『風の歌が聴きたい』 今更レビュー:聴けではなく、聴きたい

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『風の歌が聴きたい』

大林宣彦監督追悼。聴覚障害のある男女二人の出会いから結婚・出産まで。二人の会話は全て手話で進む。雨宮良と中江有里が、中学生から結婚後までを演じきるところも凄い。常連組は大勢出るが大林的な演出は控えめ。

公開:1998 年  時間:161分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:    大林宣彦

キャスト
高森昌宏:  天宮良  
高森奈美子: 中江有里

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

あらすじ

聴覚障碍でありながら過酷な鉄人レース・トライアスロンに挑む実在の夫婦をモデルに描いた涙と感動の物語。

傍目には他の若者と何ら変わりなく見える昌宏(天宮良)だが、彼の耳は三歳のときに罹った風邪が元で聞こえなくなっていた。

文通を通じて知り合った奈美子(中江有里)も同様に音のない世界の住人だった。

二人はやがて結婚する。そして共に過酷なトライアスロンへの挑戦を始める。そんなある日、奈美子は妊娠するが、生まれてくる子どもも聞こえないのではと不安になる。

今更レビュー(ネタバレあり)

大林宣彦監督追悼の思いから、数少ない未見の作品を鑑賞しようの企画。不勉強で存在すら知らなかった作品なのだが、聴覚障害のある男女二人の出会いから結婚・出産までを描いている。

村上春樹原作・大森一樹監督の『風の歌を聴け』と混同しそうだが、<聴きたい>というところに、深い意味があったとは。

天宮良中江有里の二人が、中学生から結婚後までを演じきるところも凄いが、会話が全て手話というおそろしく高そうなハードルを乗り越えているところに脱帽する。

周囲の助演俳優陣も負けじとみんな手話の使い手であるところも恐れ入る。

天宮良はタップダンサーの印象が強かったが、こんなに守備範囲が広いとは驚いた。中江有里も大林組の一員という認識はあったが、中学生から妊婦まで無難にこなしてしまう女優魂に感服する。

何でも、当初は尾美としのりと石田ひかりの、大林組常連の二人を主演に考えていたが、諸般の事情で、この配役に落ち着いたそうだ。

結果的に、ここまでの熱演を見せられると、この二人はベストなカップリングだったと思える。

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映画は、まじめに二人の出会いからの恋愛を追いかけていくもので、聴覚障がいゆえの苦難はあるものの、奇をてらう部分は少ない。

演出についても、いつもの大林監督カラー全開の個性的な仕掛けは極めて少ない。

勝野洋入江若葉、林泰文、峰岸徹、高橋かおりほか常連が登場しなければ、大林監督作品だと気づかないほどだ。

後半でトライアスロン要素が入ってくるものの、ちょっと頼りないお調子者の昌宏と、それを支えるしっかり者の奈美子が、さほどの危機もなくゴールインする流れなので、160分の長さはやや冗長だったと感じた。

レースシーンをカットする訳にいかなければ(撮影は今関あきよし)、結婚披露宴くらいは短縮してもよかったのではと、勝手に思う。

手話には字幕がつき、同時に主演の二人はたどたどしいながらも声を出してくれるので、邦画というよりは、アジア映画を観ているような錯覚に陥る。

全編手話、全編字幕というのは、時代の先取りといってよいのではないか。

「海をみていると、岩や崖にあたって砕ける波の音を感じ、それがオーケストラのように聞こえてくる」
という昌宏には、健常者以上に聞こえる音があるのだろう。

「夢が叶うなら、お母さんとお父さんの声を一度でも聴きたかった」
という奈美子の台詞には胸を打たれた。

耳が聴こえないからこそ二人が出会えたことに、ともに喜びを感じていることはとても素敵だ。

この映画に力を与えられたひとも多いと思う。今回は、大林演出は控えめが正解。さすが監督。