『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 今更レビュー:賛否両論という言葉は、この作品のためにある

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『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 
 Dancer in the Dark

衝撃の賛否両論作。日本最後の劇場ロードショー。もう、この世に見るべきものなどない。そう言いたいのか。

公開:2000 年  時間:140分  
製作国:デンマーク

スタッフ 
監督: ラース・フォン・トリアー

キャスト
セルマ:  ビョーク
キャシー: カトリーヌ・ドヌーヴ
ビル: デヴィッド・モース
リンダ: カーラ・シーモア
ジェフ: ピーター・ストーメア
ノーマン: ジャン=マルク・バール
ジーン: ヴラディカ・コスティック
ポーコルニー医師: ウド・キア
地方検事: ジェリコ・イヴァネク
医師: ステラン・スカルスガルド

勝手に評点:2.5 
(悪くはないけど)

(C)ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, TRUST FILM SVENSKA, LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED, FRANCE 3 CINÉMA & ARTE FRANCE CINEMA

あらすじ

アメリカの片田舎。チェコ移民のセルマ(ビョーク)は息子ジーン(ヴラディカ・コスティック)と二人暮らし。つつましい暮らしだが、隣人たちの友情に包まれ、生きがいであるミュージカルを楽しむ幸せな日々。

しかし彼女には悲しい秘密があった。セルマは遺伝性の病で視力を失いつつあり、手術を受けない限りジーンも同じ運命をたどることになる。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

賛否両論も必然か

2021年12月に4Kデジタルリマスター版でリバイバル公開されることになった、カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作。国内上映権利が終了するため、日本最後の劇場ロードショーとなるらしい。

ラース・フォン・トリアー監督と歌姫ビョークの異色タッグ。この作品ほど、賛否両論という言葉が似合う作品はほかに思い浮かばない。

本作に賛同するひとの中には、この映画を生涯の最高傑作に挙げる例も少なくないようだ。ハマる人にはそれだけの感銘を与える一方で、本作を蛇蝎の如く忌み嫌うひとも多い。大きく意見が割れる作品なのである。

ただ、おそらく拒絶派にとっても、歌姫ビョークが歌い、レディオヘッドトム・ヨークとデュエットし、工場労働者をはじめ周囲の人々が突如踊り出すミュージカル仕立てのシーンには、強烈な印象を受けたに違いない。

およそミュージカルとは、それまでの普通の会話から突如一方が歌い、或いは踊り出すことで、どんなに深刻な物語でもそれを底抜けに明るい代物に変えてしまう、魔法のアイテムだった。我々の思い浮かべるミュージカルとは、そういうものだったはずだ。

だが、本作は少し様相が異なる。歌って踊るビョークはひとり楽しそうだが、周囲で踊る人々は必ずしもそうではなく、時に無表情だったり、つまらなそうだったり。更にはもの悲しい歌詞とメロディ。

こんなにも、陽気で楽しいはずのミュージカルを、真逆に落とし込んでしまうラース・フォン・トリアー監督の演出力は恐れ入る。

(C)ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, TRUST FILM SVENSKA, LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED, FRANCE 3 CINÉMA & ARTE FRANCE CINEMA

待ち受ける苦難の数々

だから、この映画の拒絶派が受け容れ難いのはそこではなく、映画の結末に尽きるのではないか。

かくいう私も、長年の封印を破って20年ぶりに本作を観直し、その手持ちカメラを多用した独特の映像の風味や独創的なミュージカルの世界観に改めて感心したが、やはり終盤の展開だけは生理的に受け付けない。こればかりは、理屈ではない。

ビョークが演じる主人公のシングルマザー、セルマは先天性の病気で徐々に視力が失われつつあり、年内には失明すると医者に告知されている。

チェコ・スロバキアから米国に渡り、工場勤務や内職で昼夜を問わず働き、父親に送金していると周囲にいいながら、必死にお金を貯めるセルマ。

それには理由があった。息子のジーン(ヴラディカ・コスティック)も、セルマと同じく遺伝性のこの疾病に侵されており、米国で手術を受けさせようと資金を蓄えていたのだ。

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映画は、この苦難だらけの日々を懸命に生きる母親セルマの人生を描くが、あまりに薄幸すぎて、正視に耐えない

だが、セルマはそんな状況でも、工場の機械音や周囲の喧騒を音楽に見立てて、そこでミュージカルのように歌い踊る自分になることで、この逆境を乗り越えていく。

まるで、孤独を紛らわすためのイマジナリーフレンドを創り出すかのように物事を自己解決し、愛する息子の目の手術のために、セルマは仕事に精を出すのだ。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

