『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』
The Phoenician Scheme
ベニチオ・デル・トロ主演によるウェス・アンダーソン監督の新作は、謎の大富豪の冒険譚。
公開:2025年 時間:102分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ウェス・アンダーソン
キャスト
ザ・ザ・コルダ: ベニチオ・デル・トロ
リーズル: ミア・スレアプレトン
ビョルン: マイケル・セラ
ファルーク王子: リズ・アーメッド
リーランド: トム・ハンクス
レーガン: ブライアン・クランストン
マルセイユ・ボブ:マチュー・アマルリック
セルヒオ: リチャード・アイオアディ
マーティ: ジェフリー・ライト
ヒルダ・サスマン・コルダ:
スカーレット・ヨハンソン
ヌバル: ベネディクト・カンバーバッチ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
独立した複数の都市国家からなる架空の大独立国フェニキア。
6度の暗殺未遂を生き延びたヨーロッパの大富豪ザ・ザ・コルダ(ベニチオ・デル・トロ)は、フェニキア全域におよぶインフラを整備する大プロジェクト「フェニキア計画」を画策していた。
成功すれば、今後150年にわたり毎年ザ・ザに利益が入ってくる。しかし妨害により赤字が拡大し、30年かけて練り上げてきた計画が危機に陥ってしまう。
ザ・ザは資金調達のため、疎遠になっていた娘で後継人の修道女リーズル(ミア・スレアプレトン)とともに、フェニキア全土を横断する旅に出る。
レビュー(今回ほぼネタバレなし)
ウェス・アンダーソンすぎる風景
ウェス・アンダーソン監督の新作は、ベニチオ・デル・トロが演じるザ・ザ・コルダ(劇中ではジャ・ジャと発音していた)なる大富豪が、娘のリーズル(ミア・スレアプレトン)と資金調達の旅に出る話。
フェニキア計画というのは、ザ・ザが画策している大規模なインフラ整備計画で、実現すれば巨額の利益が入ってくるらしいが、その実現のためには、各地を回りスポンサーから資金をかき集めなければいけない。

疎遠になって修道女になっている娘リーズル、そして昆虫学者で家庭教師のビョルン(マイケル・セラ)を同行させ、三人の冒険旅行譚。
◇
一応それらしいプロットはあるものの、まじめにストーリーを追いかける話ではないことは、いつもと同じ。
そして今回も、シンメトリー全開やお洒落な色やタイル柄のウェス・アンダーソンすぎる風景をはじめ、いかにもお洒落でハイセンスな小道具だったり、一目で彼と分かる構図の映像だったりが全編に満載。
いつの頃からかウェス・アンダーソン監督の作品は、物語そっちのけで、彼ならではの映像美と、カメオ出演を含めた超豪華なキャストたちを堪能するのが、すっかり当たり前になってしまったように思う。
このショットを見よ
今回は更に驚いたことに、屋敷などに飾られている絵画に、ルノワールやマグリットなどの本物の美術品を使用しているらしい。これらの作品は、エンドロールで紹介される。撮影時にはスタジオに手袋をした美術の係員が常駐していたそうだ。
それ以外にも、ダンヒルのコーン・パイプ、カルティエのロザリオ、プラダのリュックサックなど、劇中で使用されるお洒落な小道具も、各ブランドとのコラボだという。何だか、ジェームズ・ボンドの時計やスーツみたいになってきたぞ。
そういえば、映画の冒頭も、ザ・ザの乗っている飛行機の爆破・墜落というウェス・アンダーソンらしからぬ007のアヴァンタイトルみたいな始まり方。
そこからのタイトルバックには、バスタブに浸かって優雅に食事をするザ・ザと、彼を取り巻いて世話をする看護師たちを天井から俯瞰で撮る面白い映像が使われる。
俯瞰ショットだけなら珍しくもないが、中央を広々と空けて、左にバスタブ、右上にトイレ、そしてビデでワインを冷やすというのが妙に気になる。
こうなると、もう監督の術中にはまったも同然で、9人もいる息子たちはろくに顔も出さずに添え物扱い、相続人として呼び戻したのは一人娘のリーズル。
フェニキア計画の詳細は細かく複数の靴箱の中に収納され、その整然と並べられている靴箱は、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ』の壁に貼られたポストイットや、『グランド・ブダペスト・ホテル』のケーキの箱を彷彿とさせる。
豪華キャストはいいけれど
ザ・ザ・コルダたちがまず向かった山脈鉄道トンネルではファルーク王子(リズ・アーメッド)、サクラメント連合のリーランド(トム・ハンクス)、レーガン(ブライアン・クランストン)とバスケ対決。

砂漠横断の運河ではマルセイユ・ボブ(マチュー・アマルリック)や海運王のマーティ(ジェフリー・ライト)と交渉。
ダムの建設を監督している、はとこのヒルダ・サスマン=コルダ(スカーレット・ヨハンソン)と再会したあとは、ザ・ザの異母兄弟にあたるヌバルおじさん(ベネディクト・カンバーバッチ)とついに対決。
こんな具合に出資者との交渉は進んでいき、いちいち交渉結果と負担割合が表示される。まあ、正直途中から、資金調達の交渉の行方などどうでもよくなってしまっていた。
ウェス・アンダーソン監督作品としては、私は『グランド・ブダペスト・ホテル』がイチオシで、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ』までは文句なしに楽しめたが、『アステロイド・シティ』あたりから、やや既視感が強まってきたように思う。
◇
そこにきての『ザ・ザ・コルザ』はどうか。
ベニチオ・デル・トロは文句なしの存在感だし、ケイト・ウィンスレットの実娘とは知らなかったミア・スリープルトンもキュートで、監督の作品に似合うキャラだと思ったが、作品全体のパワーは、ちょっと物足りなかったのではないか。

結局、フェニキア計画が何かというのも、煙に巻かれてしまっているので、我々はただ監督一流の、ちょっとニヤリとさせる笑いを楽しむしかないのだ。
もっとも、それこそが、ウェス・アンダーソン監督作品の楽しみ方なのかもしれないが。