『最後の決闘裁判』考察とネタバレ|三人模様の絶対絶命、はっきりカタをつけてよ

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『最後の決闘裁判』 
 The Last Duel

巨匠リドリー・スコット監督が、久しぶりに決闘の映画に戻ってきた。三人の男女が誇りと真実を賭けて、命がけの決闘裁判に挑む。

公開:2021 年  時間:153分  
製作国:イギリス

スタッフ 
監督:        リドリー・スコット
脚本:      ニコール・ホロフセナー
            ベン・アフレック
            マット・デイモン
原作:       エリック・ジェイガー
           『最後の決闘裁判』

キャスト
ジャン・ド・カルージュ:マット・デイモン
ジャック・ル・グリ: アダム・ドライバー
マルグリット:     ジョディ・カマー
ピエール2世:     ベン・アフレック
ニコル:     ハリエット・ウォルター
シャルル6世:   アレックス・ロウザー
王妃イザボー:    セレーナ・ケネディ
クレスピン:   マートン・チョーカシュ
ル・コック:    ジェリコ・イヴァネク

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

あらすじ

1386年、百年戦争さなかの中世フランスを舞台に、実際に執り行われたフランス史上最後の「決闘裁判」を基にした物語を描く。

騎士カルージュ(マット・デイモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫の旧友ル・グリ(アダム・ドライバー)に乱暴されたと訴えるが、目撃者もおらず、ル・グリは無実を主張。

真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は罪人として死罪になる。そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになる。

人々はカルージュとル・グリ、どちらが裁かれるべきかをめぐり真っ二つに分かれる。

レビュー(まずはネタバレなし)

最後のデュエリスト(決闘者)

1386年の百年戦争さなかの中世フランスを舞台に、実際に執り行われたという史上最後の「決闘裁判」マット・デイモンアダム・ドライバーが争う。

懐かしき出世作『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』以来のタッグとなるマット・デイモンベン・アフレックによる脚本も話題を呼ぶ。

何より巨匠リドリー・スコット監督が、処女作『デュエリスト/決闘者』に原点回帰するような作品に携わることが興味深い。

その意味では、原題<The Last Duel>からデュエルというキーワードを残さない邦題はちと寂しい。『最後の決闘裁判』の邦題は的外れではないが、単なる中世の法廷劇と誤解してしまう人も少なくないのでは。

ともに同じ王に仕えるノルマンディーの騎士ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)と従騎士のジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)。二人は同じ戦火をくぐった親友であったが、その関係は次第にこじれていき、修復困難になっていく。

そして、カルージュの不在中に、留守宅で妻マルグリット(ジョディ・カマー)が突如闖入したル・グリに強姦されたことから、事態は裁判に発展し、ついには決闘で決着をつけることとなる。

(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

グラディエーターとは違うアプローチ

決闘裁判とは、判決を当事者間の命を賭けた決闘にゆだねる中世ヨーロッパに実在した正式な裁判方法だ。証言内容が食い違い、解決が難しいケースでは、真実を知っている神にすがろうというもので、闘いのすえに神が正しい者を勝利へと導くはずだ、という考えが根底にある。

中世フランスはノルマンディーの荒涼とした大地、広大な屋敷に蝋燭の灯火。張り詰めた空気が伝わってくるような絵作りはさすがリドリー・スコット監督、どこまでCGなのかは分からなかったが、十分見応えがある。

時代を感じる鎧や武器による戦闘シーンも、『グラディエーター』を思い出させる。思えば、この巨匠監督は、中世歴史ものからSF映画に至るまで多くの作品で<決闘>にこだわり続けてきた映画人なのだ。

但し、本作には、苦難や屈辱に耐え忍んだ主人公が、最後の最後に復讐心を爆発させて、仇敵に立ち向かい勝利する『グラディエーター』的な明快さはない

凌辱されて殺された妻の復讐に燃えて静かな男が立ち上がるパターンはかつて多く見られたが、本作はもっと複雑で現代風に構成されている。

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黒澤流『羅生門』アプローチ

関係者の証言が異なるからこそ決闘裁判になる。本作では、カルージュ、ル・グリ、マルグリットの当事者三人により強姦事件の見解が違う。それを、三者三様の視点から同じ事件を三幕構成で繰り返すスタイルで見せる。

カルージュは被害者の夫という立場だが、この時代、女性には告訴するにも法律の後ろ盾がなく、夫が財産(である妻)を毀損した罪で、強姦容疑のル・グリを訴えるのだ。

この、ひとつの事件を関係者の食い違う証言を並べることで掘り下げていく手法は、マット・デイモンベン・アフレックも語っているが、黒澤明監督の『羅生門』からヒントを得ている。

クロサワの編み出した、この<ラショーモン・アプローチ>『ユージュアル・サスペクツ』(ブライアン・シンガー監督)や『レザボア・ドッグス』(クエンティン・タランティーノ監督)をはじめ、多くの作品に影響を与えており、珍しいことではない。

