『コードネーム UNCLE』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー(アンクル) | シネフィリー

『コードネームUNCLE』今更レビュー|0011ナポレオンソロって知ってた?

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『コードネーム U.N.C.L.E.』 
The Man from U.N.C.L.E.

ガイ・リッチー監督がヘンリー・カヴィルとアーミー・ハマーを起用して、あの『0011 ナポレオンソロ』を復活!

公開:2015 年  時間:116分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:       ガイ・リッチー

キャスト
ナポレオン・ソロ:  ヘンリー・カヴィル
イリヤ・クリヤキン:  アーミー・ハマー
ギャビー・テラー:
        アリシア・ヴィキャンデル
ヴィクトリア・ヴィンチグエラ:
          エリザベス・デビッキ
アレグザンダー・ヴィンチグエラ: 
           ルカ・カルヴァーニ
サンダース:     ジャレッド・ハリス
アレキサンダー:    ヒュー・グラント
ルディ:    シルヴェスター・グロート
ウド・テラー:  クリスチャン・ベルケル

勝手に評点:3.0
    (一見の価値はあり)

(C)2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

あらすじ

東西冷戦下の1960年代前半。核兵器とその技術の拡散によって世界を滅ぼそうとする国際犯罪組織の存在がキャッチされ、その陰謀を阻止するべく手を組むことになったCIA工作員ナポレオン・ソロ(ヘンリー・カヴィル)とKGB工作員イリヤ・クリヤキン(アーミー・ハマー)

まさに敵同士、やり方も考え方も真逆のコンビが、組織に潜入する鍵を握るドイツ人科学者の娘ギャビー(アリシア・ヴィキャンデル)を守りながら、行方をくらませた科学者を探し出すため奔走する。

タイムリミットが迫る中、核爆弾大量生産技術流出の危機から世界を救えるか。

今更レビュー(ネタバレあり)

冷戦時代のスパイ呉越同舟

ガイ・リッチー監督による英国TVシリーズ『0011 ナポレオン・ソロ』の映画化作品。

ガイ・リッチー監督といえば、スタイリッシュなクライム・アクション系の群像劇が得意分野。本作はスパイ・アクションだが、随所に遊び心と洒落っ気が溢れ、オリジナル版と監督との相性の良さを感じさせる。

オープニングのタイトルバックで、東西冷戦下の時代背景をざっくり語ったあと、画面に途中で折れた赤い直線がひかれ、それがベルリンの壁になる。このクールな画像処理に、作品への期待感が増す。

対立する米ソのスパイによる変則的なバディ・ムービー。今ではドラマ『奥様は、取り扱い注意』西島秀俊綾瀬はるかが夫婦役で演じるまでにアレンジが膨らんで浸透しているが、『0011 ナポレオン・ソロ』が放映されていた1960年代当時は、斬新だったのだろう。

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ハン・ソロじゃないよ

当時はビートルズと並ぶ人気者だったという『0011 ナポレオン・ソロ』については、主役のCIA工作員をロバート・ヴォーンが演じていたことくらいしか知らず、まともに観たことはない。

なので、はじめは脇役だったKGB工作員イリヤ・クリヤキンが、女性に弱いソロを横目に冷静に任務をこなすのがカッコいいと注目され始め、演じていたデヴィッド・マッカラムは主役を食う人気となったことなど、まったく知らなかった。

本作の原題『The Man from U.N.C.L.E.』は、欧米圏ではオリジナルのTVシリーズも同名タイトルだったから、混乱はないし、懐かしむシニア層も取り込みやすい。ところが、日本では邦題の『コードネーム U.N.C.L.E.』では、どの層にもイメージが湧きにくい。

どうせ、60年代当時も007の人気に便乗したのだろうから、今回も『0011 ナポレオン・ソロ』にしておけば、オールド層にももっと刺さったのではないか。トム・クルーズ版『ミッション:インポッシブル』の邦題を『スパイ大作戦』にするほどの無謀な案ではないと思うけど。

黒髪がソロ、金髪がクリヤキン

ベルリンでのつかみは秀逸

さて本作、主演であるバディはCIA工作員ナポレオン・ソロ(ヘンリー・カヴィル)とKGB工作員イリヤ・クリヤキン(アーミー・ハマー)

核兵器の技術拡散を企む国際犯罪組織を阻止すべく、ミッションを与えられた二人が渋々手を組み、研究の鍵を握るドイツ人科学者の娘で自動車整備工のギャビー(アリシア・ヴィキャンデル)を保護しつつ、彼女の協力を得て敵に近づいていく。

冒頭、ものものしい検問所を偽装で通過してソロが東独に入り、初対面のギャビーにミッションの協力を求めに行く。

すぐにKGBと思しき連中に追われる羽目となり、夜のベルリンを小型車でカーチェイス。カット割りと編集の冴えで、小型車でも迫力は十分だ。

いかにもクラシックなスパイ映画のアクション。クルマが狭い路地を通過できなくなるくだりから、西側へ綱渡りで逃亡する展開まで飽きさせないが、彼らをただ一人執拗に追い詰めてくる、ターミネーターばりの不死身な殺人兵器が、やがてクリヤキンだと分かる。

バディとなる前の二人の対決、ありがちなパターンなれど、ここまでのつかみは秀逸。

(C)2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

そして後日、昼間の公園の公衆便所で上司と密談中のソロに、突如襲い掛かってくるクリヤキン。取っ組み合いの格闘のあと、二人は上司から、米ソ一時休戦で本ミッションを協力して遂行するよう命じられる。即席バディの誕生だ。

