『線は僕を描く』考察とネタバレ|白と黒のその間に無限の色が広がってる

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『線は、僕を描く』 

水墨画の世界はかくも奥深いものだとは。横浜流星と清原果耶の生み出す新境地。自分の線をさがせ。

公開:2022 年  時間:106分  
製作国:日本

スタッフ  
監督:    小泉徳宏 
原作:    砥上裕將             
      『線は、僕を描く』   
キャスト 
青山霜介:  横浜流星 
篠田千瑛:  清原果耶 
篠田湖山:  三浦友和 
西濱湖峰:  江口洋介 
古前巧:   細田佳央太 
川岸美嘉:  河合優実 
藤堂翠山:  富田靖子 
国枝豊:   矢島健一

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

あらすじ

大学生の青山霜介(横浜流星)はアルバイト先の絵画展設営現場で水墨画と運命的な出会いを果たす。

白と黒のみで表現された水墨画は霜介の前に色鮮やかに広がり、家族を不慮の事故で失ったことで深い喪失感を抱えていた彼の世界は一変する。

巨匠・篠田湖山(三浦友和)に声を掛けられて水墨画を学ぶことになった霜介は、初めての世界に戸惑いながらも魅了されていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

私の弟子になってみない?

2020年の本屋大賞第3位に選ばれた砥上裕將による同名原作を、『ちはやふる』小泉徳宏監督により映画化。横浜流星が演じる主人公の大学生が、水墨画の美しさに触れ、魅了されていく。

題材的には地味に思えたが、なんのなんの、実に奥深い。砥上裕將自身も水墨画家だという。原作は未読なのだが、俄然読みたくなった。(後日読んで、レビューの最後に感想を追記しました!)

映画は冒頭、大きな神社の境内に展示された椿の水墨画の前に佇み、落涙する主人公の若者・青山霜介(横浜流星)。彼は展示会搬入の手伝いで参加した大学生だったが、そこで出会った老人が大きな紙の上に揮毫する水墨画に感銘を受ける。

「私の弟子になってみない?」

その老人の正体は、水墨画界の巨匠・篠田湖山(三浦友和)だった。何の経験も関心もなかった水墨画の世界に、霜介は足を踏み入れ、その筆先から生み出す「線」のみで描かれる芸術に、次第に魅了されていく。

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

モノクロだが色鮮やかな世界

強引な導入部分ではあるが、この湖山先生が極太の筆を抱えて、何畳分もあるような大きな紙に渾身の力で描き出す水墨画の生命力にまず圧倒される。

何を描こうとするか分からない一本の曲線。そこから、今にも動き出しそうな躍動感のある絵が生み出される。

モノクロの映画が、時に総天然色のそれよりも色鮮やかに思えるように、本作の水墨画もまた、色とりどりの絵画よりもはるかに雄弁である。霜介と同じように、私もまた湖山先生の絵に鳥肌がたつほどの感銘を受けた。

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

いきなり巨匠の内弟子というのも抵抗があり、霜介は絵画教室の生徒として教えを受ける。湖山先生の大きな屋敷には、食事の世話もする一番弟子の西濱湖峰(江口洋介)が、何かと霜介を気にかけてくれる。

そして、屋敷には湖山の孫娘で水墨画界の期待の新星・篠田千瑛ちあき(清原果耶)もいるが、どうやら祖父との間に確執があるようだ。そして、霜介もまた、誰にも語らない心の傷を抱えている様子が窺える。

何もかもが新鮮な水墨画の世界

水墨画を教わるといっても、墨を擦ってはダメ出しされるばかりの霜介。こちらにも墨の匂いが漂ってきそうな映像。

水墨画は筆のなかに濃さの違う墨をふくませ、一気に線を描き出す。蘭・竹・梅・菊四君子と呼ばれ、初心者はこれで基本を学ぶ。筆を引いたり、割ったり、ひねったり、点を打ったり。その運筆を眺めているだけで面白い。

霜介の部屋には、水墨画の線を描いては捨てた大量の紙が、サイコパスのように散乱している。彼が最初に描いた一枚には、湖山の直筆によるその絵の感想の詞が書かれている。「画賛」といわれるものらしい。水墨画について知見がないため、何もかも新鮮で楽しい。

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

小泉徳宏監督といえば本作同様に滋賀県でロケした『ちはやふる』三部作で知られるが(私は『ガチ☆ボーイ』推し)、同じ和文化でも、今回は<かるた>から<水墨画>へ。

ただし競技ではないので『ちはやふる』のようなライバルとの対戦モードのような演出は一切なく、あくまで、描きたいものの本質をとらえて、自分だけの一本の線を引くことの難しさや素晴らしさを伝えようとしている。

原作由来なのだろうが、いたずらにエンタメ路線に走らず、水墨画との出会いで再生しようとする若者を描いている点に、好感が持てる。

映画『線は、僕を描く』予告【10月21日(金)公開】

キャスティングについて

本作はキャスティングも見事だ。老若男女を問わず、全幅の信頼がおけるメンバ―編成。

主人公・青山霜介を演じた横浜流星は、2022年に既に『嘘喰い』(中田秀夫監督)と『アキラとあきら』(三木孝浩監督)に主演し『流浪の月』(李相日監督)でもDV男を演じるなど、演じるキャラの守備範囲が実に広い。ただのイケメン俳優ではないことは、本作の抑えた演技からも十分に伝わってくる。

