『ほえる犬は噛まない』
플란다스의 개
ポン・ジュノ監督の栄光の軌跡はここから始まった。ペ・ドゥナの初々しさも印象的!
公開:2000年 時間:110分
製作国:韓国
スタッフ 監督・脚本: ポン・ジュノ 脚本: ソン・テウン ソン・ジホ キャスト パク・ヒョンナム: ペ・ドゥナ コ・ユンジュ: イ・ソンジェ ペ・ウンシル: キム・ホジョン ピョン警備員: ピョン・ヒボン 浮浪者: キム・レハ ユン・チャンミ: コ・スヒ ばあさん: キム・ジング
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
中流家庭の住むマンションに暮らすユンジュ(イ・ソンジェ)は、うだつの上がらない大学の非常勤講師で、出産間近の妻ウンシル(キム・ホジョン)に養われながら教授を目指している。
近頃マンションでは飼うことが禁止されているはずの犬の鳴き声が頻繁に響き、イラついていたユンジュは、たまたま見かけた犬を地下室に閉じ込めてしまう。
一方、マンションの管理事務所で働くヒョンナム(ペ・ドゥナ)は、団地に住む少女の愛犬がいなくなったことを知り、迷い犬のビラ貼りを手伝うことに。
今更レビュー(ネタバレあり)
愛犬家にはつらかろう
ポン・ジュノ監督の長編デビュー作。巨大なマンションで起きる連続小犬失踪事件をめぐる騒動を描いた異色コメディ。
愛犬家にはショックだろうが、犬がぞんざいに扱われる、というか殺されたことが暗示されるシーンもあり、冒頭に「安心してください、生きてますよ」という趣旨の、とにかく明るい安村っぽい前置きが入る。
伊坂幸太郎原作の『アヒルと鴨のコインロッカー』にも、この手の文言が入っていたのを思い出す。
◇
大学教授には出世したいものの世渡り下手でパッとしない教員のユンジュ(イ・ソンジェ)は、家でも妊婦の妻ウンシル(キム・ホジョン)にいつも虐げられている。
ペット禁止のマンションでうるさく騒ぐ犬をけしからんと、みつけた子犬を屋上から放り投げようとするが、人目が気になり地下室に閉じこめる。
本作は、ここから話が予想外の方向に転がっていくブラックなコメディ。マンション管理事務所に働く女性職員ヒョンナム(ペ・ドゥナ)や、隙あらば地下室で犬鍋を喰おうとする警備員(ピョン・ヒボン)などが入り混じって、話をこじれさせていく。
夫婦喧嘩は犬も食わない
タイトルの『ほえる犬は噛まない』は、「弱い犬ほどよくほえる」にどこか近い意味に思えるが、やはりことわざに由来している。とはいえ、これはあくまで邦題。韓国語の原題は『フランダースの犬』という意味らしい。
たしかに、ユンジュがこのテレビアニメのテーマ曲をカラオケで歌うシーンがあったし、エンディングでも大胆にアレンジされたパトラッシュ(犬の名です)の歌が流れる。
ポン・ジュノ監督としては、昔の人気アニメ番組にからめて印象付けたかったのだろうか。
デビュー作ということもあって、けしてシナリオがカチッとはまっている精緻な物語ではないし、コメディとしても笑いのポイントは分かりにくい。
映画としてのバランスも不可思議だ。例えば、警備員が犬を捕まえてはひっそりと地下室で鍋にして食おうと試みるのだが、いつも肝心のところで食べ損ねる。
コントとしては古典的なパターンだが、普通なら回避しそうな、犬を殺すところはありだったり、「ボイラー・キム」というボイラー修理の達人が死んでしまう怪異談を延々と語ったりと、妙にこの警備員の登場場面が多い。
通常ならば、警備員がらみのシーンはもっと割愛されそうだが、ポン・ジュノ監督はこの警備員役のピョン・ヒボンの他作品での演技に惚れこみ出演を強く望んだ経緯もあり、このような結果となったようだ。
だから、バランスは度外視しても、地下室のシーンにはどこか面白味があるのだ。
韓国の犬食文化は朝鮮半島でオリンピックが開催されるたびに議論を呼ぶが、まだまだ市民生活に根付いているのだなあと、本作公開時に思ったのを記憶している。日本の鯨食文化と同様、保護団体には叩かれているが。
黄色いパーカーのペ・ドゥナ
さて、公開当時、興行成績としては(特に自国では)冴えなかった本作であるが、正義感あふれる女子職員を演じたペ・ドゥナの存在は輝いている。
デビュー二作目の本作では、まだまだ演技というよりは、地でやっている感じが強いが、女優然としていない素朴さもあり、実に魅力的なのである。
ペ・ドゥナは本作後、『復讐者に憐れみを』(2002、パク・チャヌク監督)や、同じポン・ジュノ監督の『グエムル-漢江の怪物-』(2006)などヒット作に出演。
また、『リンダ リンダ リンダ』(2005、山下敦弘監督)や『空気人形』(2009、是枝裕和監督)など、日本映画界でも活躍し知名度もあがる。
だが、本作で黄色いパーカーのフードをかぶってマンションの廊下を走り回るペ・ドゥナには、他の作品にはない原石の輝きを見出すことができる。
赤シャツの大学教員イ・ソンジェ
黄色いパーカーのヒョンナム、青っぽい制服のマンション警備員に対抗するかのように、真っ赤なシャツとキャップを纏った大学教員のユンジュ(イ・ソンジェ)。まるでゴダールの『気狂いピエロ』のような三原色の組み合わせ。
このユンジュも根は真面目な学者タイプのひとなのだろうが、妊婦の鬼嫁の尻に敷かれ、クルミを100個割るまでは飲み会にも行かせてもらえず、同情の余地はある。だが、それが犬を投げたり、拉致したりと弱者への八つ当たりになっては言語道断。
普通この手のキャラは(主人公なら尚更)、終盤で痛い目に遭うか、或いは改心するかとなるのだが、本作ではヒョンナムに自白しようとするも未遂に終わり、最後は賄賂で教授に昇進できてしまう。
現実とはそういうものなのかもしれないが、モヤモヤ感の残るキャラなのだ。
処女作ならではの勢い
本作で観るべきは、ペ・ドゥナの魅力と、洗練されてはいないが、随所に垣間見られる、ハッとするようなポン・ジュノの演出の面白味。
・教授昇格の賄賂を忍ばせたケーキの箱から恵まれない母子に紙幣一枚だけ寄付するユンジュの良心
・トイレットペーパーを転がしてコンビニまでの距離を競う夫婦のマウントの取り合い
・犬の飼い主の老女が遺言で残した屋上の切り干し大根
・そして浮浪者から犬を救うために勇気を振り絞ったヒョンナムの背後に突如登場する、ビルの上で拳をあげる黄色パーカーの私設応援団(想像だけど)
犬の死からトラブルが始まり、クルマのサイドミラーを蹴り落とし、突如鼻血を出したり、立ちションさせてみたり。興味深いことに、ポン・ジュノ監督が何本かあとに撮った『母なる証明』(2009)と本作には妙な共通点が多い。
処女作には監督のすべてが詰まっているというが、本作に出てくる大技小技が、後続の作品にも利活用されているということなのかもしれない。