『猫は逃げた』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『猫は逃げた』考察とネタバレ|俺だって逃げたいよ……

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『猫は逃げた』

今泉力哉監督に城定秀夫が脚本を提供、R15+指定のラブストーリー企画「L/R15」の一本。

公開:2022 年  時間:109分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:  今泉力哉
脚本:     城定秀夫

キャスト
町田亜子:   山本奈衣瑠
町田広重:   毎熊克哉
沢口真実子:  手島実優
松山俊也:   井之脇海
味澤忠太郎:  伊藤俊介(オズワルド)
竹原:     芹澤興人
和江:     中村久美

勝手に評点:2.0
(悪くはないけど)

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

あらすじ

漫画家・町田亜子(山本奈衣瑠)と週刊誌記者の広重(毎熊克哉)の夫婦。広重は同僚の真実子(手島実優)と浮気中で、亜子も編集者の松山(井之脇海)と体の関係を持っており、夫婦関係は冷え切っていた。

離婚間近の二人は飼い猫のカンタをどちらが引き取るかで揉めていた。そんな矢先、カンタが家からいなくなってしまう。

レビュー(まずはネタバレなし)

忖度し過ぎた脚本

今回は酷評になることを予め申し上げておく。今泉力哉監督と城定秀夫監督が互いに脚本を提供しあってR15+指定のラブストーリーを製作する企画「L/R15」の一本。本作は今泉監督城定脚本。もう一つは、監督・脚本が逆の組み合わせとなる『愛なのに』である。

いきなりで恐縮だが、クリスマスなどでよくみられる、プレゼント交換というのがある。

相手が喜びそうなもの、使ってくれそうなものを贈るわけだが、かといって、実用品や商品券は無論のこと、どうせ自分で買うであろう物をあげても興ざめだ。欲しいけど、なかなか自分では買わないものを選ぶのが、腕のみせどころ。

『愛なのに』今泉力哉は、いかにも自分で書きそうな脚本を城定秀夫監督に提供した。

今泉監督自身で撮ってもそれなりのレベルにはなっただろうが、そこに城定秀夫監督がR15+ギリギリのエロティシズムを加えたことで、同作は予想以上に面白い仕上がりをみせた。

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

一方で、本作はどうだろう。これは想像だが、城定秀夫の脚本は今泉力哉監督が撮ることを意識しすぎたのではないか。

こぢんまりした人物設定と狭い部屋の中での会話中心の映画運びは、いかにも今泉作品っぽい。つまり、今泉監督が自分で書きそうな脚本を、わざわざ城定秀夫が提供したことになる。

これではコラボレーション企画の意味がない。二人の才能のケミストリーが起きないのだから。前述のプレゼント交換の話に戻れば、相手が自分でいつも買っているものを、わざわざ選んで贈ってしまったようなものだ。

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日常的な痴話喧嘩が続く

映画の途中から、そんなことを感じ始めてしまったので、どうにも気分が高揚しない。

映画は冒頭、離婚届に署名捺印する町田亜子(山本奈衣瑠)広重(毎熊克哉)の夫婦。子供はいないが、飼い猫のカンタをどちらが引き取るかで折り合いがつかず、離婚は持ち越しになる。

離婚のきっかけは、写真週刊誌に勤める広重が後輩同僚カメラマンの沢口真実子(手島実優)と浮気したこと。張りあうように、レディコミ漫画家の亜子もコミック誌担当の松山俊也(井之脇海)と深い仲になっている。