(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

だが、本作において、三者の視点から浮き彫りにする事件の受け止め方の違いは、結構繊細であって観る者によって解釈が分かれる気もする。

そもそも、ル・グリが抵抗するマルグリットに襲い掛かって姦淫したことは事実なのだ。そのうえでの三人のとらえ方の違いを見せるというのがユニークだと思った。

この決闘裁判は14世紀に実際に起きた出来事に基づいている。ただし、マルグリットの史料は残っていなかったそうだ。最近観た女性古生物学者の映画『アンモナイトの目覚め』(フランシス・リー監督)でもそうだったが、古い時代には女性の功績は軽んじられているのだ。

史料不足を補うため、マットベンは、女性脚本家のニコール・ホロフセナーを参画させ、女性ならではの視点を膨らませた。これはなかなか効果的だったと思う。冒頭の決闘シーンも、終盤の展開も、中心にいるのはマルグリットであり、彼女が真の主人公といえる。

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レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。但し、勝敗の行方までは語っていません。

三人模様の絶体絶命

さて、三人の視点で事件が語られたあと、カルージュとル・グリが甲冑に武器と盾をまとい、決闘で雌雄を決する。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者はたとえ命拾いしても罪人として死罪となる

そもそも、時の王であるシャルル6世(アレックス・ロウザー)が、決闘裁判の実施を決めた際、逃げたら絞首刑だと言っていたから、なかなか過酷である。

更に、もしカルージュが負けた場合、妻のマルグリットもまた偽証の罪で全裸にされ火あぶりの刑を受けるというではないか。これは、誰もが逃げ場のない、名誉をかけた決闘なのだ。

三者の視点の違いについて、私が感じたことを簡単に触れさせてもらう。

第1幕・カルージュの真実

名門の出でありながら、気難しくて陰気で社交性のなさそうな騎士カルージュの視点で、いかに自分がかつて戦地で命を助けてやったル・グリに虐げられてきたか、恨みつらみを語る。

彼の目から見れば、領主であるピエール2世(ベン・アフレック)に取り入ってうまく立ち回る従騎士ル・グリは、下賤な男。そんなヤツに愛する妻が犯されたとあっては、名誉をかけて剣を抜くというわけだ。

でっぷり太った無学の堅物カルージュにマット・デイモンとは面白い。リドリー・スコット監督とは『オデッセイ』以来か。

(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

第2幕・ル・グリの真実

家柄はなく聖職者を目指していたル・グリが、その教養と処世術のうまさでのし上がる様子が描かれる。

本来、マルグリットの持参金としてカルージュが譲り受けるはずの土地を手に入れたり、カルージュの父が統治してきた城をその死後に後継したり、ピエール2世の寵愛を受けた優遇でカルージュに恨まれる。

だが、意外にもル・グリは友情を持ち、時に庇いもしている。ただ、根っからの女好きの色男は、彼の妻に好意を寄せてしまい、思わぬ展開を生む。

(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

第3幕・マルグリットの真実

カルージュに嫁いだ彼女が、夫は騎士の誇りや体裁だけを気にする無教養な男で、自分は愛されてなどおらず、ただの持参金付きの子作りの対象としかみられていないことを感じ取る。

そこに現れた、容貌がよく、読書家で知的な会話もできるル・グリを、彼女はどう見たか。事件は強姦か和姦か。事件後に、「あいつが最後の男でたまるか」と彼女は激情する夫に体を求められ、長年できなかった子供を妊娠する。

負ければ妻も火刑になることさえ、夫は伝えずに決闘裁判を申し出たのだ。意地と見栄だけの男に妻や子どもへの愛情など、あるのだろうか。

(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

そして決闘の幕が上がる

『グラディエーター』とは違い、本作の決闘では、どちらが勝ってほしい、勝たねばならない存在なのか、それがみえにくい。

そのためか、迫力があるはずの決闘シーンも、どこか観ているほうに熱が入らない。これは想定外の逆効果だったと思う。

強姦であるならば、ル・グリは負けるはず。だが、それは合意の行為で、妊娠を隠すためにマルグリットが打った芝居かもしれない。いろいろな解釈は可能だ。

「快楽なくしては、妊娠はしないのだ」そう信じているこの中世の時代に、神は、真実を語るものに勝利を授けてくれるのだろうか

負けたものは死ぬ。だが、勝ったものは、本当に何かを得ることができるのか、この決闘裁判で。

ちなみに、本作で一番不気味だったのは、マルグリットに子作りを急かす姑のニコル(ハリエット・ウォルター)だった。

あの妖怪のような青白い顔。アダム・ドライバーカイロ・レン(スター・ウォーズです、はい)なら、絶対あれはシスの暗黒卿だろうと思って観てた。