『傷だらけの天使』『愚か者 傷だらけの天使』一気通貫レビュー

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『愚か者 傷だらけの天使』

公開:1998年 時間:91分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        阪本順治


キャスト
石井久:       真木蔵人
桝井勝:       鈴木一真
桝井ちか子:     大楠道代
桝井達雄:       大杉漣
マキ:        坂上みき
勘太郎:        山岡一
カナ子:       小林麻子
育子:       山村美智子

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

©吉本興業株式会社/株式会社セディックインターナショナル

あらすじ

喧嘩っ早さが災いしてアルバイトをクビになった久(真木蔵人)は、ある日行きつけのスーパーで万引常習犯の主婦・ちか子(大楠道代)と出会い、家出中の息子・勝(鈴木一真)を探す仕事を頼まれ引き受けてしまう。

それが運の尽き、やっと見つけだした勝は家にも帰らず妙につきまとってくる。からかわれ騙され、勝に引きずりまわされる久。遂に二人は警官の拳銃を奪って逃げる羽目に。

今更レビュー(ネタバレあり)

『傷だらけの天使』(1997)のコンビ、満(豊川悦司)(真木蔵人)が出会う前の前日譚という位置づけではあるが、出会いは最後にちょっとあるだけで、実質的には真木蔵人の映画である。

前作で二人が探したのは、小さな子供の母親だったが、今回、久が探すのは、家出中の息子・(鈴木一真)。とはいえ子供ではなく、久と同じ年恰好の青年。しかも久とは違う意味でヤバめな人物。

この勝を探しているはずが、いつの間にか「俺を探してるヤツってのは、あんたか」と向こうの方から近寄ってきて、しかもナイフを振り回す

久はこの勝を敬遠するが、なぜか勝からは好かれてしまい、いつのまにか危険な世界に引きずり込まれる。

映画は冒頭から、高層ビルの窓ガラス掃除をする久が同僚の勘太郎(山岡一)と屋上で殴り合いするシーンで始まり、アクションのキレがいい。

前作『傷だらけの天使』のレビューでは、弟分のキャラが水谷豊のそれとはだいぶかけ離れていると書いたが、けしてそれがダメな訳ではなく、むしろ兄貴分のトヨエツよりも魅力的にみえた。

だから、そんな真木蔵人の演じる久が仕事にあぶれてカネもなく、文句いいながら町の人にからんだり、職探ししたりする姿が十分堪能できるのはとても嬉しい。

リーゼントでキメて強がって見せるが、根はお人好しでちょっと間抜けな久。

彼がスーパーで出会うのが、焼肉のたればかり万引きする主婦のちか子(大楠道代)。ちか子がパートタイムで働いているのが懐かしき神田精養軒の工場。これ、かつて落合にあったやつだろうか。

©吉本興業株式会社/株式会社セディックインターナショナル

ちか子は暴力的な夫(大杉漣)のDVのストレス発散から万引きに走ってしまうのだが、そんな彼女と親しくなった久が、家出息子の勝を探す羽目になる。手掛かりはハーモニカと写真のみ。

本作以降、阪本順治監督作品には欠かせない存在となる大楠道代が、およそ現実味のない不思議な主婦を演じ、独特の雰囲気を作り出す。大杉漣真木蔵人の組み合わせも、北野武作品とはまた違う味わい。

そして、ハーモニカだけで人探しは絶望的と思われたら、案外簡単に向こうの方から現れた勝。鈴木一真という俳優は知らなかったが、精悍さという点では、真木蔵人に負けていない。

TOKYO FMDJマキ(坂上みき)による放送が目立つようにインサートされるので、何かあるのだろうと思ったが、電話リクエストで親しくなった久にマキが不倫相手への復讐を頼むことで、久は大きなトラブルをしょい込むことになる。

FM放送の女性DJというと、『横道世之介』J-WAVE伊藤歩みたいに、お洒落で洗練された喋りをドラマとうまく重ねるのが一般的。

その点、本作では坂上みきのDJは本業だけにサマになっているのだが、都会的な語りの放送と物語にまったく相関がないところが妙に面白かった。

前作の原田知世に相当するようなヒロインは、本作には見当たらない。坂上みき大楠道代ということになるのだろうか。

©吉本興業株式会社/株式会社セディックインターナショナル

物語は、なぜか久につきまとうようになった勝が、マキの依頼仕事で警官に捕まり、手錠をかけられた久を助けようとして、警官から銃を奪って、二人で逃走。新潟でロシア船に乗って逃げようと考える。

全体的に、やさぐれた若者の哀愁を感じさせるような、渋い画面づくりをしているのに、壁や地面に「バカ」と書いてあったり、喧嘩っ早い同僚にプロレスラーのようにポールからバク転させたりと、絶妙な笑いのバランス。

盗んだ拳銃を海上で持ち出し、「撃ってみようぜ」とけしかける勝。「俺はいいよ!」といやがる久に一発だけ撃たせて、残りを全て勝が撃つと、「なんで全部撃っちゃうんだよ!」

本人はまじめに喋ってるのに、会話の間が抜けているというパターンが、やはり面白いのだと思う。前作『傷だらけの天使』が、トヨエツの台詞が笑いを取りに行きすぎていた。こっちのバディの会話の方が痺れる。

鈴木一真と傷天の本家、ショーケンとの共演作品もありました!

クルマの車輪を回し、どうにか久の手錠を切ることに成功するが、勝が大怪我をしてしまう。それでも、母親のちか子に会わせようと勝を連れて久は新潟から池袋まで戻ってくるが、信号待ちの彼女から道路を隔て二人は逮捕される。

映画の最後は(豊川悦司)が颯爽と登場し、久のクルマのガラスを叩き割る。これは、序盤で久が暴れた内容の繰り返しとなっており、二人は似た者同士といえるのかもしれない。