1. 『イップ・マン 序章』(2008)
2. 『イップ・マン 葉問』(2010)
3. 『イップ・マン 継承』(2017)
4. 『イップ・マン外伝 マスターZ』(2019)
5. 『イップ・マン 完結』(2020)
『イップ・マン 継承』 葉問3
公開:2017 年 時間:105分
製作国:香港
スタッフ 監督: ウィルソン・イップ キャスト イップ・マン: ドニー・イェン ウィンシン: リン・ホン チョン・ティンチ: マックス・チャン フランク: マイク・タイソン マー・キンサン: パトリック・タム ブルース・リー:チャン・クォックワン イップ・チン: ワン・シィ チョン・フォン: スイ・サン ポー刑事: ケント・チェン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
1959年の香港。町を牛耳る外国人フランクの暴挙の前にイップ・マンが果敢に立ちはだかる。しかし、それは彼の家族を命の危険にさらすことを意味していた。
さらに、武術「詠春拳」の正統をめぐり、イップ・マンは死闘に挑むことになるが……。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
待ち焦がれた続編
前作のヒットを受けて、すぐ続編が作られたわけではない。本作が作られるまでには、紆余曲折があったようだが、結果的には同じウィルソン・イップ監督、同じキャスティングのもとで作品が作られた。
但し、アクション監督は過去2作のサモ・ハン・キンポーに代わり(映画の中でも死んでしまったが)、ユエン・ウーピンが引き継いでいる。
◇
5年以上が経過した感じはあまりない。と思ったら、相変わらず小学生のままだと思っていたイップ・マンの息子は、前作で生まれた次男の方だった。長男はなぜか勉学のため佛山に戻したようである。
ブルース・リー(チャン・クォックワン)も立派な若者に成長しているが、話の流れの中では、まだ添え物扱いのちょっとコミカルなキャラである。
これまでのパターンからいくと、英国人上司が好き勝手している警察組織は何もできず、そして地上げ目的で小学校を買収しようとしている西洋人が今回の悪党連中だろう。
なんとも狡猾な手で校長に売買契約書に判を押させようとするのだが、悉くイップ・マン率いる自警団に邪魔され、ついには、子供たちを集団で拉致して、人身売買してしまうぞと脅かす。
『仮面ライダー』でショッカーが思いつきそうな、随分と単純な手段にでるのだ。
地獄からきたチャンピオン
この悪党半グレ集団の親玉が、フランク(マイク・タイソン)なのである。まずは、彼が差し向けたタイからの刺客のムエタイ男(サラット・カアンウィライ)。
エレベータの中で戦いが始まり、妻をかばいながら戦うイップ・マン。シチュエーション的には、ほとんどスパイ・アクションだが、刃ものも飛び道具もなしの勝負だ。
◇
そして、不動産王のフランクにマイク・タイソン。前作でもビッグマウスなボクシングの達人がでてきたが、いよいよチャンピオンまで引っ張り出してきたか。
当然に、彼はさらに大口をたたく西洋人なのだと思っていたが、意外とそういうキャラではなかった。
買収の邪魔をするイップ・マンが単身アジトに乗り込んでくると、「俺と戦って3分間倒れなければ、見逃してやる」といい、戦い始めるのだが、ちゃんと約束を守るのだ。
◇
このファイトはさすがに見応えがあった。どっちが勝ってもおかしくない、力と力の対決だが、ちょっとかすっただけでも致命傷になりそうなタイソンのパンチには、本物感が満ちている。
危ういところでゴングが鳴り、当然続きは本作のクライマックスで再登場だと信じていたが、まさかこれで終わりとはやや肩すかし。
マスターZが登場
その代わりと言っては何だが、新たなヒーローが本作にお目見えする。イップ・マンと同じく詠春拳を使うチョン・ティンチ(マックス・チャン)だ。
ともに息子同士が同じ小学校に通っている。チョンは車夫をやり、闇試合でファイトマネーを稼ぎながら、道場を開こうとしている。
◇
腕はイップ・マンと互角だが、ダーク・ヒーロー的な風貌は、敵か味方か読めない。小学校を守る為に、この二人が力を合わせて戦うところは、前述の例えにもどれば、仮面ライダー1号・2号のようなカッコよさがある。
だが、誰が本当の詠春拳の継承者か。その名誉のために勝負を挑んできたチョンと、イップ・マンは戦うことになる。これが、本作でのクライマックスだったのだ。
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対フランク戦も対チョン戦も、無観客のなかでの正々堂々の勝負であり、これまでの作品での戦い方とは一線を画す。西洋人の扱い方も前作とは異なっており、ヒットしたからといって同じパターンは避けているようだ。
詠春拳VS詠春拳は物干し竿のような長物から刃物、素手での格闘と流れていくが、特に棒術ファイトは3Dで観れたら、相当の迫力だったに違いない。
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チョンを演じたマックス・チャンは、なかなか絵になる。かつてドニー・イェンのスタントもしていたというから、鏡のように対になって動ける二人なのだ。
チョンを主人公にスピンオフ作品である『イップ・マン外伝 マスターZ』が作られることになるが、それも納得の展開だと思う。
ウィンシンとの麗しき夫婦愛
本作は妻ウィンシン(リン・ホン)との夫婦愛が、これまで以上に細やかに描かれている。
家族の身の安全から、あまり夫が先頭になって悪党から市民を自警することを快く思っていないウィンシン。このあたりの心情や言動はこれまでの延長線上だが、彼女は癌にかかり余命数か月と宣告されてしまう。
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名誉をかけての戦いの裏で、限りある大切な時間を過ごすイップ・マンとウィンシンの夫婦愛がなんとも尊く美しい。対戦を欠席して不戦敗になりながらも、妻との社交ダンスを選ぶイップ・マンが泣かせる。
このロマンチックな一面のおかげで、本作には、単なるカンフーアクションとは一味異なる作品となった。美しいウィンシンがこれで見納めになるかと思うと、心残りではあるが。