『コンビニエンス ストーリー』考察とネタバレ|コンビニ入っただけなのに

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『コンビニエンス・ストーリー』

三木聡監督が贈る、コンビニの奥にある異界のドアを開けてしまった男の悲喜劇。ダンテの『神曲』の新解釈か。

公開:2022 年  時間:97分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:     三木聡
原案:   マーク・シリング

キャスト
加藤:        成田凌
惠子:       前田敦子
南雲:       六角精児
ジグザグ:     片山友希
榊:         岩松了
監督:       渋川清彦
国木田:      ふせえり
黒縁眼鏡の男:   松浦祐也
大柄の男:      BIGZAM
平坂        藤間爽子

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

ポイント

  • 意欲的な取り組みだとは思うが、ホラーテイストと三木聡ワールドの組み合わせは、死んだ怪獣の処理ほどではないにせよ、相性がよいとは思えず。怖さとゆるい笑いの不条理を味わいたい人には合うのだろうか

あらすじ

スランプ中の売れない脚本家の加藤(成田凌)は、恋人ジグザグ(片山友希)の飼い犬・ケルベロスに脚本執筆の邪魔をされ、腹立ちまぎれにケルベロスを山奥に捨ててしまうが、後味の悪さからケルベロスを探しにふたたび山へと入っていく。

その途中でレンタカーが突然故障し、立ち往生してしまった加藤は霧の中にたたずむコンビニ「リソーマート」で働く妖艶な人妻・惠子(前田敦子)に助けられる。

惠子の夫でコンビニオーナーの南雲(六角精児)の家に泊めてもらうことになった加藤は、とりあえず難を逃れたかと思われたが、その時すでに、彼は現世から切り離された異世界に入り込んでしまっていた。

  

レビュー(若干ネタバレあり)

三木聡ワールドの復活

想像以上の物議を醸した 『大怪獣のあとしまつ』は大規模予算の映画ではあったが、三木聡監督らしさは希薄だと思わずにはいられなかった。

そこにきて、間髪いれずに本作の登場である。今度はきっと監督お馴染みの、ゆるい小ネタとナンセンスなギャグ満載の、こぢんまりした世界観の作品なのだろう。

そういう若干偏った期待で本作に臨んだのだが、コンビニを舞台にした日常生活のドラマなのかといった安易な想像とは大きく異なった。

全体を取り巻くシュールな雰囲気は、三木聡作品でいうならば、亀梨和也主演の『俺俺』(2013)あたりが近いかも。いや、本作の方がダークかな。

(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

コンビニの棚の奥から深みに

主人公は売れない脚本家の加藤(成田凌)。同棲している恋人で女優のジグザク(片山友希)が、オーディションに出かける前に加藤と、犬も食わない痴話喧嘩。その飼い犬がケルベロス冥界の番犬の名をいただくとは大胆な。

留守番の加藤が間違えて買ってきたペットフードが<猫人間>、こんなの食えないよとキュンキュン鳴くケルベロスのために、仕方なく夜のコンビニに<犬人間>を買いに。

いやもう、ここまでに登場するネーミングだけで、三木聡の濃厚な味わい。

外国人労働者が働くコンビニは客のガラも悪く、店の雰囲気もどこか不気味。ドリンクのショーケースを覗くと、ボトルの向こうの暗闇に人の顔。

(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

バックヤードから商品補充するのだから、こういうこともあるのだろうか。でも、ボトルの奥に店員の顔があったら、確かに怖いな。

ここからドラマは派手な動きに。なんと正面からクルマが突っ込んできて店は大破。加藤は運よく無事で、<犬人間>持参で帰宅すると、なんとケルベロスが書きかけの脚本を台無しに。

てな感じで、物語は不思議な方向に転がっていく。

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リソーマートへようこそ

およそ映画にでてくる脚本家の役といえば、ハリウッドロマンスのヒロインの相手役か、はたまた次々とトラブルに見舞われるか相場が決まっている。まあ、今回は両方あてはまるといえるかもしれない。

加藤に脚本を任せる映画会社の企画担当にふせえり、ジグザグに役を与えてくれるプロデューサーに岩松了三木聡との黄金トリオは今回も健在。ちなみにすぐに落ち込む監督役は渋川清彦

脚本をダメにされた犬を山に置き去りにしてみたが、「ケルベロスがいないのよ」とジグザグに言われ、翌日レンタカーで再び山にいく加藤。

そこで迷い込んだのが、人気ない片田舎にあるコンビニ<リソーマート>。そう、ここが本作のメインステージなのである。

本作の原案はマーク・シリング。日本の映画や文化に造詣の深い映画評論家だが、ダンテの古典文学『神曲』に触発されて、コンビニ依存の主人公が山の中のコンビニで異界に迷い込んでいく話のプロットを書いた。そこから三木聡監督が具体的に話を膨らましていく。

