『We Live in Time この時を生きて』考察とネタバレ|もう少しウェットでも良くない?

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『We Live in Time この時を生きて』
We Live in Time

フローレンス・ピューとアンドリュー・ガーフィールドで贈る、明るく元気な難病もの恋愛映画。

公開:2025年 時間:108分 
製作国:イギリス

スタッフ 
監督:        ジョン・クローリー


キャスト
アルムート:    フローレンス・ピュー
トビアス: アンドリュー・ガーフィールド
エラ:        グレース・デラニー
ジェイド:    リー・ブライスウェイト
スカイ:       イーファ・ハインズ
サイモン:      アダム・ジェームズ

勝手に評点:3.5
 (一見の価値はあり)

(C)2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

あらすじ

新進気鋭のシェフであるアルムート(フローレンス・ピュー)と、離婚して失意の底にいたトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)は、運命的な出会いを果たし恋に落ちる。

自由奔放なアルムートと慎重派のトビアスは幾度もの危機を乗り越えながら、やがて一緒に暮らしはじめ、娘が生まれ、家族としての絆を深めていく。

そんなある日、自分の余命がわずかであることを知ったアルムートは、トビアスに驚きの決意を告げる。

レビュー(まずはネタバレなし)

『ブルックリン』ジョン・クローリー監督によるラブストーリー。「A24が北米配給権を獲得」というのが売り文句になるのも妙だが、フローレンス・ピューA24だからといって『ミッドサマー』路線を期待してはいけない。

目下売り出し中の実力派シェフであるアルムート(フローレンス・ピュー)と、シリアルの会社に勤めるバツイチ男性のトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)

運命的な出会いのあとで二人は惹かれ合い、やがて娘エラ(グレース・デラニー)が生まれる。

ここまでの道のりも平坦ではないのだが、それはさておき、アルム―トは病気にかかる。娘を妊娠する前に一旦は寛解したはずの子宮がんが再発したのだ。化学療法で小さくしてから手術をするという選択肢に希望を託す。

(C)2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

いわゆる<難病もの>ではあるが、見慣れた映画とはやや勝手が違う。

闘病するアルムートがかなりポジティブで弱気になることなく、「治療に耐えるだけの陰気な1年より、最高に楽しくて前向きな6カ月を過ごすのよ」とトビアスに宣言。そして、実際、そういう彼女の生き様を見せつけられる映画なのだ。

フローレンス・ピューにこの力強い女性の役は良く似合っている。アルムートが終始陰気に泣いている映画だったら、やりきれない作品だったろう。

邦画では毎年欠かさず登場する、クサい芝居で泣かせる<難病もの>映画を私は苦手としているのだが、本作はカラッと明るい<難病もの>映画。そこはいい。

だが、本作は、泣けそうで泣けない。アルムートが強すぎるのだ彼女は最後まで、自分らしさを曲げずに、弱さを見せずに生きていく。

彼女にもう少し弱さがあり、見守る善人キャラのトビアスにも牽引力があれば、もっと感動を呼ぶ映画になった気がする。

主演のフローレンス・ピューアンドリュー・ガーフィールドはうまいキャスティングだ。

どんな逆境にも負けず、人生を切り開き、気丈で言葉も汚い現代風の女性アルムートに、『ファイティング・ファミリー』から『サンダーボルツ*』まで、アクションもお手のもののフローレンス・ピューは良く似合う。

英国を代表してキッチンスタジアム(©『料理の鉄人』)に入り料理で対決するフローレンス・ピューは、そのベリーショートなヘアスタイルと相俟って、総合格闘家のよう。まあ、病人には見えないが…。

(C)2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

相手が『ブラックウィドウ』の妹とくれば、一方のトビアス『アメイジング・スパイダーマン』アンドリュー・ガーフィールドだ。ジョン・クローリー監督作品では『BOY A』に主演。

トビアスはアルムートと対照的で、温厚篤実な草食系男性。『Tick, tick… BOOM! 』で見せたようなハイテンションは封印し、ただただ優しくアルムートを包容する繊細なトビアスを、アンドリュー・ガーフィールドが好演。

