『生きちゃった』 考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『生きちゃった』考察とネタバレ|男二人に女一人の組み合わせは悲劇

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『生きちゃった』 

愛を言えない男。愛を聞きたい女。愛を見守る男。石井裕也監督の描く原点回帰と至上の愛。本心を口に出せなくなった男の生み出す悲劇。

公開:2020 年  時間:91分  
製作国:日本
  
  

スタッフ
監督:         石井裕也

キャスト
山田厚久:      仲野太賀
武田:        若葉竜也
山田奈津美:     大島優子
山田鈴:       太田結乃
洋介:        毎熊克哉
山田透:   パク・ジョンボク
飯村早智子:     柳生みゆ
山田十郎:      嶋田久作
山田花子:    伊佐山ひろ子
杉田美幸:      原日出子

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

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あらすじ

幼馴染の厚久(仲野太賀)と武田(若葉竜也)、そして奈津美(大島優子)。学生時代から三人はいつも一緒に過ごしてきた。そして、ふたりの男はひとりの女性を愛した。

30歳になった今、厚久と奈津美は結婚し、5歳の娘がいる。ささやかな暮らし、それなりの生活。

だがある日、厚久が会社を早退して家に帰ると、奈津美が見知らぬ男と肌を重ねていた。突然のことに、厚久は奈津美に怒ることもできず、悲しむこともできずにいた。

感情に蓋をすることしかできない厚久、そして奈津美、武田の三人の関係はこの日を境に次第にゆがんでいく。そして待ち構えていたのは壮絶な運命だった。

レビュー(まずはネタバレなし)

原点回帰、至上の愛

香港国際映画祭と中国のHeaven Picturesの共同配給によるプロジェクト「B2B(Back to Basics)A Love Supreme」の第一弾として製作された。

本作のほか、アジア各国の映画製作者に同じ予算(超低予算らしいけど)が割り当てられている。テーマはプロジェクト名でもある、「原点回帰。至上の愛」

日本でお呼びがかかったのは石井裕也監督。映画作りの原点に回帰しようという作品らしいが、本作の内容からは、世間の度肝を抜いた商業デビュー作『川の底からこんにちは』に立ち返った訳ではなさそうだ。

少なくとも、あのようなシニカルな笑いはないし、かといって近作『町田くんの世界』にみられるようなほのぼの感もない。これまであまり観たことのない石井裕也ワールドだ。

監督によれば、本作と、韓国で撮影した『アジアの天使』から、新たな作風になるらしい。

二人の男と一人の女

冒頭、ギターケースを持った制服姿の男子高校生二名と女子一人の組み合わせ。二本セットのパピコアイスを二人の男子からそれぞれもらって彼女が頬張るという関係描写がうまい。

この男女比はどうしたって三角関係になることはトリュフォーからあだち充を経て現代に至るまでのお約束ではある。だが、それをパピコで瞬時に表現してしまうとは、芸が細かい。

そして時は流れ、みな大人になっている。ギターでプロデビューする夢をいつの間にか断念した厚久(仲野太賀)武田(若葉竜也)は、今度は起業を目指して英語と中国語のレッスンに精を出す。

厚久は奈津美(大島優子)と結婚し、娘の (太田結乃)がいる。相変わらず三人の幼馴染の仲は良さそうだ。

厚久はオンライン書店の巨大倉庫で商品のピックアップの仕事をしている。

三島有紀子『幼な子われらに生まれ』浅野忠信も似たような仕事をしていたのを思い出す。ケン・ローチ『家族を想うとき』でもあったが、人工知能の上司に命令されているような仕事だ。

さて、職場を風邪で早退したところで波乱は起こる。奈津美が、不倫相手の洋介(毎熊克哉)情事の最中に、鉢合わせしてしまうのだ。

だが、衝撃を受けながらも、厚久は何も言わず、娘を迎えに幼稚園に行く。そのあとも、何も言わない彼は、逆に妻から離婚を切り出される。理由は、夫からは何も愛情を感じないことが、ずっと苦しかったから。

愛を言えない男と愛を聞きたい女

厚久は思っていることを口に出せない。愛だの恋だのを口にするのがとても苦手な男たちは、昭和のお父さん世代以降になっても、依然減ってはいないのか。

日本人のメンタリティだというのは、あまりに乱暴な括り方だと思うが、厚久は、自分が本音を言えないことを、「日本人だからかな」と自嘲する。

夫が愛を語らないことで離婚を切り出す奈津美が、過剰反応だとは言えない。実際、そういう理由で分かれる夫婦も多い気がする。彼女は夫とは対照的なキャラだ。女として誰かに愛されることを欲し、思っていることは強く主張し行動に出る。

ここから、大きく崩れていく彼らの人生。トリガーとなっているのは、厚久の<本音を口に出せない>性格だ。

家に男を引っ張り込んでいた現場を見られた妻が、愛を感じないという理由を持ち出し、娘の親権を奪い、養育費を求める。

さらには幼稚園を変えたくないからあなたが出て行ってと、一気に強気な条件をぶつけてきても、何も反論せずに全て受け容れる厚久。彼のこのメンタリティに共感できるかが、観る者の評価に直結すると思う。

そんな彼を理解し、奈津美との仲を、なんとか修復させようとする親友の武田。物語は、ただの三角関係の恋愛ものとは全く異なる展開になっていく。

キャスティングについて

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主役の山田厚久を演じる仲野太賀は、若くして早くもカメレオン俳優の実力を多くの作品で発揮しているが、本作では終始人間味を封印した役に徹する。

