『ショーシャンクの空に』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ショーシャンクの空に』今更レビュー|塀の中では希望を捨てる方が幸せ

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『ショーシャンクの空に』 
The Shawshank Redemption

ティム・ロビンスとモーガン・フリーマンの共演で魅せる、塀の中のヒューマンストーリー。心に静かに沁みる。

公開:1995 年  時間:142分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ  
監督・脚本:     フランク・ダラボン 
原作:       スティーヴン・キング
      『刑務所のリタ・ヘイワース』

キャスト
アンディ・デュフレーン:ティム・ロビンス 
レッド:      モーガン・フリーマン 
ノートン所長:      ボブ・ガントン 
ヘイウッド:    ウィリアム・サドラー 
ハドリー主任刑務官:クランシー・ブラウン 
トミー:         ギル・ベローズ 
ブルックス:  ジェームズ・ホイットモア 
ボグズ:       マーク・ロルストン

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

あらすじ

ショーシャンク刑務所に、若き銀行の副頭取だったアンディ・デュフレーン(ティム・ロビンス)が、妻と間男を殺害した罪で入所してきた。

最初は刑務所の「しきたり」にも逆らい孤立していたアンディだったが、刑務所内の古株で“調達係”のレッド(モーガン・フリーマン)は彼に他の受刑者達とは違う何かを感じていた。

そんなアンディが入所した二年後のあるとき、アンディは監視役のハドレー主任(クランシー・ブラウン)が抱えていた遺産相続問題を解決する事の報酬として、受刑者仲間たちへのビールを獲得する。

この一件を機に、アンディは刑務所職員からも受刑者仲間からも、一目置かれる存在になっていく。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

じわじわと広がる口コミ

今でこそ不朽の名作と言われる本作。邦題こそ意味不明ながらもまだヒューマンドラマを匂わせるが、原題の” The Shawshank Redemption”(ショーシャンクの贖い)ではあまり興味をそそられないし、スティーヴン・キングの原作も「刑務所のリタ・ヘイワース」と、関心を惹くものではない。

大体、リタ・ヘイワースが1940年代に一世を風靡したセクシー女優だということが、どこまで認知されているか。

というわけで、あまり派手さもなく公開当時は興行成績も冴えなかった本作だが、鑑賞者による口コミとレンタルビデオの普及のおかげか、次第に高い評価を得るようになる。そうでなくてはいけない。

(C)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

冒頭は、妻と寝る間男の屋敷の前で、銃に弾丸をこめる男。結局、彼は殺人を断念し、銃を湖に捨てて帰ったと言うが、男女は寝室で射殺されていた。捨てたと言う銃が見つからないことから、状況証拠と動機の存在により、男に終身刑が宣告されてしまう。

スティーヴン・キング原作といっても、ホラーではない。妻と愛人殺しの罪でショーシャンク刑務所に収監された若き銀行副頭取アンディ・デュフレーン(ティム・ロビンス)と、長年刑務所で調達屋をやっている牢名主のような男レッド(モーガン・フリーマン)との奇妙な友情の物だだ。

監督・脚本は本作がデビュー作のフランク・ダラボン。本作に続きスティーヴン・キング原作で刑務所が舞台の『グリーンマイル』(1999)、そしてジム・キャリー起用の『マジェスティック』(2001)を経て、再びキング原作のホラー『ミスト』(2007)というフィルモグラフィ。

正直、後続の作品はどれも二番煎じか中途半端な内容で、本作を凌駕する作品とは思えないが、そんなことはどうでもよい。すでに本作を世に出すという功績を挙げているのだから、フランク・ダラボン監督は。

勝ったも同然のキャスティング

今回、久々に本作を観直したのだが、何が良いって、やはり主演のふたりのキャスティングが絶妙にはまっているのだと思う。

若き銀行副頭取でありながら、殺人罪で収監される主人公のアンディ・デュフレーンティム・ロビンス

高身長だがけして強そうな体躯には見えず、無口で神経質そうなアンディ。弱々しそうな初日の印象から、次第に銀行マンの知識と頭脳を活かし、所長らの信頼を得て、刑務所仲間からも認められるようになる。

このアンディという役は、いかにも活躍しそうな主人公ではダメで、オカマを掘られて泣きだしたり、最後まで生き残れるか心配になるようなキャラだからこそ、観る方はハラハラするのだと思う。

(C)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

その意味では、ティム・ロビンスは適任だ。映画業界コメディの『ザ・プレイヤー』(ロバート・アルトマン監督)や、スリラーの『ジェイコブス・ラダー』(エイドリアン・ライン監督、本作同様に聖書もの)といった主演作はあったが、本作までは固定イメージが薄い。

