチー・ルノー)とその妹のケイ(イザベラ・メルセード)、タイラーの従弟でアンドロイドを憎悪するビヨン(スパイク・ファーン)と女性操縦士ナヴァロ(アイリーン・ウー)

あとはアンドロイドのアンディ(デヴィッド・ジョンソン)だから、冬眠ポッド5つで、全員無事に惑星へと脱出できる算段ではある。

乗組員が多すぎて、顔も覚えられないうちに次々と敵に殺されていく、シリーズの他作品に比べると、この人数は少ない印象だが、考えてみれば1作目もこんな人数規模だったか。

キャストも正直、名前の分からない俳優ばかりだが、シガニー・ウィーバーだって、1作目出演時にはまだ無名だった。主演のケイリー・スピーニーは2024年10月公開の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』にも出演するし、ブレイクするかも。

(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

エイリアンについては多くを語りようがない。フェイスハガーから始まり、いつものレギュラーメンバーが勢ぞろい。完全生命体だわ、こりゃ。と、毎度ながら感心する。

獲物の喉深くまで差し込んでくる蛇のような頭から、殺したあとにも相手を苦しめる硫酸のような体液まで、なんとも不気味な生き物だが、機能美のようなデザインにH・R・ギーガーの美的センスを再認識する。

性別や肌の色などをバランスよく配置するのは本作の常だが、今回はアンドロイドのアンディがアフリカ系というのが特徴的。

更に、機械なのに鈍くさいしオヤジギャグを好むという、ゆるキャラ的な存在なのかと思ったが、途中、必要があってOSのアップグレードを行うと、変化が起きる。これは映像的にも面白い。

ロムルスに生き残っていた、半身を酸に溶かされたアンドロイドのルークは、1作目のノストロモ号でイアン・ホルムが演じた白い汗をかく初代アンドロイドを思わせる造形。

イアン・ホルムはすでに亡くなっているが、その顔をCGで再現しているそうだ。ブラウン管に写る彼の顔が、当時の懐かしい雰囲気を醸す。

彼らはいずれも社畜というか、創造主である会社の利益が至上命令であった。本作では、その懐かしき、命題と主人公たちとの対決も描かれている。

本作は1作目のリメイクではなく後日譚だが、内容的にはオリジナルの斬新さや興奮を超えるものではない。まあ、それは誰がやっても無理というものだ。

では、二番煎じの駄作かというと、そうではない。既視感はあっても、きちんとしたオマージュになっており、本質を理解しない模倣とは違う。

45年前の1作目を知らない世代は、本作の美しい映像でこの世界の恐怖と興奮にはじめて触れることになるのかもしれず、それだけでも大きな存在意義があるように思う。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

エイリアンには視覚がなく、音と温度変化で敵を感知するという。逃げ延びるのに音を立てない(『クワイエットプレイス』)、汗をかかない(『ミッション:インポッシブル』)といった作品にも似たスリル。手に汗握る演出に監督の手腕が光る。

善人アンドロイドのアンディは、OSのアップグレードで社畜の先輩アンドロイド・ルークの配下に置かれてしまう。

もはや彼の至上命令は、レインの保護ではなく会社の利益。仲間が敵の策に嵌り、操られてしまう、科特隊ウルトラ警備隊にみられるパターン。

ルークが会社のために最優先しているのは、エイリアンからの合成物質の持ち帰り

ウェイランド・ユタニ社は、エイリアンからの摘出成分で、マウスを蘇生する実験を行なっていたのだ。人間をエイリアン化できれば、過酷な環境でも労働ができるとでも考えたか。

(C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

本シリーズで妊婦がでてきたら、エイリアンを出産することになるのがお約束だが、今回の妊婦ケイはルークの口車に乗って、化合物を注射してしまう。

こうして彼女は、エイリアンと人間の合成生物を産む。超長身の怪物だ。本編でルークは、この化合物を「ウェイランド氏の念願を叶えるプロメテウスの火」だと表現する。

ライセンス契約上、『プロメテウス』は明示的に本シリーズの前日譚ではないらしいが、同作で創業者のウェイランドは、人類の創造主である<エンジニア>を探し求め、永遠の生命を手に入れようとしていた。

その希望の火が、この化合物なのだろう。『エイリアン4』でも、人間とエイリアンが合成した怪物をエイリアンが産み落とすのだが、こちらの方がより見た目が人間に近く、不気味度もマシマシ。

エイリアンの伝統に従い、主人公女性は命からがら生き延びて、エイリアンを船外放出。だが最後にまだ1ラウンド戦いが残っているパターン。

下着姿になって冬眠ポッドに入るのも、宇宙服を着るのも、航海日誌を口述筆記するのも初代オマージュ。生き残った乗員はまたもや1名。1作目にはほかに愛猫がいたけど、今回はアンドロイドが一匹。

吉野家じゃないが、「つよい、はやい、グロい」はエイリアンが時代を越えて守り続けるスローガンであり、そのDNAは本作にもしっかりと受け継がれていた。