『すばらしき世界』での熱い若者でもないし、『あの頃。』のネット弁慶とも違う。今回は笑わずに苦しみぬく役であり、その鬱積したものを最後に放出する。

親友の武田を演じた若葉竜也は、『南瓜とマヨネーズ』『あの頃。』でも仲野太賀と共演しており、息の合っているところを見せるが、これまでと違って、彼も終始シリアスな役どころ。

本作はラストシーンに向かって一直線に進んでいく映画なのだが、そこでの彼の重みを考えると、武田もまた主役と言ってよいのではないか。

厚久の妻・奈津美を演じた大島優子もまた、気迫の演技を見せる。『ロマンス』の頃より、女優としての覚悟が一段と強まったように思えた。彼女の絶叫にも、驚かされる。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレする部分がありますので、未見の方はご留意願います。

そして事件は起きる

厚久の兄・(パク・ジョンボク)引きこもりで大麻常習者でもあり、まともな生活はできていない。そんな兄が、離婚した弟を心配し、はるばる缶ビール持参で彼のアパートへ訪れる。

だが、そこには既に奈津美が洋介と娘と暮していた。夜道を自販機まで出歩く洋介をつかまえ、弟夫婦をもう一度復縁させようと試みたのだろうか、意思疎通もままならない透と洋介は喧嘩になり、透は洋介を撲殺してしまう

奈津美のヒモのような洋介もやっと定職についていたようにみえたが、透に殺された後に、雇い主の田代(鶴見辰吾)から多額の借金をしていたことが分かる。それも妻を保証人にして。

返済に負われた奈津美は鈴を実家に預け、デリヘルで働きだす。だが、怪しい客(北村有起哉)殺害されてしまう

アパートに奈津美を訪ねた厚久に彼女の死亡を知らせた刑事が芹澤興人。なんと太賀若葉と三人とも、今泉力哉監督の『あの頃。』でハロプロを追っかけていた仲間たちではないか、などとニヤリとしている場合ではない。

悲惨な方向に話は転がる。前半で実家に戻った厚久に親指をサム・アップして笑った兄。彼を人殺しにしてしまったのも、そしてデリヘルに通わざるをえなくなった奈津美が殺されたのも、全て原因は厚久なのか

本心を言えなくなってしまったのは

なぜ、彼は本心が言えなくなったのか。彼には以前、婚約者の早智子(柳生みゆ)を捨てて、妊娠していた奈津美を選んだという過去がある。

偶然ではあるが、別れを告げられた後、早智子は子供を産めない体であることがわかる。「こうなってよかったかもね」と早智子に言われた厚久は号泣する。

それ以来、自分が本心を言うことで人を傷つけることがトラウマになり、臆病になってしまったのではないか、そう思わせる。

誰かを傷つけてまで一緒になった奈津美は、しかし夫の愛情が分からないまま離婚後に殺され、厚久は残された大切な娘・鈴まで、義母(原日出子)に奪われてしまう。父娘影絵遊びをするシーンが効果的に使われる。

さあ、もうこうなれば、娘を取り返しに義母の家まで押しかけるしかない。ラストシーンまで一気に突き進む。厚久は、本心をぶつけ、人間として原点回帰ができるのか

そしてラストシーンに乗れるか

さて、このラストシーンは、厚久と武田が心を揺さぶる渾身の演技をぶつけてくる。ここまで我慢してきた魂の叫びだ。ここでもらい泣きするのは、全然ありだと思う。

だが、私はもう一つ納得できていない。なぜ、あそこで映画が終わる娘にきちんと向き合うところをみせてくれないのか。『リップヴァンウィンクルの花嫁』での怖い義母が記憶に新しい原日出子との対決もなく、ここで物語を閉じるのは、どうなのだ。

見せ場の直前で終わる選択肢もあるだろう。例えば、母と息子の再会直前で終わるジャ・ジャンク―『山河ノスタルジア』のような、傑作だってあった。

でも、本作をこのタイミングで終わらせたのは、周到なシナリオというよりは、予算的な制約なのではと、勘繰りたくなる。

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不可解な点は多い

日本語でなく英語だと本心が言いやすい。厚久はそう語っていた。だが、その程度のトラウマなら、乗り越えてほしい。だって、起業するくらいの、苦労を背負う覚悟があったのだろう? 

厚久は兄貴同様に、何らかの精神的疾患を抱えた人なのだろうか。冒頭で、夜の舗道のペイントからはみ出ないように一人歩く姿や、死んだ祖父への強いこだわりを見ると、そういう風にも見える。まあ、彼の両親もそもそも変わり物なのだが。

不可解な点は他にもある。レ・ロマネスクというミュージシャン(本人)の起用は作品から浮きまくっていたが、そういう音楽性のバンドを目指していたということなのか。

また、武田と奈津美を相思相愛と匂わせたが、ならば鈴は武田の子なのか? 或いは、武田と厚久の関係も単なる友情なのか恋愛感情なのか、微妙に悩むシーンもあった。考えるにも、手がかりがなさすぎる。

そもそも、タイトルは、本心もいわずに今日まで<生きちゃった>ってことか。邦画には珍しく、英題(All the Things We Never Said)の方がフィットしているように思う。不思議な作品だ。