汝の隣人を愛せよ、か

視力が失われていくことで、工場では機械作業で大きなミスをしでかし、数少ない楽しみだった芝居の主役の座は譲らざるを得ず、大事に貯めてきたお金も信頼していた人物に狙われるセルマ。それこそ昭和の大映テレビドラマか朝ドラ『おしん』か、というほどの苦難続きなのだ。

セルマには、工場の同僚キャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)や、好意を寄せてくる男性ジェフ(ピーター・ストーメア)、或いは工場長や舞台の監督など、サポートしてくれる人たちが少なくない。

だが、それに安心していると、同じように善人そうに見えた、隣人で大家でもある警官のビル(デヴィッド・モース)とんだ不意討ちをくらうことになる。

ビルは浪費家の妻・リンダ(カーラ・シーモア)の言いなりで借金が膨らみ、ついにセルマが家に貯めていた手術費用を盗みだす。もはや全盲に近い彼女を騙し、セルマの家から帰ったフリでカネの在処を探るのだ。

この陰湿な手口に鳥肌が立つ。更に、妻にはセルマに誘惑されたと嘘をつき、彼女を窮地に追い込む。挙句の果てに、彼女に銃を突き付けて脅かすが、もみ合いになって逆に撃たれてしまう。いっそ殺してくれとビルに懇願された彼女は、彼を殺した末に、逮捕されてしまう

泥沼のように、不幸な運命に堕ちていくセルマ。デヴィッド・モースは善も悪も幅広くこなす、私も好きな名バイプレイヤーなのだが、本作のゲス野郎ぶりは凄まじい。

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子どもに必要なのは母か、目か

不幸はまだまだ続く。裁判でセルマには死刑が宣告されてしまうのだ。地方検事役のジェリコ・イヴァネク『スリー・ビルボード』の警官上司やドラマ『ダメージ』の弁護士とか、中間管理職の悲哀を出すのが得意。こういう役は合う。

さて、セルマは盗んだとされるカネが自分の貯めた子供の手術費用だといえば、情状酌量の余地もあるのに、それを言わないし、また再審請求の費用に使って助かろうともしない。

息子のジーンは遺伝の病気のことを知らない。心配することが目に悪影響を与えるらしく、何も知らないまま手術を受けさせたいのだ。

子供に必要なのは<母>ではない、<目>だ。いくらキャシーが説得しても、セルマは譲らない。そして、死刑執行の日が近づいてくる。

このお涙頂戴的な展開は、いかにも日本人好みな展開ではないか。そう思われるかもしれないが、これら苦難を売りにするドラマは、最後には主人公の努力が報われて安らぎや幸福を手に入れるからこそ、安心して観ていられるのだ。

だが、悪代官が最後まで成敗されずに終わる時代劇のように、この作品は予定調和を真っ向から否定する。そう、俄かには信じられないことだが、死刑は執行されるのだ。これは驚いた。

(C)ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, TRUST FILM SVENSKA, LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED, FRANCE 3 CINÉMA & ARTE FRANCE CINEMA

これ以上、見るべきものがあるの?

勿論、主人公が死んでしまう映画は珍しくないし、それが絞首刑であるケースも異例ではない。だが、その多くは、悪党が主人公の場合だ。巻き込まれ事故に近い、本作のようなケースで最後に救いの手が伸びないとは。

自分の生命を投げ出してまで息子の視力を切望したセルマ、執行の直前にキャシーが近づき、盲目の彼女に息子のメガネを手渡す。それは、手術が成功したということだ。これをもって、一縷の希望の光といえなくはない。

だが、セルマは「これ以上、見るべきものがある?」と、気丈に人生を終えたわけではない。

独房から絞首台までの道のりに足がすくむセルマを、彼女に同情的な女看守がわざと大きな足音でミュージカルのように仕立ててセルマを自発的に歩かせる。

それでも泣き叫んで怖がるセルマを絞首台にのせるシーンは、大人でもトラウマになりそうだ。R15指定ではないのか。

逮捕以降母には一度も面会できず、自分の目の手術は成功したが、そのために母を失ってしまったジーンの心中を察すると、絞首台にぶら下げられ、一瞬で静かになるセルマのラストシーンは、あまりにも重苦しい。

この作品を誰かに勧めることはうかつにはできないけれど、予定調和が何よりも嫌いな人には、もしかしたら受け止められるかもしれない。

本ページの情報は2021年10月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。