『瞳の中の訪問者』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー(ブラックジャック) | シネフィリー

『瞳の中の訪問者』今更レビュー|宍戸錠の「ブラック・ジャックもよろしく」

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『瞳の中の訪問者』 

大林宣彦+手塚治虫の最強タッグ。宍戸錠のブラックジャック、公開当時は衝撃的でも時代が追い付いた。ここまで真剣に手塚作品を実写化しようとした監督がいただろうか、たとえ手塚先生の逆鱗に触れようとも。

公開:1977 年  時間:100分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:       大林宣彦
原作:       手塚治虫
    「ブラック・ジャック」
            春一番
脚本:    ジェームス三木

キャスト
ブラック・ジャック: 宍戸錠
小森千晶:    片平なぎさ
今岡宏:      山本伸吾
南部京子:    志穂美悦子
風間史郎:      峰岸徹
楯雅彦:      和田浩治
楯与理子:  ハニー・レーヌ

勝手に評点:2.0
(悪くはないけど)

あらすじ

小森千晶(片平なぎさ)はインターハイを目指してテニスの特訓を続けていた。ある日、コーチの今岡(山本伸吾)の打ったボールが左目に当たった千晶は、回復が絶望となる。

今岡は責任を感じ、思案の末に人里離れたブラック・ジャック(宍戸錠)の家を訪ねる。ブラック・ジャックは手術を引き受ける。手術は成功し、キャンパスに戻った千晶を、テニスでペアを組む京子(志穂美悦子)が迎えた。

ところが、周りの人には見えず千晶にだけ見える幻の男が現れるようになる。千晶はいつしか幻の男に恋し始めていた。ついに、街角で千晶はその男を見つけ、あとを追う。男は幻ではなく実在していたのだ。

レビュー(ネタバレなし)

怖いもの見たさで、ついに観賞する

『HOUSE』に続き、公開当時賛否両論が巻き起こった作品と記憶する。いや、正確には圧倒的に否定論が多かったか、或いは、早々に打ち切られてしまったので、そんな論争はなかったのかもしれない。

私にとっては、『金田一耕助の冒険』同様に、当時怖くて見られなかった作品である。

手塚治虫ファン、というより『ブラック・ジャック』大ファンだった私には、いくら敬愛する大林監督とはいえ、原作を好き勝手にアレンジして映画化されることなど、論外の暴挙だったからだ。

そんな訳で、長い年月を経て、今回初めて観賞させてもらった。率直な感想は、世間で言われるほど、ダメじゃない。いや、今観ると結構楽しいのでは、といったところだ。

勿論、万人向けでないことは言わずもがなであり、評点もそれを踏まえたものだが、<今更レビュー>で振り返りたい。

まずは残念だった点から

ブラック・ジャック(以下BJ)が主役ではなく狂言回しになっている点は、原作同様であり、正しいアプローチだ。だが、本作は、元ネタの「春一番」という一話だけで映画化する企画に無理があった。

コミックの映画化は、何巻にもわたる長い話を簡潔にまとめて仕上げるのが基本スタイルだと思う。『ブラック・ジャック』一話完結型だから、短編小説の映画化のように、複数の挿話を集約しないと、物語の水増し感がきつい。

そもそも「春一番」は、BJの行きつけの一杯飲み屋の大将の娘が、角膜移植した後に見る幻影の男に淡い恋をする話だ。手術代も1か月の飲み代だけだし、幻影の男を退治したあとにBJがひそかに身を引く、ちょっと物足りなさの残る、こぢんまりとした話だからいいのだ

今回再読したが、やはりマンガとして無駄がない。このぜい肉のない原作を、お嬢様学校のテニス部や良家の子息令嬢などを賑やかしで大勢登場させ、原作エピソードの淡く繊細な雰囲気を台無しにしたから、手塚先生は激怒したのだと思う。

手塚治虫の出演は実現しなかったそうだが、『金田一耕助の冒険』の時の横溝正史を出演させて「私はこの映画だけには出たくなかった」と言わせるような演出は、さすがに実現困難だったようだ。

ピノコを実写でやるのは難しい。大人のBJならまだしも、彼女の独特の言い回しやアッチョンブリケを自然に言わせるのは、アニメでも難しい。ピノコの台詞は、マンガの吹き出しだから違和感なく受け容れられるのだ。

千葉真一の友情出演も、ふざけすぎではないだろうか。

さて、それでは良かった点を

まず第一に、手塚治虫を愛する大林宣彦が、手塚ワールドをそのまま実写版でやってのけようとしたその姿勢が素晴らしい。あんなに原作に風貌を近づけたBJとピノコが登場するとは。

人により感じ方は異なるだろうが、宍戸錠BJは本物に見えたし、カッコよかった。健康的魅力で売る加山雄三もBJを演じているが、ダークな魅力の<エースの錠>の方がBJに似合うだろう。チッチッチのポーズもやってくれていたし。

そもそも、手塚マンガお馴染みのキャラ、オムカエデゴンスアセチレンランプ等々が実写でそのまんまの姿で登場するなんて。

ついにはヒョータンツギまで重要な場面でお目見えするとは、これは驚きだ。手塚治虫によれば、ヒョータンツギは表現が過剰になると現れる、妹の戒めなのだそうだ。

ストーリー展開については、原作から見て難点があったのは前述の通りだが、映画的な盛り上がり要素を注入してきちんとサスペンス仕立てにしているのは、すばらしい。ここはジェームス三木の功績か。

『HOUSE』『金田一耕助の冒険』が途中からストーリーから関心が離れてしまったのに対して、本作はきちんと最後まで話を引っ張っている。

片平なぎさ志穂美悦子の華やいだ使い方も監督らしい(脱がせ交渉は失敗したようだが)。主演よりも共演女優の健康的な魅力に目が行ってしまい、『HOUSE』神保美喜を思い出す。

幻の男は当然ながら峰岸徹が演じ、更には全編にピアノ演奏が絡んでくるとなれば、もはや大林宣彦ワールド全開である。

BJがなぜかランボルギーニ・ミウラに乗っているのも、監督らしいアレンジだ。手術代の代わりに、患者からまきあげたのだろうか。

大林監督のインタビュー

大林監督はDVDの収録インタビューで、こんなことを語っていた。

「春一番」はあまり映画向きな話ではない。私が題材を決めて良ければ、ピノコで撮る。彼女は奇形腫からBJが作り上げたピノキオのような存在で幼児でありながら18歳の女性。

BJもピノコも、精神的には惹かれ合うが、肉体的には人と結ばれることのできない身体なのだ。私はこの二人の愛を映画にしたい(記憶違いがあるかもしれないが、概ねこんな内容)。

これはまた、手塚先生が存命だったら怒られるかもしれないが、さすが大林監督の着眼点は独創的だ。その映画も、観てみたかった。

以上、お読みいただきありがとうございました。原作もぜひ。「春一番」は13巻収録です。