『インファナル・アフェア』 考察とネタバレ:やはり本場の味が最高! 呼び出しても現れなかった奴がイヌだ

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『インファナル・アフェア』 無間道

リメイクには出せない味わい。レオンとラウに酔う、微塵の無駄もない102分で綴る傑作香港ノワール。警察とマフィア、敵対する組織に双方潜り込ませたイヌ。正体の分からない者同士の戦い。息もつかせぬスリルだ。

公開:2002 年  時間:102分  
製作国:香港

スタッフ 
監督:     アンドリュー・ラウ

キャスト
ヤン:     トニー・レオン
ラウ:     アンディ・ラウ
ウォン警視:アンソニー・ウォン
サム:     エリック・ツァン
リー:     ケリー・チャン
マリー:  サミー・チェン

勝手に評点:5.0
(何をおいても必見)

あらすじ

1991年、ストリート育ちの青年ラウは香港マフィアに入ってすぐ、その優秀さに目を付けたボスによって警察学校に送り込まれる。

一方、警察学校で優秀な成績を収めていた青年ヤンは突然退学となる。彼は、警視に能力を見込まれマフィアへの潜入を命じられたのだった。

二人の青年は、それぞれの組織で台頭していく。そして10年後、警察はヤンから大きな麻薬取引の情報を受け取る。

しかし警察の包囲網はラウによってマフィア側に筒抜けとなっていた。検挙も取引も失敗に終わったことで、警察・マフィア双方が潜入スパイの存在に気づく。

レビュー(まずはネタバレなし)

今さら語ることがあるか

香港が国家安全法施行で大きく揺れているこの時代、今になって香港ノワールの金字塔といってよい本作をつかまえて、一体私は何を語ろうと言うのだ。

そうは言っても、何度観たって、どんな時代に観たって、傑作は傑作なのだ。そして、多くの傑作映画がそうであるように、本作も観るたびに発見がある。なので、改めてレビューを書いておきたい。

まず、本作はその情報量に比して恐ろしく映画のテンポが速いことに改めて気づかされた。ストーリーが分かっていてさえも、次々に目に入ってくる情報の処理が、シーン展開に追いつかない。

特に、二人の若者が、マフィアと警察学校それぞれからイヌ(スパイ)として相手側に潜入させられる導入部分。

そして10年が経過し役者がトニー・レオンアンディ・ラウに代わり、大きな麻薬取引を巡って二人の潜入者が、それぞれの派遣元上司に極秘裏に情報を送り合う白熱したシーン。

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一分の無駄もない完成度

諜報合戦の結果、検挙も取引も失敗に終わり、二人のイヌのそれぞれの上司であるサム(エリック・ツァン)とウォン警視(アンソニー・ウォン)が警察署内で口論するのだが、私はこの辺でようやくまともに人物把握ができるようになる。

そんな理解力でも麻薬取引シーンは十分に興奮できるのだが、これを初見できちんと把握しながら楽しめる人は尊敬する。

そして、サムとウォン警視は自分の組織にイヌが紛れ込んでいることに気づき、それぞれに身辺調査を始める。

この辺から展開は少しペースダウンして追いかけやすくなった気はするが、それでも話の展開にはまったく無駄がない

進行だけが慌ただしく進むのではなく、例えばヤン(トニー・レオン)が精神医のリー(ケリー・チャン)のカウンセリングを受ける、心理面を語るのに大事なシーンはゆったりと進む。

つまり、全体構成が計算されつくしているのだ。

これだけの充実した内容と完成度で、なんと102分という尺に収めているのだ。恐るべき体脂肪率、まるでぜい肉がない。

キャスティングの妙

冒頭の若い頃の配役も、ほんの10年前の設定なら同じ俳優を起用しても違和感はないのに、あえて二人の若者を使っている。

当初から三部作構想があったからなのだろうが、ここもよく計算されている。

そしてなんといっても、主要四人のキャラクターのキャスティングの妙だろう。

トニー・レオンアンディ・ラウの人気俳優二人は勿論だが、その上司であるアンソニー・ウォンエリック・ツァンも含め、彼ら以外の配役はおよそ想像できないほどのハマリ役だ。

ハリウッドが頑張ってディカプリオとデイモンで『ディパーテッド』を作っても、やはり本家の魅力にはとても及ばない。

日本においても西島と香川の『MOZU』コンビで『ダブルフェイス』というドラマがあったが、これも所詮まがい物の感は否めない(西島秀俊はトニー・レオンと近い雰囲気だとは思うが)。

レビュー(ここからネタバレ)

思ったほどの流血沙汰はない

ここからネタバレになりますので、未見の方はご留意ください。

本作は香港ノワールで警察とマフィアの抗争を描いている割には、安易にドンパチの撃ち合いで血が流れていないような印象を受ける。

勿論、冷静に数えればそれなりに流血沙汰はあるのだが、あえて抑制した演出にしている。

タクシーの屋根の激しいへこみ具合いとか、立体駐車場の水たまりとか、間接的な表現でかえって死を強調しているのが、実にスタイリッシュだ。

ラストのエレベーターの扉が開閉を繰り返すのも同じことかもしれない。

陰と陽 二匹のイヌ

ヤンは、そもそもは正義感に燃えて警察学校に入った優秀な若者だ。

10年にわたるマフィアへの潜入生活で、恋人も彼のもとを離れ結婚し母となり、彼の素性を知る者はウォン警視のみだ。

そして、その唯一のつながりであるウォンが殺されてしまう。真実を語れるのは精神医のリーだけだが、警察官だと明かしても、真に受けてもらえない。

ヤンは正義という自分のアイデンティティを取り戻したいが、あろうことか、彼の本当の姿を知るのは、ウォンの後任となったラウ(アンディー・ラウ)だけとなる。

ラウはヤンと正反対の立ち位置だ。警察組織で順調に昇進していくが、彼はもともと上昇志向でマフィアに入った男で、ヤンのように元のアイデンティティを求めたりはしない。

自分の生死は自分で決めろというサムの教え通りに、彼を罠にかけ射殺し、警察での実権を握っていくのである。

状況として不利に見えるヤンがどうやって反撃するのか。何度観ても、これは次回作に持ち越す流れかと思ってしまうのだが、きちんと結着がつくところが、本作の優れたところであり、しかもひねりもある。

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ふたりの潜入捜査官の哀愁

ダブルの潜入という設定の面白さだけでなく、それをシッカリとした脚本と演出で作品として昇華させているところは、ジョン・ウー監督の『フェイス/オフ』とどことなく相通じる気がする。

ラウがウォン警視の遺留品のケータイをリダイアルして、イヌであるヤンと顔も分からずに初めて通話するあたりから、徐々に追い詰められていくヤンが切ない。

悲哀を演じて似合うのは、やはりラウでなくトニーだろう。

クールな香港ノワールでありながら、主要メンバーの死ぬシーンでは抒情的な女の歌が入ったり、スローモーションになったりする。

だが、それはまったく陳腐ではなく、つい泣けてしまうのである(個人差はあります)。

リー先生に残した置手紙が、またいい。
「俺の秘密を覚えていて。再見。」

く~、かっけーなあ、ヤン。