こういうヌボーっとした正体不明の人物の演技が評価され、オスカーを獲った『ミスティック・リバー』(クリント・イーストウッド監督)に繋がったのかも。

そしてもう一人、はるか昔から終身刑でショーシャンクに収監され、仮釈放の審査に却下され続けるレッド。仲間からは調達屋で通っている。演じるのはモーガン・フリーマン

映画に時折入る語りはレッドによるもので、彼がアンディとの思い出を回想している体裁になっている。このレッドと言う役は、もともとアイルランド系白人の設定だったというが、モーガン・フリーマンの起用に変更したことは大正解だった。

人種的な多様性もそうだが、バディムービーの相棒に彼を置くことの安心感とバランスの良さは、翌年公開の『セブン』(デヴィッド・フィンチャー監督)を観てもよく分かる。

(C)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

バディムービーと書いたが、アンディとレッドは、けして仲良く派手なアクションをするわけでも、小粋な会話をするわけでもなく、まして女を取り合うわけでもない。友情は確実に存在するが、それを薄っぺらく口に出すこともない。

それぞれがただ互いを尊重し、信頼している関係なのだ。これが観ていて心地よい。昨今の映画ではなかなかお目にかかれない距離感だと思う。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

脱獄しないのかよ

本作は刑務所ものとしては実にユニークだ。映画・演劇・漫画など形態を問わず、そこに銃があれば発射され、バナナの皮が落ちていれば、滑って転び、刑務所に入れば、脱獄しなければならない。

古くは『大脱走』(これは捕虜収容所か)から『暴力脱獄』『アルカトラズからの脱出』『パピヨン』など、どれも主人公は脱獄する気満々だし、観客もそれを知って、ハラハラしながら行く末を見守っている。

本作にも脱獄は登場するのだが、正直、そんな気があったのか見落としてしまうくらいの淡泊さで計画が進んでいる。これは面白い。

本作の企画段階では、トム・クルーズ、トム・ハンクス、ケビン・コスナー等々、豪華絢爛な俳優の名がアンディ役に挙がっており、オファーもされたという。

そういう顔ぶれが登場すれば脱獄計画もバレバレだが、ポーカーフェイスのティム・ロビンスなので、なかなか行動が読めない。

(C)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

塀の中の楽しそうな面々

そしてもう一つユニークなのは、刑務所内の生活が実に楽しそうなことだ。

アンディがハドリー主任刑務官(クランシー・ブラウン)税務アドバイスをして、見返りにもらった冷えたビールをレッドたちにふるまう。こうして、刑務所仲間たちは、彼を受け容れていく。

この当時、すでに開かれた刑務所になっていたわけでもなかろうが、レッドの功績のおかげかみんな物量には満たされているようにみえ、食事のシーンも楽しそうだし、映画の娯楽や図書館まである。きつい労働があるというが、他の映画によくある過酷な労働シーンも少ない。

(C)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

刑務官の暴力や仲間内のいじめ、刑罰房などあるにはあるが、それでも居心地は良さそうだ。何より、刑務所仲間がみな仲良しなところに好感が持てる。こういう描写は珍しい。

だから、長年収監され続けここでの生活に慣れ切った者は、釈放されることに脅える。人の良さそうな図書係の老人ブルックス(ジェームズ・ホイットモア)は、社会の孤独に耐えられえず、アパートで首を吊る。

「希望など、ここでは持たない方がよい」
レッドはアンディに説く。

ショーシャンクの空に

会計知識豊富なアンディは、悪賢いノートン所長(ボブ・ガントン)裏金作りに協力させられる。次々と知恵を働かせるアンディは、希望をなくし、ショーシャンクを安住の地と思って過ごしているかに見えた

だが、新入りの窃盗犯トミー(ギル・ベローズ)が驚くべきことを証言する。

「女と間男を殺害した挙句、その罪を銀行家の亭主に押しつけたと自慢げに語っていた囚人が、以前の刑務所にいた」と。

「自分の無実が証明できるかもしれない!」浮足立つアンディ。だが、彼を手離したくない所長は、トミーを脱獄囚にみせかけハドリー主任に射殺させ、彼の希望を断つ

リタ・ヘイワースからモンローを経てラクエル・ウェルチへと壁のポスターが移り変わる頃、ついに執念でアンディは嵐の夜に脱走を図る。

下水道を這い、夜の外界に出て豪雨のシャワーに顔をあげ清々しい表情を見せるアンディ。ショーシャンクの空に何を想うのか。

(C)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.

大抵の脱獄映画は、シャバに出ればハッピーエンドだが、本作の真骨頂はむしろここからだ。アンディの所長たちへの倍返しが始まる。

そして、希望をなくすことに慣れたレッドには、皮肉にも仮釈放が与えられる。彼もブルックスと同じアパートで、同じように孤独な人生に絶望してしまうのか。

本作のラストは、約束の地メキシコはジワタネホの美しい海岸、そこでアンディとレッドは再会する。

そこには何の会話もない。表情すら分からない超ロングショットだ。だが、観る者には、抱き合う二人の会話や表情がありありと目に浮かぶ。