『パブリック 図書館の奇跡』考察とネタバレ|シンシナティの図書館戦争

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『パブリック 図書館の奇跡』
 The Public

エミリオ・エステベスが監督・主演を務めた、公共図書館の静かなる民主主義の闘い

公開:2020 年  時間:119分  
製作国:アメリカ
 

スタッフ 
監督・脚本:    エミリオ・エステベス

キャスト
スチュアート・グッドソン: 
          エミリオ・エステベス
マイラ:        ジェナ・マローン
アンジェラ:     テイラー・シリング
エルネスト:    ジェイコブ・バルガス
アンダーソン:    ジェフリー・ライト
ジャクソン:
     マイケル・ケネス・ウィリアムズ
ビル・ラムステッド:
        アレック・ボールドウィン
デイヴィス検事:クリスチャン・スレーター
レベッカ・パークス:ガブリエル・ユニオン

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

(C)EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ポイント

  • 図書館に籠城とはいっても、そこに武装した犯罪者集団がいるわけではない。あくまで民主主義的な、人道支援的なデモンストレーションだったはずの出来事から、センセーショナルな展開をみせる。
  • エミリオ・エステベスやクリスチャン・スレーターといった懐かしの面々の活躍も嬉しい。図書館の守る、読む権利や知る権利とはちょっと異なるが、これもまた一つの図書館戦争。

あらすじ

オハイオ州シンシナティの公共図書館のワンフロアが約70人のホームレスたちに占拠された。記録的な大寒波の影響により、市の緊急シェルターがいっぱいで彼らの行き場がなくなってしまったのだ。

彼らの苦境を察した図書館員スチュアート(エミリオ・エステベス)は図書館の出入り口を封鎖するなどし、立てこもったホームレスたちと行動をともにする。

スチュアートにとってそれは、避難場所を求める平和的なデモのつもりだった。

しかし、政治的イメージアップをねらう検察官やメディアのセンセーショナルな報道により、スチュアートは心に問題を抱えた危険な容疑者に仕立てられてしまう。

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レビュー(まずはネタバレなし)

朝から盛況の公共図書館

ロサンゼルス・タイムズに寄稿したエッセイから着想を得たという、公共図書館を舞台にしたヒューマンドラマ。

監督・主演は『ボビー』(2006)のエミリオ・エステベス。昭和世代には、コッポラ監督『アウトサイダー』(1983)やジョン・ヒューズ監督の『ブレックファスト・クラブ』(1985)の青春スターの印象が強いはず。そういえば、『ブレックファスト・クラブ』の舞台も図書室だったっけ。

エミリオ・エステベスが今回演じるのは、シンシナティ公共図書館の職員。なかなか広くて立派な図書館で、なぜかロビーに博物館から預かったシロクマの剥製が飾ってあったりする。

この図書館、9時の開館を待ち長い行列ができるほどの盛況ぶりだが、入場した途端、みんなトイレにまず駆けつける。どういうことか。ここでは多くのホームレスたちが避難場所として一日を過ごしているのだ。

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折りしも季節は厳冬。寒い一夜を過ごした彼らが、朝からここで顔を洗いヒゲを剃り、読書やPCにアクセスし図書館で暖をとっては、閉館時間ギリギリまで時間をつぶす。

そういう連中の苦労を知る職員たちは、彼らを追い出すわけにもいかず、他の利用者に迷惑にならないように、共存できるよう配慮する。日々、何らかのトラブルはあるが、どうにか平和な日常が繰り返されている。

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図書館を開放してほしい

だが、ある日スチュアートは同僚の警備員エルネスト(ジェイコブ・バルガス)とともに、アンダーソン館長(ジェフリー・ライト)に呼び出される。数日前に体臭を理由に退館させたホームレスが、読書の権利を侵害されたと訴えをおこしたのだ。

他の利用者の権利はどうなのだいいたくなるが、郡検事のデイヴィス(クリスチャン・スレーター)はさっさと和解金を支払ってしまえという。デイヴィスは市長選を目前に控え、厄介事をさっさと片付けたいのだ。

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この辺から不穏な空気が漂い始める。そして大寒波が到来したある日、ホームレスのリーダー格、ジャクソン(マイケル・ケネス・ウィリアムズ)が図書館でスチュアートに依頼する。

