『硫黄島からの手紙』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『硫黄島からの手紙』今更レビュー|DVD特典のつもりが本作より上出来

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『硫黄島からの手紙』 
Letters from Iwo Jima

クリント・イーストウッド監督が描く硫黄島二部作の第二弾。今度は日本から見た硫黄島。

公開:2006 年  時間:141分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:    クリント・イーストウッド
脚本:    アイリス・ヤマシタ
製作総指揮: ポール・ハギス
原作:    栗林忠道
      『「玉砕総指揮官」の絵手紙』
キャスト
栗林忠道:    渡辺謙
西郷昇:     二宮和也
西竹一:     伊原剛志
清水洋一:    加瀬亮
伊藤:      中村獅童
藤田正喜:    渡辺広
谷田陸軍大尉:  坂東工
野崎陸軍一等兵: 松崎悠希
樫原陸軍一等兵: 山口貴史
大久保陸軍中尉: 尾崎英二郎
花子:      裕木奈江

勝手に評点:3.5
    (一見の価値はあり)

(C)Warner Bros. Entertainment Inc.(C)DreamWorks Films L.L.C.

ポイント

  • ラーゲリの前に硫黄島から愛を込める二宮和也と、なぜか戦地でも格好よすぎる伊原剛志。そして堂々の指揮官に渡辺謙と、日本勢の重厚な顔ぶれ。
  • 戦争の愚かさを、今回は日本軍の目線から描いたものだが、DVD特典で留めるはずが大ヒット。でもこっちのが出来はいい。

あらすじ

2006年、硫黄島。地中から発見された数百通もの手紙。それは、61年前にこの島で戦った男たちが家族に宛てて書き残したものだった。届くことのなかった手紙に、彼らは何を託したのか。 

戦況が悪化の一途をたどる1944年6月、日本軍の最重要拠点である硫黄島に新たな指揮官、栗林忠道中将(渡辺謙)が降り立った。

硫黄の臭気が立ち込め、食べ物も飲み水も満足にない過酷な灼熱の島で掘り進められる地下要塞。このトンネルこそが、圧倒的なアメリカの兵力を迎え撃つ栗林の秘策だった。

最後の最後まで生き延びて、本土にいる家族のために一日でも長く島を守り抜け―。「死ぬな」と命じる栗林の指揮のもと、5日で終わると思われた硫黄島の戦いは36日間にも及ぶ歴史的な激戦となる。

今更レビュー(ネタバレあり)

DVD特典のつもりが大ヒット

前作『父親たちの星条旗』がアメリカ側の視点で描いた話ならば、本作は同じ硫黄島を舞台に、日本側の視点で描いた対をなす作品である。

この辺の取り扱いの公正さはともかく、視点を変えて二本撮ってしまう手際の良さはクリント・イーストウッド監督らしい。

しかも、当初は別人を監督にあてて、前作の特典映像にするつもりだった低予算の企画を、自らがメガホンをとって前作よりも少し長尺の作品に仕上げたら、皮肉なことにこちらの方がよい出来栄えではないか。これだから、映画の世界は分からない。

『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)が邦画として初めて米国アカデミー賞の「作品賞」(外国語映画賞ではなく)にノミネートされたことは記憶に新しいが、本作はハリウッド作品とはいえ、全編日本語映画として初めて「作品賞」にノミネートされている。

偶然撮られた一枚の写真が士気高揚のために使われ、運命に踊らされる米兵の話よりも、お国のため家族のために、援軍もなくひたすら辺境の島で持久戦に耐え、そして無念の死を遂げる日本兵の物語を、日本人としてはつい贔屓目に見てしまう

前作と同様に、モノクロと見紛うような彩度を落とした硫黄島の映像に、日本兵の身に着ける日の丸の赤だけが浮かび上がるように見える。敵国の兵士はほとんど姿を見せず、相手の行動も考えもほとんど伝わらないようにするスタイルも前作踏襲だ。

キャスティングについて

渡辺謙が演じる主人公の栗林忠道は、硫黄島守備隊に新しく着任した指揮官。従来の水際防衛作戦から着任早々に内地持久戦による徹底抗戦に変更、上官の体罰を戒める等、先見性と合理性を備えた、話のわかる指揮官だ。渡辺謙がこういう役を演じると、大河ドラマ『西郷どん』の薩摩藩主・島津斉彬を思い出す。

(C)Warner Bros. Entertainment Inc.(C)DreamWorks Films L.L.C.

伊原剛志が演じる戦車隊長の西竹一中佐も、栗林と同じく善人キャラの上官だ。西洋の文化や事情に通じているが、自分の立場をわきまえ、職務を全うする。馬術でオリンピックの金メダリストであり、米国にも名が知られている。硫黄島でも愛馬を駆るなど、本当にこんな人物がいたのかと思うほど、カッコよい。

この善人の陸軍上官二人に対し、古式ゆかしい軍隊式の精神鍛錬を尊ぶ海軍大尉の伊藤中村獅童。命令に背く部下の首を刎ねることも厭わない。『戦メリ』のビートたけしのハラ軍曹みたいな、典型的な日本軍人を演じる。

一兵卒ながら主人公のひとりといえる、元パン屋の西郷昇二宮和也。栗林には何度も窮地を助けられている。文句を言いながら、渋々従軍している主人公というのは、戦争映画では珍しい気もする。

二宮和也『青の炎』の蜷川幸雄監督に続き、本作のクリント・イーストウッド監督と、大物監督との仕事が続く。糞だめのバケツを上官命令で捨てに行かされる役など、邦画では某J事務所の顔色を窺って書き換えられそうな脚本だが、イーストウッド監督はそんなことに忖度しないだろうから、他では見られないニノが見られた。

(C)Warner Bros. Entertainment Inc.(C)DreamWorks Films L.L.C.

西郷の部隊に途中参加する元憲兵の清水上等兵加瀬亮。西郷たちを監視しているスパイと思われていたが、次第に氏素性が明らかにされる。加瀬亮伊原剛志と同じく、本作がハリウッドデビュー。

私が名前の分かった出演者はざっとそんなところだった(あとは西郷の妻役の裕木奈江)。他にも多くの日本兵が登場するが、主に米国で活躍している俳優が中心。

イーストウッド監督のバランス感覚

本作では、日米双方で捕虜の扱いが異なる。西中佐の指示のもと、米兵の捕虜には傷の手当などを行うが、一方で米兵に投降した日本人捕虜は、好待遇を受けそうに見せて、手ひどい扱いを受ける。

米国側を美化して見せていないのは、さすがクリント・イーストウッド監督のバランス感覚。捕虜になるなら自決しろと命じられ、部隊が一人ずつ手榴弾で死んでいくシーンは、海外では日本以上に衝撃的だったのではないか。

敵味方双方とも、まったく高揚感のない戦争映画は、戦争の無常さや悲惨さをストレートに訴えてくる。最後には、埋められた手紙が発掘されて終わる。過度にメロドラマ仕立てにしないイーストウッド流の淡泊な演出が、本作に合っている。