『グランドマスター』考察・ネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『グランドマスター』今更レビュー|チャン・ツィイーが主役ってことかな

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『グランド・マスター』
一代宗師 The Grandmaster

どれだけ愛を失えば、頂点に立てるのか

公開:2013 年  時間:123分  
製作国:香港
 

スタッフ 
監督:   ウォン・カーウァイ(王家衛)

キャスト
イップ・マン: トニー・レオン(梁朝偉)
ルオメイ:  チャン・ツィイー(章子怡)
パオセン:  ワン・チンシアン(王慶祥)
カミソリ:    チャン・チェン(張震)
マーサン:   マックス・チャン(張晉)
チャン・ヨンチェン: ソン・ヘギョ

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

(C)2013 Block 2 Pictures Inc. All rights Reserved.

ポイント

  • ウォン・カーウァイ監督がトニー・レオンとチャン・ツィイーで描く華麗なるカンフーアクションと悲恋。アクションの美しさにはいうことなし。物語の完成度より感性度と割り切れれば、楽しめる一本ではある

あらすじ

1930年代の中国。引退を決意した北の八卦掌の宗師バオセン(ワン・チンシアン)は、一番弟子のマーサン(マックス・チャン)と、南の詠春拳の宗師・イップ・マン(トニー・レオン)を後継者の候補と考えていた。

だが、バオセンの奥義を受け継ぐ娘のルオメイ(チャン・ツィイー)も自ら名乗りを上げる。しかし、野望に目のくらんだマーサンがバオセンを殺害。

ライバルでもあるイップ・マンに惹かれていたルオメイは、その思いを封印して父の復讐を誓い、後継者争いと復讐劇は複雑に絡みあっていく。

今更レビュー(ネタバレあり)

ドニーじゃなくトニーのイップ・マン

ウォン・カーウァイ監督がカンフー映画を撮るとは意外だった。『ブエノスアイレス』(1997)の撮影中にブルース・リーが表紙の雑誌が監督の目に留まり、次はこれだと思いついたらしい。当時その場にいたトニー・レオンも半信半疑だったというが、それが実現した。

1930年代の中国、中国武術協会の重鎮で北の八掛拳の宗師(グランド・マスター)であるゴン・パオセン(ワン・チンシアン)が引退を表明、跡継ぎに一番弟子のマーサン(マックス・チャン)を指名する。

そして流派統一を任せられる継承者として南にも後継者候補を求める。そこで、南の代表として推挙されるのが、佛山の詠春拳の宗師イップ・マン(トニー・レオン)。武術にストイックに向き合う彼の強さと思想の高さに、パオセンはイップ・マンを南の継承者と認める。

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ブルース・リーの師としても知られる、ご存知イップ・マン。本作より先に、ドニ―・イェンの主演による『イップ・マン』シリーズが始まっており、本作は時代的には抗日戦争下の佛山が舞台の『イップ・マン 序章』(2008)が近い。

もはや私には、イップ・マン=ドニ―・イェンと刷り込まれているが、本作のトニー・レオンも悪くない。佇まいやカンフーの動きも、イップ・マンらしくなっている(本人をよく知らないので、ドニー・イェンに似ているという意だが)。

主役はチャン・ツィイー

さて、各流派の拳法の宗師たちが次々とぶつかり合って生き残りを決めていく『北斗の拳』的なアクション映画とは、本作は大分異なる。

ウォン・カーウァイ監督が撮るとなれば、単なるカンフーアクションになるとも思えないのだが、主人公がこのイップ・マンなのかということさえ、疑わしい。

なぜなら、本作でいつも物語の中心にいるのは、パオセンの美しい娘ルオメイ(チャン・ツィイー)だから。

父パオセンには医者になり結婚して家庭を持てと言われているが、ルオメイは八卦掌の奥義「六十四手」の唯一の継承者。父が南の継承者として認めたイップ・マンにも勝負を挑む。

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妓楼で戦うルオメイとイップ・マン。その技の競い合いも見事であるが、容姿の美しい男女が華麗にステップを踏み、回転するように戦うさまは、まるで社交ダンス。唇も触れ合わんばかりだ。

勝負は、階下に落ちそうになるルオメイに手を伸ばしたイップ・マンが隙をつかれ、着地した廊下に亀裂が入る。

建物を壊したら、私の負けでいい。そう彼が宣言した約束がここで回収されるとは。何の説明台詞もないが、ここでイップ・マンが一瞬微笑み、以来二人は心を通じ合わせるようになる。