映画は二人の出会いから交際開始、一旦病気が寛解してからの妊活、出産、更に再発後の闘病生活と、いくつかの時制を、時間軸をシャッフルして見せていく。

アルムートのお腹が妊娠によって膨らんでいたり、化学療法のために長かった髪を短髪にしたりと、見た目に大きな変化があるので時制に混乱することはあまりない。

ただ、このシャッフル編集は、そのまま時系列で見たら単純すぎる話を勿体つけて見せただけという気もする。時制に気を取られると、感動しにくくなるという弊害もあるんだよなあ。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

さて、アルムートは残された時間を輝かせるために、何を成し遂げようとしたか、驚くべき決意が明かされる。

料理人としては憧れの舞台である、世界的な料理コンテスト、<ボキューズ・ドール>の出場を目指すことにするのだ、それもトビアスには内緒で。

いや、私が本作にイマイチ感動できなかったのは、アルムートが強すぎるからというよりは、彼女の生き方が理解できなかったからかもしれない。

(C)2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

彼女が望んだ「最高に楽しくて前向きな6カ月」は結局、料理人として自分の爪痕を残すために<ボキューズ・ドール>を目指しての特訓に費やされてしまった。

助手のジェイド(リー・ブライスウェイト)とともに英国代表の座を勝ち取り本戦出場するのはいいが、コンテストの日はトビアスが準備していた二人の結婚披露宴の日と重なっており、彼は文句も言わず予定を断念する。

しかも、コンテストでアルムートは料理を仕上げて満足し、勝敗結果も見ずに夫と娘を連れて会場を飛び出す。娘にママのカッコいいところを見せられて満足したのかな。

(C)2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

自分がトビアスだったら、前向きな6カ月より1年の治療に専念してほしいと思うだろう。だが、ここで本人の意思を尊重するのは分かる。でも、そこで料理に打ち込むのはどうなのか。家族よりも名声が欲しかったのか。

パートナーとしては寂しいし、娘にしてみれば、ママが特訓に明け暮れた貴重な時間を、一緒に過ごしてくれた方が記憶に残ったはずだ。

アルムートが活動的で力強く描かれている分、トビアスは涙ぐんでいるだけの物分かりの良い男に収まってしまい、食品会社での仕事もろくに描かれない。彼が内助の功で子供の面倒をみているのは、多様性の観点かね。

アルムートがかつて同性愛者だという設定も、なぜ必要だったのかが分からない。子どもは欲しいし、「余命は異性愛ヘテロを貫く」と言わせることに意味があったか。

(C)2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

ホテルからコンビニに出かけたトビアスが、道路でクルマに轢かれ大けがをし、その運転者がアルムートだったという運命的な出会いは笑えるが、この場面だけがコントのようで作品全体から浮いている。

感動的だったのは、アルムートが既に破水しているのに病院に行く途中で渋滞に巻き込まれ、ガソリンスタンドのトイレで出産する羽目になるという驚愕のシーン。

突然の珍客の助産をすることになるインド系の男子店員と女店主がいい味を出してくれる。こうして娘エラは無事誕生。でも、そのエラが成長し、母の病気のことを知るシーンも省略され、ラストの別れの場面もない。

(C)2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

残念だったのは、アルムートがあまり実力派の料理人に見えなかったこと。だって、自宅のキッチンで腕を振るうのが結局卵料理ばっかりで、プロには見えず。ラストに繋げる伏線としても弱い。

調理する音も温かみも感じさせず、『ポトフ 美食家と料理人』(トラン・アン・ユン監督)と違い、食べたくなる料理が一つも出てこない。コンテスト出場の料理人が、あんなにゲロ吐きまくってたら、ちょっと興ざめだ。

また、アルム―トがシェフ以前にはアイススケートの選手だったというのも、中途半端な設定だ。

彼女が終盤にスケートリンクに行きトビアスと娘の前で滑るシーンは、病状が厳しくても、ただの直線滑走だけではさすがに物足りない。アルムートなら、成功しても尻もちついてもいいから、華麗な技にトライしたはずだ。

「もっと取り乱していいのよ」

感情を表に出さない二人に、診断結果を告げた担当の女医がそう告げる。これは映画全体にあてはまる台詞じゃないか?

やせ我慢を重ねたすえに、どこかで弱さを見せて、泣き崩れて欲しかった。アルムートもトビアスも、まして娘のエラも号泣しないから、こちらも泣くに泣けないままエンディングを迎えてしまった。