リソーマートはコンビニとはいうものの、いわゆる町に氾濫するチェーン店とは見た目も異なり、米国のガススタンド併設のドラッグストアっぽい雰囲気。エドワード・ホッパーの名画「ナイトホークス」のイメージだそうだが、ダイナーじゃないしなあ。

(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

加藤が店内に訪れても、しばらくは店員も現れず、ただならぬ雰囲気。言われなくとも、異世界であることは伝わる。この外観ダイナーっぽい無人コンビニをみて、ガキの頃に見た傑作B級映画を思い出した。

我ながらよくタイトルを覚えていたと思うが、『恐怖のレストラン』(1973)という米国のテレビ映画。一緒にダイナーに来た夫が消えてしまうホラーなのだが、前半までの出来が秀逸(後半で反落するが)。本作にも、同じように手の込んだ不気味さを感じた。

映画『コンビニエンス・ストーリー』予告編

前田敦子演じるファム・ファタ―ル

閑話休題。そこに突如姿を見せるのが、前田敦子演じる店員の惠子であり、その夫で店長の南雲(六角精児)なのである。レンタカーのバッテリー交換をお願いしたあたりから、加藤と惠子の仲は親密になっていく。

ちなみに、レンタカー会社の名前は『バニシングポイント』。そんなアメリカン・ニューシネマがあったなあと懐かしがってたら、なんと4Kデジタルリマスターで50年ぶりに再公開するらしい。本作がトリガーだったりして。

「あなた脚本家なの? 映画の脚本って、理想を書くの?現実を書くの?」
「惠子さんって頭いいんですね。それって脚本の本質ですよ」

ミステリアスな雰囲気の惠子が、どこか男を誘うように媚びたイントネーションで話すのがいい。色仕掛けで迫ってくる彼女に、加藤は抗えない。

(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

「ガソリンの匂いって興奮するのよね」

夫の南雲の目を盗み、親密になっていく二人。だが、そこに実在していないかのように見える惠子の頼りなさは、まるで怪談にでてくる物の怪のようだ。

正体不明なコンビニ経営の夫婦だが、その過去には良く知られた殺人事件が絡んでいるらしく、だがそれを知らずに加藤はその内容を自分の脚本に取り入れる。

物語はどう考えても、ホラー的な方向に進んでいる。実際に舞台設定もそれっぽいし。

(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

ホラーと三木聡ワールドの相性は

地獄の番犬ケルベロスのせいでコンビニに足を運んだ主人公・加藤が、ドリンクのショーケースの奥にあるバックヤードを通じて、異世界に迷い込んでしまう。

彼は山の中のリソーマートに居座り音信不通となり、残されたジグザグが、探偵を雇って彼を探し出そうとする。彼女は名前の通り、現実世界と異界を行ったり来たりジグザグに彷徨う。

(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

探偵は黒縁眼鏡のせいで分かりにくかったが、『岬の兄妹』松浦祐也ではないか。ドライブイン(っぽいコンビニ)を舞台に殺傷沙汰が起きる展開は、青山真治監督の代表作『Helpless』(1996)を思わせる。

大スペクタクルの特撮怪獣映画だと大勢の観客を誤解させて騒ぎとなった『大怪獣のあとしまつ』と同様に、本作も一見ホラー映画テイストで誤解を誘うが、中身は三木聡ならではのゆるい小ネタと不条理が詰まっている。

この中途半端さは意図的にねらったものなのだと思うが、三木聡っぽさのおかげでホラー映画の怖さは相当薄まっている。

特撮怪獣ものも、異界迷い込みホラーも、それに特化すれば十分な効果をあげられる筈なのに、三木聡ワールドにすることで、あえてそれを弱めているのだ。ここは好き嫌いが分かれるところだろう。

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半分の人にだけ分かればよい

ナンセンスで行くのなら、ドラマ『時効警察』に代表されるような、混じりっ気なしのゆるいコメディが観たいと思ってしまう私には、本作の中途半端に怖さを出そうとする演出はイマイチしっくりこなかった。

例えば、途中温泉旅館で狐面を付けてみんなで踊りまくるシーンがあるのだが、それならば『脳天パラダイス』(山本政志監督)みたいに、おバカなアドレナリン放出で突き抜けてしまえばいいのにと思ってしまう。

(C)2022「コンビニエンス・ストーリー」製作委員会

三木聡監督は、50%のひとに受け容れられ、50%のひとには否定される作品が理想だという。

本作はドラマ『熱海の捜査官』好きには、フィットする作品なのかもしれないな。そもそも、三木聡ワールドが万人に受け容れられる世の中というのも、それはそれで不気味だけど。

今回、私は前者の50%には入らなかったが、監督がこのスタンスで映画を撮ってくれるのなら、次回作もまた、今度はどうかなという気持ちで観られる。

終盤で現実世界に戻ってくると、それらしく伏線がもろもろ回収されるのは意外だった。不条理が売りものの三木聡作品なのに、なぜだか今回は散らかしっぱなしで終わらないというのも、サプライズをねらったのかもしれない。