『ステップ』 考察とネタバレ:重松原作ものの評価基準って、結局泣けるかどうかだよね

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『ステップ』 

妻を亡くしたシングルファーザーが保育園から小学校卒業まで娘と暮す10年。そこは重松清、泣けるか。山田孝之の頑張るパパのもとで成長していく娘。年齢ごとに演じる三人の子役たちが輝いている。

公開:2020 年  時間:118分  
製作国:日本

スタッフ
監督:    飯塚健
原作:    重松清『ステップ』

キャスト
武田健一:  山田孝之
武田美紀:  田中里念(9〜12歳)
       白鳥玉季(6〜8歳)
       中野翠咲(2歳)
ケロ先生:  伊藤沙莉
成瀬舞:   川栄李奈
斎藤奈々恵: 広末涼子
村松美千代: 余貴美子
村松明:   國村隼
上司:    岩松了


勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)2020映画「ステップ」製作委員会

あらすじ

結婚3年目、30歳という若さで妻に先立たれた健一(山田孝之)。妻の父母から一人娘の美紀を引き取ろうかと声をかけてもらったが、男手一つで育てることを決める。

妻と夢見た幸せな家庭を、きっと天国から見ていてくれる彼女と一緒に作っていきたいと心に誓い、前に進み始める。

娘の美紀の保育園から小学校卒業までの10年間、さまざまな壁にぶつかりながらも、亡き妻を思いながら、健一はゆっくりと歩みを進めていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

泣けるかどうかが全てではないが

山田孝之が初のシングルファーザー役に挑戦し、妻を亡くし娘と二人で人生を歩む10年間の足跡を描いた作品だ。なるほど、重松清らしい原作プロットだと思う。

のっけから恐縮だが、今回は割と辛口評価になってしまった。理由はある。独断と主観に溢れているが、私の重松清映像化作品の評価軸は、泣けるかどうかだ。今回は泣けそうで泣けなかった。

あいにく、本作の原作は未読なのだが、これまで相当数の重松作品は読了しているし、振り返ってみると、映画化作品は7~8割は観ている。

小説は高い確率で泣けるのだが、映像化作品は、泣ける場合と、演出がクサすぎてシラケる場合に分かれる。

例えば、『その日のまえに』という作品は、小説では泣けた。テレビドラマ(佐々木蔵之介、檀れい)も泣けたが、大林宣彦監督の映画(南原清隆、永作博美)ではさっぱりだった。きっと、大林監督は、泣かせるつもりなどなかったのだろう。

本作は、泣かせの演出が過剰なわけでもなく、むしろ原作に忠実に作っているように推察したが、私はその忠実さが逆に引っかかった。登場人物はみな語り過ぎだと思う。

映画でなければできない表現がもっとほしい。子役の表情や動き、八王子の自然を感じる風景でもいい。台詞に頼らず伝えられるものが、もっとあるはずだ。

失礼ながら、安直なテレビドラマのように、何かしながら片手間に観ても筋が追える映画になっているのが残念。

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出演者はみな好演、特に子役とあのひと

優れた点も多い。台詞の多さはともかく、演技という点では、主演の山田孝之も、後半から登場する広末涼子も、そして義父母の余貴美子國村隼も、みんなさすがの安定感である。

そして特筆すべきは、娘・美紀の保育園から小学校卒業までの10年をリレーで繋いだ三人の子役女優たち。

中野翠咲(2歳)、白鳥玉季(6〜8歳)、田中里念(9〜12歳)。幼少期の10年は、大人と違って一人の役者で演じ分けるわけにはいかないのだ。

白鳥玉季『mellow』でも抜群の存在感で認識していたが、今回は三人がそれぞれに自然で個性もあり、とても良かった。幼いながらも鋭い眼差しと生意気な物言いが憎たらしくも可愛い。

そして本作で一番光っていたのは、保育園のケロ先生(伊藤沙莉)ではないか。完全に他の出演者を凌駕していたと思う。

園庭でのカエルジャンプから、<何もしない抱っこ>の重要性を健一に説くところまで、一挙手一投足が見逃せない

彼女の出番がもっとあれば、涙腺崩壊してたかも。保育園シーンはケロ先生以外、他の園児も先生もほぼ背景扱いの独壇場だ。

(C)2020映画「ステップ」製作委員会

レビュー(ここからネタバレ)

若干ネタにからむ部分が入るかもしれませんので、未見の方はご留意願います。

流星ワゴンからステップワゴンへ

本作では、横浜に住むという健一の義父母は、親身になって父娘をいろいろと気遣ってくれる一方で、新潟に暮らす健一の両親は、顔すら出さない。

これはさすがに冷たいし、何か確執でもと疑ってみたが、後段で合点がいった。本作は義父母の役が重要だったのである。

詳しくは國村隼が映画の中で上手に語ってくれるのでここでは述べないが、タイトルが<義父母>に由来するとは思いもよらなかった。『流星ワゴン』の連想で、ホンダのステップワゴンから採ったのかと思っていた。

さて、私は勝手に泣けるかどうか前提で話を広げてしまったが、妻の死については多くを語らず、壁にマジックの赤線を残して妻が倒れた1年後、再出発からの物語になっている。

つまり、泣かせ目的の作品ではないのかもしれない。

泣けぬなら、泣くまで読もう重松清

だが、まあよい。私にとって、<重松作品とは泣くことと見つけたり>なのだから。その点では、父娘には前を向いて生きて行ってほしいけれども、妻のことも、もっとひきずって欲しいのだ。

生きていた頃の妻の姿が写真でしかないことが、残念だ。生前の動く妻の姿があれば、観る者の感情はもっとかき立てられるのに。

更には、病気で死線をさまよう義父が、あの世で娘と会ってきて健一の再婚を喜んでいたという話が出てきたり、はたまた健一と亡き妻が仏壇の前で交信できたり。

いや、原作どおりだったら飯塚健監督には申し訳ないが、せっかく10年目にして初めて亡き妻と夫が意思疎通できるのであれば、ここはもっと盛り上げましょうよ、と言いたい。

(C)2020映画「ステップ」製作委員会

健一に目をかけてくれる会社の上司の岩松了は、善人悪人の判別が難しいのだが、今回はいい人だったのでほっとした。ただ、昼食のたびにカメオ出演で出てくる中川大志は、ちょっと悪ノリしすぎ。

象徴的に何度も使われる京王線の跨線橋は、渡り終わるとすぐクルマも走る道路に出るので、美紀が父親と話し込んで飛び出さないか、心配になった(私だけか)。出会いがしらの交通事故にありがちなアングルなのだ。

父と娘の関係は、どの年齢においても、とても微笑ましくて安心して観ていられたのは嬉しい。

ただ、再婚の父を慮って、中学に入ったら義父母の家で暮らすと言い出す娘に対しては、もっとストレートにぶつかり合ってほしかった、それこそ『とんび』のように。息子と娘ではこうも違うものか。

最後に、落書きの壁に新しいお母さん(広末涼子)の似顔絵が増えていたのは、さりげなくて好感。

泣けるか目線で語ると、つい辛口になってしまったが、普通に家族ドラマとして観る分には楽しめる作品。原作を読めば、また違う発見があるかも。