陸軍入隊後、数々の犯罪で逮捕されたソロは、優秀な能力を買われ、犯罪歴をもみ消す条件でCIAのために働くことになった過去がある。

一方のクリヤキンも、父親が組織の裏切り者として抹殺され、母も情婦になった陰惨な過去がある。二人は性格も思考もまるで正反対でいがみ合う仲だが、上からの命令で、ともに活動するようになる。

バディ・ムービーといえば刑事ものが多く、性格・思考が違うのは既定路線だが、年齢や人種、性別、風貌なども大きく違う組み合わせが一般的で、この二人のように高身長でマッチョな白人男性の例は珍しいかもしれない。

そこはオリジナルを踏襲か。キャラがかぶると、どっちかが死ぬことになりそうだが…。

キャスティングについて

ナポレオン・ソロヘンリー・カヴィル。彼は『マン・オブ・スティール』(2013)のスーパーマン抜擢以来、分厚い胸板の怖いひとイメージが強い。

その最たるものは『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018)の悪役だった。同作でもCIAスパイ役だったが、その前に本作でソロを演じていたのだ。

『フォールアウト』にも本作同様トイレで格闘シーンがあって、そこでのカヴィルは超クールなのだが、本作とは狙いが異なるので、比較にならないか。

私にとってヘンリー・カヴィルは笑わない俳優なのだが、今回は笑顔も多く、初めて彼の役に人間味を感じた気がする。

ちなみにガイ・リッチー監督の最大ヒット作といえば『シャーロック・ホームズ』だが、ヘンリー・カヴィル『エノーラ・ホームズの事件簿』(2020)でホームズを演じている。勿論笑わない役だけど。

相方のKGB工作員イリヤ・クリヤキンにはアーミー・ハマー。近年では『ナイル殺人事件』(2022)に、大富豪娘の婚約者という、本作と打って変わった軽薄な男の役で出演。『ローン・レンジャー』(2013)ではジョニー・デップとバディを組んでいた。

彼の出演作で印象に残るのは、クリント・イーストウッド監督の『J・エドガー』(2011)でフーヴァ―長官に愛された副長官役かな。同作ではFBI、こちらではKGBか。スパイ俳優はみな、複数組織を渡り歩いてエージェントをやるらしい。

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ミッションの中でクリヤキンの婚約者に扮装するギャビー、気の強い自動車整備工の美女をアリシア・ヴィキャンデルが演じる。

彼女を一躍有名にしたのは、本作前年の『エクス・マキナ』(2014)で演じたヒューマノイドのエヴァ役だろうが、演技力という意味では本作と同年の『リリーのすべて』(2015)の性別適合手術を受けた夫の妻役か。

本作ではスパイ二人を手玉に取って、ボンドではなくナポレオン・ガールとして活躍。

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そしてもう一人のナポ・ガールが、実質的に敵組織を牛耳るヴィクトリア・ヴィンチグエラ(エリザベス・デビッキ)だ。

クリストファー・ノーラン監督の『TENET』(2020)のように、ナチュラルに撮れば実に美しい女優なのに、彼女を濃いめメイクでキワモノ扱いで使う作品が多いのはなぜだろう。

本作もそうだ。191cmの身長が、普通に恋人役としては扱いづらいのか。185cmのヘンリー・カヴィルが立食パーティで対面して、見上げる女優はなかなかいない。

(C)2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED

意外なところで登場してきたのが、石油会社役員のアレキサンダーを演じるヒュー・グラント。カメオではなく、後半に向けて重要な役割を担う。

ヒュー・グラントは本作後、ガイ・リッチー監督の『ジェントルメン』(2020)でも探偵役で活躍するが、登場場面は少なくとも、本作のほうがカッコいい。

スパイ映画界にこのシリーズは必要!

本作は、元ネタの『0011 ナポレオン・ソロ』を観ていないので、そことの比較はできないが、肩肘はらずに楽しめるスパイ・アクションとしては、なかなか面白かったと思う。

シリアス路線ではなく、CIAの古いスパイ道具をKGBが笑うシーン(盗聴器とか、金網切断ツールとか)も楽しいし、立ったまま相手を失神させるKGBの秘儀もウケた。コメディタッチなのだが、ちゃんと歯止めが効いているところは好感。

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そこにガイ・リッチー監督お得意の、カット割りで魅せる技術や、左右で別々に進む画面展開、時系列をうまくいじくって見せる演出効果など、小技も決まってくる。

バディの間に信頼関係が芽生え始める演出も、ウェットじゃないところがいい。

クリヤキンが夜の海で敵からにげた挙句にボートごと炎上するのを、トラックで優雅にワイン飲みながら眺めるソロが、最後に救出に向かうシーン。その返礼で、敵に拉致され拷問されているソロを、クリヤキンが潜入して救出するシーン。いずれも、おふざけの匙加減が絶妙だ。

こういう、ふざけきっていない、ちゃんとストーリーとして成立しているスパイ・アクションは、意外と貴重な存在だ。『キングスマン』当初面白かったが、次第に度を越し始めた

演者を替えて何十年も続いている老舗のMI6エージェントや、年齢を重ねても過酷なアクションを精力的に続けるスター俳優の工作員シリーズとともに、本作にもぜひ続編を期待したい。