カンフーにロマンスまで絡めるのなら、トニー・レオンの本領発揮。トニー・レオンチャン・ツィイーが見つめ合うだけで映画になることは、すでに2004年にウォン・カーウァイ監督が『2046』で実証済だ。

満州鉄道の夜

さて、ルオメイも認めたイップ・マンは、彼女たちを追って東北にいき流派を継承することを約すが、そこに抗日戦争が勃発する。

人生は春から冬に逆転する。生活苦でも日本軍に与しないイップ・マンは、貧困で次女を餓死させてしまう。

一方のルオメイ。父パオセンの一番弟子だったマーサンが日本軍と癒着し、破門を受けた父を倒し、殺してしまう。恨みを忘れろという父の遺言に従わず、縁談話も捨てて、ルオメイはマーサンへの復讐に燃える。

これが普通の任侠映画なら、ルオメイは復讐を成し遂げられず、彼女の無念を託されたイップ・マンが、相手に必殺の一撃を見舞うところだろう。

だが、本作の主人公はルオメイだ。1940年の大晦日、東北は奉天北駅でマーサンを待ち伏せし、雪の降る駅のホームで彼に仇討ちを挑む。

本作のアクションシーンには、冒頭の大雨の降る中の夜の決闘をはじめ、イップ・マンと対戦相手との名場面が思い浮かぶ。これらもみな見応えがある。

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墨絵のような色合いの美しさと、ソリッドな動きのとらえ方、いかにも特撮にみえるような過度な演出の抑制。ウォン・カーウァイのセンスが冴える。

だが、私の印象に強く残っているのは、この駅のホームでのルオメイとマーサンの対決だ

雪の降り積むホームと、背後に走り出す列車。華麗な技の応酬。二人の闘いの背後を抜けていく満州鉄道の列車が永遠に途切れない。一旦何両編成だ。

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『HERO』『グリーン・デスティニー』で刀剣を持って乱舞するのとは、一味違うストイックなチャン・ツィイーがいい。

マーサン役のマックス・チャンは、ドニー・イェン主演のシリーズでは『イップ・マン 継承』で人気を博し、『イップ・マン外伝 マスターZ』では主演に抜擢。同シリーズで一番強くてカッコよかった彼だが、残念ながら本作では憎まれ役。

カミソリとは何だったのか

そして史実に沿っているのかは不明だが、不思議なのが八極拳の継承者カミソリ(チャン・チェン)の存在。

この男もベラボーに強く、大雨の中で何十人もの敵を相手にスーツ姿で相手を倒しまくる姿に痺れるのだが、なぜか映画の本筋には、全くと言っていいほど絡んでこない。

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列車の中で日本兵に襲い掛かろうとしてルオメイがそれを制する出会いのシーンがあるだけで、イップ・マンとの対戦など望むべくもない。

『ブエノスアイレス』つながりでウォン・カーウァイ監督がチャン・チェンに活躍の場を与えたのは分かるが、ここまで物語に絡めない役にするところも、監督らしい。

まるで初期の作品『欲望の翼』で、予算の都合でトニー・レオンの登場場面が殆ど撮れず、物語を破綻させて公開したときの再来だ。

マーサンとの対戦には勝ったが怪我をし、医者もやめて阿片に溺れるルオメイ。香港で再会したイップ・マンに、別れを告げてかつての想いを告白する。

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全てを諦めた彼女の語り、そして亡き父と修行に明け暮れた少女期の回想が、運命に翻弄されたルオメイの人生を浮かび上がらせる。

映画はラスト、奥義の伝承もせず生涯独身を貫いたルオメイと、佛山に残したまま夫イップ・マンと二度と会うことのなかった妻チャン・ヨンチェン(ソン・ヘギョ)の死を淡々と伝える。

二人の大切な女性を失い、イップ・マンは香港の地で、道場を開く。おそらく、そこに門下生となる少年は若き日のブルース・リーなのだろう。ここから、数々の伝説が生まれるのだ。

本作をカンフーアクションとして観た場合、個々の対戦シーンは素晴らしいが、物語自体にはツッコミどころが多い。

でもそこはウォン・カーウァイ監督、完成度より感性度と割り切れれば、楽しめる一本。