『HOUSE』今更レビュー|生首っ、生首っ、生首よ! え、早口ことば?

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『HOUSE』

大林宣彦監督の劇場用映画第一弾。伝説はここから始まった。実験的精神と遊び心に溢れる笑えるホラー。苦手な人は見向きもしないだろうが、好きな人にはたまらない。いいのだ、七人の娘達。万人向けの芸術などない。

公開:1977 年  時間:88分  
製作国:日本
  

スタッフ
監督:    大林宣彦

キャスト
オシャレ:  池上季実子
ファンタ:  大場久美子
ガリ:    松原愛
クンフー:  神保美喜
メロディー: 田中エリ子
スウィート: 宮子昌代
マック:   佐藤美恵子

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

あらすじ

東京郊外のお嬢様学校に通うオシャレ(池上季実子)は、親友のファンタ(大場久美子)とともに所属する演劇部のエースとして「化け猫伝説」の練習に励む。

ある日、オシャレは突然帰国した父から再婚相手(鰐淵春子)を紹介されショックを受ける。

夏休みに父や再婚相手と軽井沢に行きたくない彼女は、演劇部の合宿先の旅館が一時休業になったことから、代わりの合宿先に長年会っていなかった羽臼のおばちゃま(南田洋子)の家を提案する。

オシャレとその仲間達は羽臼屋敷に向かうが、顧問の東郷先生(尾崎紀世彦)が出発前に事故で遅れてしまい、部員だけで行くことになる。七人はおばちゃまに歓迎されるが、その後惨劇が降り掛かる。

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備忘録(ネタバレなし)

ふざけている訳ではない

大林宣彦監督が初めて手掛けた劇場用映画であるが、当時から既に実験的精神にあふれた映像づくりに徹していることに敬意を表する。

ストーリー的なものは一応あるが、一言でいえば、仲の良い女子高生七人が合宿で訪れた叔母の家で、みんな家屋敷に襲われて食われてしまうホラー。

閉ざされた空間で一人ずつ襲われていくという点では、『エイリアン』『遊星からの物体X』と同じカテゴリーかもしれないが、怖がらせるつもりは更々ない。コメディタッチのホラーである。

マットペインティングやコマ撮り、二重露光、合成映像等、手あたり次第に採り入れている映像には時間も金もかかっているのだろう。よく言えば、遊び心に満ちた、悪く言えば、ふざけている映画である。

HOUSE (1977) Trailer - The Criterion Collection

併映だった山口百恵『泥だらけの純情』もそうであるように脚本重視の映画が当然の時代において、この作品を劇場で公開するのは、東宝の大英断だったろう。併映だから冒険できたのかもしれないが。

今でも変わらないと思うが、当時の賛否両論は容易に想像できる。

ふざけた映画に拒絶反応を示す観客も入れば、自主映画の延長線上にある作品が、大スクリーンで上映されていることに、感銘と親近感を覚える若者も多かったのではないだろうか。

HOUSE(プレビュー)

ああ、ハウスガールズの面々

オシャレ池上季実子ファンタ大場久美子クンフー神保美喜の三名は、当時名前も売れているし、主演のオシャレを中心に出番も多い。ガリ松原愛も有名か。

彼女たちの健康的な魅力を全面に引きだしているのは監督の手腕だと思うが、他のメンバーも含め、七人のハウスガールズ全員を、きちんとキャラを立てて映画にしているところにも感心した。

はじめのメンバー紹介で全員のニックネームと顔が覚えられるか心配したが、自分の旅行カバンに大きく名前を入れている親切さがありがたい。

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メンバーそれぞれ異なる死に様をここに書いても無粋なので割愛するが、この七人のほか、羽臼のおばちゃまの妙に不気味な南田洋子や、美しすぎて逆に怖い継母の鰐淵晴子など、女の戦いが中心の映画である、

男性陣は、珍しく三枚目役の尾崎紀世彦はじめ、みんな雑な扱いだ。

音楽に関しては、劇中にも登場する、当時まだ無名だったゴダイゴ、さすがに英語の歌がうまい。

そしてスイカ売りでも登場する小林亜星の曲が、繰り返し繰り返し流されるので、耳から離れなくなる。大林監督同様、CM慣れしている人だけはある。

大林宣彦監督の足跡

大林監督は幼少期に劇場用映画を観て憧れたのではなく、自分の家にあった35ミリのフィルムや8ミリカメラで遊ぶうちに、映像の魅力に憑りつかれたアマチュアだという。

だから、監督の作風は誰にも似ていないのだろう。大林映画という、ひとつのカテゴリーのようだ。

それにしても、大林宣彦監督というひとは、最後の作品に至るまで、常に新しいことに挑戦する精神を忘れない一方で、頑なに守るべきものは守っていく。

「A Movie」で始まる導入部分や、斬新かつ目まぐるしいカット割りや特撮、また反戦メッセージもすでに織り込まれていた。南田洋子の婚約者(三浦友和)は、赤紙で召集されたまま戻らぬ人となるのだ。

若手女優をはつらつと美しくカメラに収めるのも、監督の才能だろう。本作で早くも多分に発揮されていた、脱がしのテクニックが、ここ何年かの作品では若干ごまかし気味になってしまったのが、残念ではある。