「今夜はどこのシェルターも満員で、ここにいる連中は行き場所がない。凍死してしまわないよう、図書館を開放してほしい」

事情は分かるが、それは無理だよ、だってここは図書館だもの。そう言いたくなる気持ちは分かる。スチュアートは館長に相談するが、結果は変わらず。

The Public Trailer #1 (2019) | Movieclips Indie

だが、寒空のなか、懐に飛び込んだ鳥を追い出すのは忍びない。スチュアートは意を決し、約70名のホームレスとともに、図書館に籠城する。

それはスチュアートが人道的な見地から起こした行動だった。図書館がダメなら、どこか避難場所を用意してほしいという平和的なデモのはずだった。

キャスティングについて

だが、世間はそうは見なかった。法を破る者には厳罰をと強硬姿勢をとるデイヴィス検事がまたも登場。「またあの問題職員か、きっと精神異常者だろう」と決めつけにかかる。

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そして、失踪した麻薬中毒者の息子を探すのに忙しいビル・ラムステッド刑事(アレック・ボールドウィン)が交渉人として本件を担当。これで役者は揃った。

まきこまれた騒動で犯人に仕立てられそうな、ツキのないスチュアート。彼を70名のホームレスを脅迫し立て籠った犯人に仕立てたいデイヴィス。そして、強硬手段にでることなく、おそらくはスチュアートを懐柔していこうとするであろうラムステッド刑事。

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エミリオ・エステベスの出演作を観るのも久しぶりなのだが、本作の憎まれ役デイヴィスを演じるクリスチャン・スレーターも、同じくらい懐かしい。最後に観たのはジョン・ウー監督の『ウインドトーカーズ』(2002)だと思う。

ちなみに、この二人とエルネスト役のジェイコブ・バルガスは、エミリオ・エステベスが監督した『ボビー』(2006)でも共演。

また、ラムステッド刑事役のアレック・ボールドウィンは、『ミッション:インポッシブル』シリーズでCIA長官、一方アンダーソン図書館長役のジェフリー・ライトは、『007』シリーズでボンドと親友のCIAエージェントと、スパイ繋がりでもある。

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レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

シンシナティの図書館戦争

本作の途中から思い出してきたのが映画にもなった有川浩『図書館戦争』だ。架空の武装自衛組織「図書隊」が、不当な検閲から、知る自由や本を読む自由を守るために戦う物語。

図書隊員たちがその活動の拠り所としているのが、「図書館の自由に関する宣言」。私はあの作品で、宣言の存在を知った。自宅の近所にある、いつもお世話になっている公共図書館にも掲げられている。

図書館に勤めるライブラリアンたちには、このような矜持があるのだろう。この思想は、万国共通のように思えた。

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アンダーソン図書館長が、図書館占拠に対し武力行使にでようとするデイヴィスを相手に、「図書館は民主主義の最後の砦だ。そんな暴挙は許さない」と強気に出るところは、痺れる。

人々に知る権利、学ぶ権利を与える場所として、図書館にはただの公共施設にはない、特別な意味合いが備わっているのだろう。

スチュアートが電話取材に、偶然手元にあった書籍から引用したスタインベック『怒りの葡萄』。この不朽の名作も、米国で「図書館の権利宣言」が出されるきっかけとなった作品であり、あえてこの映画に取り入れたのかもしれない。

THE PUBLIC Official Trailer | In Theaters Everywhere April 5

ショーは終わりだ

本作は、デイヴィスがとても市長選には勝てそうにない傲慢キャラであることが序盤で判明するし、司書のマイラ(ジェナ・マローン)やアパートの管理人アンジェラ(テイラー・シリング)らが、スチュアートのよき理解者であることから、スチュアートの潔白が証明されるハッピーエンドは想像できる。

などと思っていたのだが、意外と話の進行は単純ではなかった。

視聴率のためなら手段を選ばないクソ女レポーターのレベッカ(ガブリエル・ユニオン)が、デイヴィス同様に状況を悪化させる。

また、図書館利用者のプライバシーを守ろうとするスチュアートの姿勢は、『図書館戦争』に通じるところがある高潔なものだが、ラムステッドの失踪息子を匿ったことで、味方になると思われた交渉人との関係もこじれる。

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全裸になって気持ちよく館内で歌い迷惑をかけるホームレス男性、節約のためにプレーンピザを買って自宅栽培のトマトとバジルを載せるスチュアート、「ショーは終わりだ」と体臭のひどいホームレスを退館させたエルネスト、そして文学大好き少女で係替えを要求する司書のマイラ。

ただのエピソードと思われるネタが、後半へのちょっとした伏線になっているのも、よく考えられている。

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スチュアートには軽微な前科が複数あり、それみたことか、精神疾患はないのかと色めき立つマスコミや警察陣営。だが、「スチュアートはきちんと断酒し、勤務にも真面目に取り組み、何より図書館での仕事が彼を立ち直らせたのだ」と、図書館長は毅然として答える。

図書館とはかくも懐が深く、温かい場所なのか。シンシナティの冬は恐ろしく寒そうだが、みんなが裸でバスに乗って連行されるシーンは、心温まるものに見えた。