そしてヒロインの千瑛には、『愛唄 -約束のナクヒト-』(2019、川村泰祐監督)でも横浜流星と共演した清原果耶。若手の中では抜群の演技力の女優であるが、千瑛のような芯の強い女性役は最も得意とするところ。『ちはやふる 結び』(2018)では既に小泉監督とも組んでいる。

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

巨匠の湖山先生に三浦友和は意外に思われたが、丸眼鏡に長髪でいつもと雰囲気が違うけれど、どうみても水墨画の大家にみえるのはさすが。

三浦友和は元々の善人役も、途中から路線を変えての悪人役もうまいのだけれど、今回のどっちつかずの役もまたいいのだ。かれがどっしり構えているから、一番弟子・湖峰役の江口洋介が動きのある役に感じられ、最近の役にしては随分若く見える。

霜介の大学の親友に、古前巧(細田佳央太)川岸美嘉(河合優実)がいる。はじめに霜介と湖山が出会うきっかけを作ったのもこの二人のようだし、千瑛に大学で水墨画の紹介をしてもらい、水墨画同好サークルまで立ち上げてしまうなど、この二人も結構ドラマに噛みこんでいる。

細田佳央太『町田くんの世界』(2019、石井裕也監督)の初主演以来、純朴でいい奴キャラの若者をやらせたら右に出る者はいない。坂元裕二『花束みたいな恋をした』(2021)では清原果耶と若いカップルを演じている。

一方の河合優実は、昨年からこっち、邦画を観れば7割の高確率で登場するくらいに感じられる活躍ぶり。女子高生役が多いとはいえ、そのキャラは変幻自在。本作はいつもの役どころに比べると、若干おとなしい気がした。

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

最後に、湖山先生と並ぶ水墨画界の巨匠・藤堂翠山役の富田靖子。今は現役を退いて評論家ということのようだが、そのため彼女にはまったく水墨画を描くシーンがないのがちょっと残念

というのも、せっかくの富田靖子なのに、思いっきり偏屈で性格の曲がった評論家というのでもないし、かといって優しい善人キャラでもない。ここはもう少しどっちかに振った人物像にしてくれると、しっくりくるような気がした。

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

霜介を苦しめる過去の不幸

冒頭のシーンで、霜介はなぜ千瑛の椿の絵に涙したか

彼は大学に進学し、親元を離れて独り暮らしをした。だが、実家のそばを流れる川が氾濫し、彼が友人たちとカラオケで興じている頃に、両親と妹は自宅ごと流されて亡くなってしまう。

両親と霜介は、家を出た際に喧嘩したまま。そして妹が流される間際にかけてきた電話でさえ、そうとは知らず無視してしまった。こうして彼は家族を失い、同時に生きる気力も失った

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思い出すのは苦しい、でも忘れたくない。前に進めない霜介。彼は千瑛の絵に、家の庭にあった椿を思い出したのだった。そして色のない水墨画の世界に引き込まれるうちに、少しずつ彼は前を向き始める。

湖山先生の揮毫も素晴らしいが、晴れの舞台で突如失踪した師匠に代わって、その場で急遽、堂々と揮毫を披露してみせる湖峰(江口洋介)もまたカッコいい。彼の絵はまた湖山の筆とは異なる線だ。

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

自分の「線」をさがせ

誰かの線を真似ることで、<悪くない絵は描けるが、それは自分の絵ではない。描きたいものの本質を見抜いて、自分だけの線を探すのだ。その線が、自分を作る。だから、「線は、僕を描く」というタイトルなのだと知る。

そして、霜介を心配する古前巧(細田佳央太)が彼の背中を押す。

「俺はお前の家族兄弟じゃないが、何年も立ち止まったままのお前を、家族は望んでないと思うよ」

(C)砥上裕將/講談社 (C)2022映画「線は、僕を描く」製作委員会

こうして霜介は、自分の線をみつけようと立ち上がる。千瑛に付き合ってもらい、災害後に初めて訪れた実家の跡地は、ただの荒れ地のままで区画さえ判然としない。だが、そこに椿の木が残っていた。

ちょっと作為的すぎではあるが、けなげに生きる霜介と千瑛を前に、このくらいのドラマはあってもいい。

このうぶな二人の間に、恋愛要素を盛り込まなかったのは正解だった。それでは本題がぼやけてしまう。

「好きです、千瑛さんの絵が」
「私も、青山君の絵が好き」

ああ、もはや恋におちているのも同然か。

(追記)原作を読んで

砥上裕將の原作を読んでみた。意外と映画には独自の工夫がなされており、揮毫会の出てくる場面や家が流された過去など、原作よりもドラマティックに味付けされている。

この小泉徳宏監督のアレンジは、原作者も納得できるのではないか。安易に原作をたどるだけの映画にしていないのは好感が持てる。

水墨画の美しさと難しさは、実物を見せられる映画の方が伝わりやすいだろう。だが、それとてたやすい訳ではないし、また、原作者の砥上裕將はそれをしっかりと文字で表現しようとしている。どちらもきちんとした仕事をしていると畏れ入った。