要は、離婚成立すれば、それぞれ次の相手が待っているという状況だ。だが、そんな折、二人の家から「猫は逃げた」

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

『愛なのに』でも、婚約者男性の浮気に怒り、自分もその感情を知りたくなり、かつて告白してくれた男性と寝てみるという展開がある。

だが、これは浮気した婚約者(中島歩)の怪演や、苦悩する女性(さとうほなみ)が性に目覚める部分など、映画的なサプライズがあった。

本作では、カンタが逃げる以外は、あまりに平凡なキャラクターの日常的なやりとりで、その意外性のなさに逆に驚く。もっとも、ネコが逃げるのも、別に非日常ではないが。

映画『猫は逃げた』予告編

「アガペーからエロース」が最強

亜子には俊也。広重には真実子。離婚寸前の夫婦と、それを待ち構えている不倫相手。この四人の登場人物を動かして映画として飽きさせない作りにするには、それなりの工夫がいるはずだが、少なくとも前半にその気配はない。

不倫相手の広重にはやく離婚してほしいと、愛に一途な真実子の行動的なところは観ていて楽しいが、彼女と広重を取り合うわけではない亜子のキャラが中途半端だ。

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

毒舌キャラなのに、あまり悪者にしてしまうと、終盤で映画が収まらなくなるからだろうか。『愛なのに』中島歩のような、徹底したクズの役を作れなかったのが生ぬるい。

攻撃的な女性陣に対して、男性陣の広重と俊也はどちらも人は良さそうだが草食系のキャラがかぶっている。井之脇海はそれが似合うが、毎熊克哉にこの役では、彼のちょっと危険な魅力が発揮されないではないか。うーん、勿体ない。

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

四人のキャラが平板だから、本筋とはほとんど絡まない前衛的な映画監督・味澤忠太郎(オズワルド伊藤俊介)が何度も語る、もしくは劇中映画で瀬戸康史に語らせる「アガペーからエロース」という意味不明な台詞の方が、はるかに鮮明に印象に残ってしまった。

エロもネコもどこか精彩を欠く

さて、二組の不倫カップルにはそれぞれ濡れ場シーンが用意されていて、サービスショットもあるのだが、どこかエロが足らない。ここは、さすがに城定秀夫監督に一日の長があったと思う。同じR15+目線でも、『愛なのに』のがエロく見えるのは、露出度のせいではないだろう。

それと、岩合さん『世界ネコ歩き』を見慣れたせいか、どうも猫の動きは気になった。というか、演技してたか、カンタ? 

動物と子役には勝てないはずなのに、これだけ動物演技が感動を呼ばないのは『旅猫リポート』(2018、三木康一郎監督)以来な気がする。まあ、『ティファニーで朝食を』ほどの猫演技までは期待しないにしても。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

サプライズが足りない

この作品にほしいのは予定調和からの脱却だと思った。

それは、亜子と広重が結婚する前の回想シーンにも言える。いきなりこの時代にフラッシュバックさせるのは良かったが、亜子がカラオケで小泉今日子「あなたに会えてよかった」を歌うのも、その後に捨て猫のカンタを拾うのも、ちょっとベタでひねりがない。

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

そうかと思えば(ここはネタバレなので要注意)、なかなかカンタが戻ってこずに、離婚も棚上げ状態が続き、停滞ムードになってきたところでようやくサプライズが起きる。

「最近、家にいとこが泊まりにきていて、早く帰らないといけない」と真実子が広重にいうのが伏線なのだが、実は、亜子の言葉を借りれば、「(亭主を誘惑する)泥棒ネコが、猫泥棒だった」ということだ。

そのオチ自体は面白いし、動機も納得的だと思った。ただ、それを最初に明かすシーンは、『アフタースクール』(内田けんじ監督)みたいに歯切れよくやってくれないと、「どんでん返し」というのが伝わりにくい。

(C)2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ

逃げたと思っていた猫は、離婚を促すために真実子が自室に匿っていて、脅迫された俊也もそれに協力。だが、ついに事実がみんなに発覚したところで、本当にカンタは逃げ出してしまう。そして四人が修羅場のような議論を戦わせているところに、庭先からカンタの鳴き声がする。

結局、逃げた猫は戻ってくる、夫婦は離婚を考え直す、そしてフラれた不倫相手の二人が、いつの間にか同棲を始める。ご都合主義もここまで重なるとなあ。