北野武監督の代名詞ともいえるバイオレンス三部作、『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』『アウトレイジ 最終章』を一気通貫レビュー。
『アウトレイジ』(2010)
『アウトレイジ ビヨンド』(2012)
『アウトレイジ 最終章』(2017)
『アウトレイジ』
Outrage
公開:2010年 時間:109分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 北野武 キャスト <大友組> 組長・大友: ビートたけし 若頭・水野: 椎名桔平 石原: 加瀬亮 安倍: 森永健司 上田: 三浦誠己 岡崎: 坂田聡 江本: 柄本時生 <山王会> 会長・関内: 北村総一朗 若頭・加藤: 三浦友和 <池元組> 組長・池元: 國村隼 若頭・小沢: 杉本哲太 <村瀬組> 組長・村瀬: 石橋蓮司 若頭・木村: 中野英雄 飯塚: 塚本高史 佐山: 芹沢礼多 <その他> 片岡刑事: 小日向文世 山本刑事: 貴山侑哉 グバナン共和国在日大使: ハーシェル・ペッパース 大友の女: 板谷由夏
勝手に評点:
(オススメ!)
あらすじ
関東一円を仕切る巨大暴力団組織・山王会の若頭である加藤(三浦友和)は、直参である池元組の組長(國村隼)と村瀬組の蜜月を怪しみ、村瀬(石橋蓮司)をしめ上げるよう命令する。
焦った池元は、自分の配下である大友組の組長(ビートたけし)に、その役目を押しつける。しかし、ただの後始末と思われたその仕事が、実は熾烈な大下克上劇の始まりだったとはまだ誰も気づいていなかった。
今更レビュー(ネタバレあり)
グレードアップして原点回帰
さて、北野武監督作品を公開順にレビューし続けてきて、ようやく『アウトレイジ』にたどり着いた。
本作公開時にはどこまで構想があったのか知らないが、ここから三部作となる。シリーズものが撮られるのは北野作品では初めてのことだ。
「全員悪人」の「下剋上、生き残りゲーム」。何とも分かり易いキャッチコピーだ。暴力団の内紛劇を過激かつクールに描きまくる。
◇
北野監督のフィルモグラフィとしては『TAKESHIS‘』、『監督・ばんざい!』、『アキレスと亀』とモヤモヤする作品が続いており、ここにきてのバイオレンス原点回帰には小躍りしたくなる。
それも、同じバイオレンス路線でも、過去作と重厚感が大きく異なる。
冒頭の山王会傘下の幹部たちが集まる宴席のシーンの迫力。組長たちが昼食をとっている間、何台もの黒塗りのベンツやクラウン等業界御用達の高級車とそこで親分の戻るまで待機している子分たち。
そこにたけしも待っているわけだが、このカットひとつとっても、実に金がかかっている。つい松田優作の『ブラックレイン』でヤクザの親分たちが集うシーンを思い出してしまった。
そして、あの時も印象的な役だった國村隼が、本作では池元組の組長を演じる。思えば、本作のヤクザ同士のシーソーゲームめいた抗争は、この男の軽率な行動から始まったのだ。
全員悪人の相関図
本作に登場する暴力団組織の最上位には山王会(関内会長:北村総一朗、若頭・加藤:三浦友和)が君臨する。
その傘下組織の池元組(池元組長:國村隼、若頭・小沢:杉本哲太)が、最近、グループ外の村瀬組(村瀬組長:石橋蓮司、若頭・木村:中野英雄)と繋がっていることで、関内会長に目を付けられる。
村瀬は山王会の盃を貰おうと池元に金を渡したり便宜を図ったりしていたのだが、その池元は会長の顔色を窺い、傘下組織の大友組(大友組長:ビートたけし、若頭・水野:椎名桔平)に喧嘩を仕掛けさせる。
ちょっとしたカムフラージュのはずが、互いに反撃を繰り返すうちにエスカレートし、やがて全組織を巻き込む大喧嘩に拡大する。そんな物語だ。
ビートたけしの演じる大友の立ち位置は、これまでの北野作品同様、上からの不条理な命令に従って無茶をさせられる羽目になる直参の子分だ。今回も多分に同情の余地がある。スタイリッシュで愚かで、過剰に暴力的なヤクザ稼業の生き様もおなじみの描き方。
だがいつもと勝手が違うのは、これまで北野作品、しかもバイオレンスといえばかなりの高確率で登場してきた大杉漣や寺島進、芦川誠、或いは軍団の連中が、本作では顔を見せない。
今回は笑い要素はごく控えめ
また、シリアスなヤクザの抗争の合間に、コミックリリーフ的な笑いのシーンや砂浜で野球や相撲に興じるようなカットも、本作では殆ど見かけない。
笑いの要素が皆無とは言わないが、歯医者のドリルで口腔内を痛めつけられた石橋蓮司や、たけしには頭の上がらないマル暴刑事の小日向文世、違法カジノを提供するグバナン共和国大使(ハーシェル・ペッパース)など、極めて限定的に思える。
このシリアス度合いの匙加減はうまい。過去作とは違い、これだけの大物俳優を集めたヤクザの争いは、基本的には笑いの要素など少なくていい。
◇
キャッチバーで高額な代金を支払えと凄む村瀬組・飯塚(塚本高史)と、一般人の客のフリで組事務所まで飯塚を誘い出す大友組・岡崎(坂田聡)。
やってる当事者は真剣そのものの喧嘩だからこそ、観ている方はたまらなく面白い。とばっちりで顔に深い傷を負う若頭・木村(中野英雄)もお気の毒なのがいい。
おそるべき生存率の低さ
本作は驚いたことに、これだけ大勢のヤクザ者が登場していながら、最後に生き残っているのはほんの2~3名しかいないのだ(役名もないような組員は別だが)。
なんという生存確率の低さ。でも、どの俳優もみな、嬉々としてそれぞれの役を演じているように見える。
それぞれ組織内の上下関係はあっても、拳銃やマシンガン、刃物を持って相手に立ち向かい強さを見せつけるシーンと、その後に華々しく、或いは情けなく、みじめに殺されてしまうシーン。
大抵の出演者には、これらがセットで用意されており、役者冥利につきるのかもしれない。
本作でおいしい役だと私が思ったのは、お気の毒キャラ全開の中野英雄(仲野太賀の父にはニンベンがない)、そしてインテリヤクザが似合う金庫番の加瀬亮かな。死に様が悲惨でもカッコいい椎名桔平。
みんなが恐れる会長の北村総一朗は『踊る大捜査線』のスリーアミーゴスのお気楽署長のイメージしかなかったので、当時結構驚いた記憶がある。三浦友和はあまり活躍の場がないなと思っていたら、終盤で本領発揮。
そして、たけしは自作に主演すると最後に死んでしまうのが定番だが、本作もその例にならうのかどうかは、三部作を見てのお楽しみ。